前夜ッッ!!
深夜、私とリリィが同室で眠っていると、扉をノックする音がして、目が冷めた。
寝ぼけ眼を擦りながら、開けられた扉を見やると、ガラブラが立っていた。
「あ、寝てたか」
「うわぁ! な、なに!? 夜這い!?」
「んなわけないだろ」
「このロリコン! ロリコンロリコン!!」
私の声でリリィが起きた。
「むにゃむにゃ……どうしたのコノエちゃん。あ、ガラブラさん。も〜、男の人が女の子の部屋に勝手に入っちゃダメなんですよ」
冷静すぎないかこの小娘。
私のほうが子供みたいじゃん。
いやいや、私の反応が正しいはず。巨漢の成人男性が14歳の乙女の寝込みを襲ったのなら、むしろもっと騒ぐべきなのだ!
ガラブラは深くため息をつき、退室しながら告げた。
「作戦決行は2日後の4時ジャスト。詳細はまた伝える」
「あ、はい……」
え、終わり? ちょちょちょ、用件短すぎじゃない?
やっぱりこいつ、私たちに邪なことをするために来たんだな。
これだから男は信用ならないのだ。
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同時刻。
ラズは玉座に腰掛けながら、物思いにふけていた。
テスカに変化が起きている。
人間でもあるマイカと接触したらどうなるのか興味があったが、まさか、あれほど入れ込んでしまうとは。
だが、不愉快ではない。
むしろラズは、喜ばしさを感じていた。
子のように扱っていた存在が何かに執着し、悩み、自身を見つめる、成長への一連の過程、その一つ一つを見守るのが愉快でたまらない。
「しかし、困ったな……」
ドラゴノイド同士の恋愛など聞いたことがない。
仮に添い遂げて、何をする?
ドラゴノイドは人間への復讐の産物。破壊は得意でも、生み出すのは得意ではない。
生殖できないのだ。
呪いがなければドラゴノイドは誕生しない。
そして人間ではないので人は産めないし、同様に完全なドラゴンでもないのでドラゴンは産めない。
だからあのような回りくどい方法でしか仲間を増やせないのだ。
「なんだかな」
ラズは改めて自分たちの特徴を再確認すると、もやもやした気分になった。
そう、ドラゴノイドは何も残せない。ただ、人間を粛清するために生きている。
ドラゴンたちの恨みを晴らし、やがてはドラゴンの世界を作る。
そのために戦っている。食だけでなく、私利私欲で他の生命を殺す人間に代わるため。
しかし、しかしだ、ドラゴン共はラズたちを半竜半人の半端者と忌み嫌う。
女王の介護を押し付け、洞窟に置いてけぼりにしたやつら。女王ですら、ドラゴノイドの宿命である「人の殺害」を否定する。存在理由を否定する。
そんな者たちに尽くす理由が、本当にあるのか?
ならば創造すべきはドラゴノイドの世界。
テスカのような、心のあるドラゴノイドに優しい世界。
ドラゴノイドは不完全で、人間とドラゴンの両者がいなければ誕生できないか弱い生物。
それでも。
「やってやるさ。生物は進化するもの」
テスカとマイカの間に芽生えた感情は、進化の兆しと捉えるべきなのだ。
ドラゴノイドだって生きている。愛し、守るために生きたっていい。
守り、増やし、この手で作ってみせる。
ドラゴノイドが頂点に立つ世界を。
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日が暮れる頃、私とリリィは作戦に参加するため、非常食や水をバッグに入れていた。
特に私は銃を扱うので、メンテナンスに不備がないかもチェックしなくてはならない。
準備を済ませ、宿を出る。
外にはレンカとクローノがいた。ガラブラとケイス、オニトはまだらしい。
リリィは真剣な眼差しで遠くを見つめた後、レンカを見やった。
「必ずマイカちゃんを助けましょう」
「うん! だけど、自分の身を最優先にね。私はお姉ちゃんだから、死んでもマイカを救出するけど」
それじゃ火に油でしょうに。
まあ、万が一が起きたら、私がリリィを守るけど。
クローノに問う。
「ガラブラが言ってた最終兵器って、結局どうなったの〜?」
クローノの表情が固まった。
「……ありゃガラブラの嘘じゃ。そんなもんはない。忘れてしまえ」
「なんじゃそりゃ」
「その代わりじゃが、事態を重く見た国が秘密裏に特殊部隊を派遣してくれるらしい。現地で合流じゃ」
「よかった。私らだけじゃ心持たないし」
クローノ曰く、特殊部隊とやらはバチバチに武装した対テロ組織なんだとか。
きっと銃や爆弾とかの近代兵器のスペシャリストたちなんだろうな。
うわ、そんな人たちに囲まれながら私も銃使うんだ。
大人に紛れて知ったか知識で社会を語る子供みたいな気分。
「頑張ろうね、リリィ」
「……うん」
リリィは私を見ずに、うなずいた。
頭の中はドラゴノイドでいっぱいのようである。
伝えたい思いは山程あるが、いま口にしたところで、受け流されてしまうかもしれない。
なら、私も予定通り、リリィのフォローだけに集中しよう。
大丈夫。私だって覚悟を決めているんだ。もう怖がったりしない。怯えて逃げたりしない。
日が沈む。
今度太陽がてっぺんに登ったとき、私はリリィと笑い合っていると願いたい。




