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戦争ッッ!!

 リリィが修行を始めてから2日。

 おじさんとリリィのお母さんは、大人として生きていく上での止むに止まれぬ事情により一旦故郷に帰ってしまった。

 

 二人を見送りしたあと、私はクローノたちの動向が気になり、彼らが宿泊している宿を訪ねた。


「よお、お嬢ちゃん。まだここにいたんじゃな」


 部屋にはクローノの他に、ガラブラやケイス、レンカと全員が揃っていた。

 私がリリィの決断を語ると、思ったよりも反応は薄く、拍子抜けしてしまった。

 なんだか私らのことなど、どうでもいいみたいである。


 巨漢のガラブラが私を睨む。


「部外者は出ていけ」


 と、クローノが宥めた。


「彼女も関係者じゃよ」


「ジジイ、面白がってんな」


「ホッホッホ。やる気があるっちゅうなら無下にはしない主義なのじゃ」


 というわけで、私はその場に留まることになった。

 ガラブラがわざとらしく咳払いをする。


「さて、話の続きだ。昨日、俺とレンカで山岳地帯を調査し、奴らが使っていた洞窟を発見した。残念ながら、奴らは入れ違いで拠点を変えたようだ。洞窟には親玉だっただろうドラゴンの遺体がどどんとあったよ」


 仲間割れでもしたのだろうか。

 ドラゴノイドたちは仲間思いな連中だと思っていたが、案外そうでもないってことか?

 あの冷酷なラズなら、わからなくもないが。

 ふとレンカを見やると、酷く落ち込んでいた。

 マイカがいなかったからだろう。

 でも、マイカの遺体などがないのなら十中八九無事ということでもある。


 クローノが問う。


「被害はどうじゃ?」


「広がってるな。昨日一昨日と何人か妊婦が行方不明になっている。おそらく奴らだ」


「ん〜? あいつらってその場で殺すんじゃないんですか〜?」


「お前から聞いた報告ではな。しかし移転に内部分裂と、あいつらの中でも変化が起きている。やり口を変えざるを得ない出来事があったとしてもおかしくない」


「ていうか、そんなに被害出てるなら、警察とか軍隊とか動かないのかな〜」


「それには同意見だが、難しいな。ドラゴノイド、つまりドラゴンは一応聖獣扱い。国が軍を動かして殲滅するとなれば、世論からのバッシングは免れない。といっても、ずっとだんまり決め込むわけもないだろう」


 つまり複雑な大人社会のせいらしい。

 私はたくさん映画を見ているので知っている。大人社会には様々な思惑や、善意を利用した悪巧みが溢れているのだ。

 ひっひっひ、私の好きな人間の闇というやつである。


 で、とレンカが口を開いた。


「紹介したい方がいるの。私とガラブラさんで接触して、協力を得られた人」


 レンカが手を叩くと、別室から青色のドラゴノイドが入ってきた。

 なんでここに敵が!?

 わわわと情けない声を出しながら、咄嗟にピストルを取り出した。

 すると、ドラゴノイドは「ぬわあ!」と私より情けなく怯えてうずくまった。


「え?」


 レンカが苦笑し、私の手を抑える。


「安心して、彼はどっちかといえばマイカ側だから」


「じゃ、じゃあ心は人間ってこと〜?」


「一応、れっきとしたドラゴノイドらしいんだけど……」


 もう一度ドラゴノイドを見やると、私の視線にビクついて部屋の隅に逃げてしまった。


「な、なんで俺を見る!」


「なんでって、気になるから〜?」


「き、気になる? なんで!? まさか気になる→イラつく→殺したくなる→まずは四肢を削ぐ。とかなっちゃうの!!??」


 なにこいつめんどくさ。


 一体全体、なにがどうなって敵のドラゴノイドが味方になったのか。そもそも信用できるのか。

 疑いは晴れない。


「本当に仲間なの〜? 裏切るんじゃない〜?」


「う、裏切るか! 俺はあんなやつらと一緒にいたくないんだよ!! とくにあのラズ、目付きが猟奇的だし話しかけただけで殺してきそうで怖いんだ」


「めっちゃビビリだね」


「あいつらほっといて洞窟に残ったら人間に見つかっちゃったし、仲間にならなきゃ地の果てまで追いかけるとか脅されたし、散々だよちくしょう!」


 ガラブラを一瞥すると、にやりと不敵に笑っていた。

 悪い大人である。


「これからこいつに……おい、名前なんだ」


「オニトだよ!! もう3回教えてるぞ! はっ! 名前すぐ忘れちゃう⇢俺の存在を忘れる⇢ドラゴノイドなのでとりあえず殺しとく。って流れか!?」


「これからはオニトからドラゴノイドたちの情報を引き出す。とりあえず、以上!」


「無視かよ!」


 私が部屋を出ると、ガラブラが追いかけてきた。


「なによ〜」


「お前、本当にいいのか。これは悪人退治なんて生易しいものじゃない。……お前、俺たちがギルドから何を依頼されてるか知っているのか?」


「おじさんが出した依頼書にはドラゴンの調査って書いてあったし、そうなんじゃないの〜? 結果的にマイカを助ける流れになったけど」


 ガラブラは呆れたようにため息をついた。

 その反応からするに、どうやらギルド側が依頼内容を変更したようだ。


「危険生物の無力化、もしくは殲滅。つまり、戦争だぞ」


「お、大げさじゃ?」


「大げさなものか。人間と、それに並びうる生物の生存競争。下手すれば、どちらかが絶滅するまで続くかもしれない」


「絶滅って、なにもそこまで……」


「子供にはわからんさ。とにかく、ちょっとくらい臆病でいろよ。生き延びたければな」


 当初のガラブラの印象は素行の悪い癇癪持ちだと感じていたが、実は結構、優しいところがあるようだ。

 戦争。その二文字が脳で反復する。

 たしかにすでに向こうは私たちの仲間であるシエリスを殺めている。正直、私だってドラゴノイドたちには罰を受けてほしいと思ってしまっていた。

 が、逆に私たちがドラゴノイドを殺害してしまえば今度は向こうが私たちをーー。


「勝てるの、私たちは」


「俺はいつだって100%勝つつもりでやる。秘密兵器の準備も整いつつあるし」


「秘密兵器? マシンガンとか?」


 ガラブラは小馬鹿にしたような、だけどどこか悲しげな瞳で私を見つめ、背を向けた。

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