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化け物ッッ!!

 私が部屋に戻ると、リリィはなにやら深く考え込んでいた。

 ララァに何があったのか訪ねてみると、どうやら手っ取り早く強くなるために、一つの魔法を覚えるのに集中させるらしい。なのでどんな魔法を覚えるか、深く掘り下げているのだとか。


 リリィが答えた。


「未来が見えるようになる、とか。相手が何をしてくるのかわかれば……」


「うふふ、未来予知の魔法は十数年修行しなきゃ習得できないわ。でも、それに近しい魔法ならあるわ」


「ど、どんな!?」


「本当にいいの? と〜っても危険よ?」


「いい!!」


 ララァさんがリリィの瞳をじっと見つめた。

 

「一つ約束してね。周りの人たちがダメと言ったら、従うこと」


「うん」


 その後、リリィは母親から『察知の魔法』を教わった。

 といっても、すぐに使えるようになるわけじゃない。何度も練習する必要がある。

 その間、私には何ができるだろう。クローノさんたちの動向が気になる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 半日前。まだ日付が変わって間もない深夜。

 気を失っていたマイカが目を覚ますと、ヘイムにおぶられ、高速で森の中を突き進んでいた。


「ひっ!」


「あ、起きたか」


「離し、て……」


 手足を動かして無理やり降りようとするが、思うように体が動かない。

 力が入らなかった。


「麻痺効果のある木の実を食わせた。おかげで、それ探すのに結構寄り道しちまったが、お前が熟睡してくれてて助かったぜ」


 抗うことすらできず、マイカの脳は気絶させられた直前の記憶を掘り起こした。

 そして思い出す。シエリスがラズの手によって殺害されたことを。

 湧き上がる怒りと悲しみが、役に立たない肉体へと虚しく散っていく。


「なにが目的なんですか」


「さてね。俺はただラズに従うだけだよ。他にやることないし」


 やがて彼らのアジトである洞窟に着くと、あの忌まわしいラズと灰色のドラゴノイド、テスカ、その他何人かのドラゴノイドや小型のドラゴンたちがいた。

 彼らの前には巨大なドラゴンがいて、マイカはその重厚かつ神秘的な姿に息を呑む。


 ラズがヘイムとマイカに気づいた。


「遅かったなヘイム」


「お前がいきなりこいつ押し付けるから一苦労してたんだよ」


 ドラゴンの女王がラズに怒号を放つ。


「話はまだ終わっていません!! たかが同胞の一人の分際で、何様か!!」


「ならあなたは差し詰め、裸の王様といったところですか」


「こいつ!」


 瞬間、女王の視線がマイカへ揺らいだ。


「まさか……ハク?」


 ハク、その名にマイカは聞き覚えがあった。

 妙にしっくりきて、自分を指している前提で耳に響く名。

 でも、マイカはマイカである。彼女の両親がつけてくれた大切な、唯一の名。

 なのにハクという名前に反応してしまうのは、もしかしたら、自分の中にいるもう一つの魂がーー。


 女王の声にぬくもりが乗った。


「あああ! 半竜半人となり帰ってきたのね。我が愛しの愛娘よ」


 途端、ラズの肉体に殺意が漲った。

 女王の娘、まさか自身の立場を脅かしかねない存在を連れてきてしまうとは、思いもしなかった。

 ラズは、女王が病に伏せているからこそ代わりに政を仕切っていただけにすぎないのだ。

 マイカを殺すか。一瞬脳裏に過ぎったが、地金の冷淡さが熱を冷ました。


 むしろ、利用できるのでは? それに彼女は人間の意志が残ったままの稀有な事例、簡単に手放すのは、惜しい気がする。

 ならば、むしろ殺すのは。


「女王、ずいぶん耄碌している様子。休まれては?」


「黙りなさい、痴れ者!!」


「……死にかけの分際で」


 それが女王の逆鱗に触れた。


「同胞だからと甘やかし、キサマを生かしておいたのが間違いだった!! 私自ら引導を渡してやる!」


 衰えきったはずの女王の圧が膨れ上がった。

 さすがの圧倒感にラズも構え、額から汗を流す。


「おやおや、これはとんだご無礼を」


 マイカではなく女王を殺すのも手。そう決意した矢先に機会が訪れるとは。

 もっと効率よく殺すつもりであったし、ここで殺ってしまっては仲間たちからの印象も悪くなるだろうが、仕方がない。


 そのとき、ずっと傍観を貫いていたテスカがラズを守るように女王の前に立ちふさがった。


「退け小僧!」


「テスカ、どうした?」


「あんたは俺に餌をくれる。俺はもっと生きたい」


 女王の口内が眩く光る。


「ならばお前ごと、消え失せろ!」


 光弾を発射されようとした刹那、テスカが女王に突進し、腹を貫いた。

 さらにテスカは女王の頭部に乗ると、握った拳にエネルギーを溜め込み、


「お前、うるさいだけだな」


 女王の頭に拳をめり込ませ、溜めたエネルギーを一気に放った。

 女王の頭部が破裂する。


 唖然としていたラズの頬が、何者かに叩かれた。

 女王の頭の上にいたはずのテスカであった。


「お前は俺に飯をくれる親だ。しっかりしろ」


「あ、あぁ……」


 ラズは内心、女王に返り討ちにされるかもと不安があった。それほどに女王は強い。全盛期であったら容易く瞬殺されていただろう。

 それを、瞬く間に倒したテスカの化け物じみた強さ。なにより、ラズはテスカのビンタが、見えなかった。


 ラズが微笑む。


 こいつは誰よりも強くなる。私たちの救世主になれる。

 育てるのが楽しみだ!!

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