イエスマンッッ!!
強くなる。そのための手段として真っ先に思いつくのは、腕立て伏せだ。
なんとなーく筋トレ=腕立て伏せのイメージがあって、腕立て伏せしてれば世界チャンピオンにもなれるんじゃないかとか思ってしまう。
筋トレ舐めんなよと怒られそうだけど、しょうがないじゃん。私は筋トレとは縁もゆかりもない女子なんだから。
それはリリィも同じで、つまりは、
「じゅういち……じゅう……に……じゅ、じゅう〜」
リリィはゴミみたいな筋力でひたすら腕立て伏せをやってるのです。
「どぅわああ!! もう無理、腕が動かないよお!」
仰向けで横たわるリリィに、そっと水を差し出す。
「ありがとう!」
「ていうかさ、冷静に考えてみたら魔法少女に筋力いる〜?」
「なにごとも筋肉が大事なんだよ!! きっと!!」
「きっと、ってねえ〜。う〜ん、たとえばめっちゃ強い魔法を覚えるとかさ〜」
「はっ! たしかに……あれ? でも私アイドル目指してるんだし、筋力ないとダンスもできないんじゃ?」
「あそっか、アイドル志望だったね〜」
「忘れたの!? ひどいよ〜」
リリィがぷんぷんと怒り出す。
この喜怒哀楽の激しい感じ、いつものリリィだ。
この子は落ち込むと酷いが、立ち直ったときの回復力が高いのだ。
「でもいまは、ドラゴノイドに集中しないと。シエリスさんのために……」
一瞬、リリィの瞳に闇が宿った気がした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
数時間後、私たちが借りている部屋にお客さんがやってきた。
「おお〜! お前ら、無事か?」
奴隷商人おじさんである。
私たちを地元に帰すために迎えに来てくれたのである。
「悪いんだけど〜、カクカクシカジカで残ることにしたんだよね〜」
「えぇ……。だ、大丈夫なのか?」
「わかんな〜い」
「わかんないってな。わかんないが許されるのは子供までだぞ!」
子供ですので許してくださ〜い。
すると、おじさんは大仰にため息をつき、腕を組んだ。
「まあお前らは頑固だからしょうがないか……ってなるか!! いいから帰るぞ!! お前らにもしものことがあったらどうする」
「いっつも悪いことに私ら巻き込んでるくせに〜」
「それはそれ、これはこれだ。しょうがない、こんなこともあろうかと用意した最終兵器を使うか。入れ!」
おじさんの呼びかけに応じ、エレガントな女性が入ってきた。
ふわっとした雰囲気で、いつもニコニコしている気品がある大人の女性、この人は、
「ママ!」
「リリィ、元気そうね」
リリィのお母さん、ララァである。
「ママ〜!」
リリィがララァさんに抱きつく。リリィはお母さんが大好きなマザコンなのである。
「うふふ、リリィ〜」
「ママ〜」
「コノエちゃんも久しぶりね」
「ど、ども」
ゆるふわな空気に、おじさんがキレた。
「おいララァ! いいからこいつらを説得しろ!」
「は〜い。わかってますよお、兄さん。……リリィ、兄さんの言う通りにーー」
「ママ! 折り入ってお願いがあります!」
「な〜に?」
「私に強い魔法を教えて下さい!!」
「うふふ、いいわよ〜」
「やったあ! ママ大好き!!」
あー、えっと。相変わらずこの親子の会話はテンポが早すぎるな。
仕方ないので私が解説します。
まず第一に、ララァさんはとびっきりのイエスマンなのだ。
なんにでもOKだしちゃう、ある意味危ない人。
そんでもって、ララァさんも魔法少女(少女?)だったりする。
「どんな魔法を知りたいの?」
「ま、待てララァ! 説得しろよ二人を」
「はいは〜い。リリィ、コノエちゃん、一旦家に帰ってーー」
「ママ! 誰にも負けない魔法が知りたい!!」
「言いわよ〜」
「だからララァ!! 俺の話を聞けって!」
「は〜い」
……疲れるなあ、ここにいるの。
とりあえず、このままだと埒が明かないので、私はおじさんを部屋の外に連れ出した。
「おじさんお願い。私がリリィをセーブするから」
「でもなあ。今回の件、もとを正せば俺があんな依頼を出したのが原因。これ以上お前らを巻き込むわけには……」
「見方を変えれば、おじさんが依頼を出したからドラゴノイドたちの存在にギルドが気づけた、でしょ〜? てか、仮に連れて帰ってもリリィは戻るよ。諦めが悪いの知ってるでしょ?」
「はぁ、困ったもんだ。……悪かったな、俺のせいで」
「それ、リリィには禁句ね。おじさんにも辛い思いさせたとかなんとか考えて、余計に落ち込むだけだから」
どうにかおじさんを説き伏せ、私は部屋に戻った。




