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再熱ッッ!!

 翌朝、私たちは街の宿で部屋を借りていた。

 あのあと、私は街に戻ってリリィを休ませ、電話でおじさんに再度連絡を入れた。

 おじさんは精いっぱい優しい言葉をくれて、すぐに迎えに来ると告げてくれた。


 朝日が痛い。


 足はまだ震えている。


 リリィが目を覚ました。


「コノエちゃん」


「リリィ」


 リリィが虚ろな瞳で顔を伏せる。


「私……私のせいで……私がじっとここで待っていれば」


「外に出よう」


「え?」


「外の空気を吸おう」



 気分転換のため、私はリリィを無理やり外に連れ出した。

 適当な公園のベンチに腰掛け、空を見上げる。

 幸いにも、今日の天気は気持ちのいいくらいの晴天であった。


「リリィ、あとはおじさんに任せよう。家に帰って、ゆっくり休もう」


「……」


 うん。とリリィが頷きかけたそのとき、


「その前に、話を聞かせてもらおうかの」


 数人の男女が私たちの前に現れた。


「あんた達は……」


 柔術使いの老人、クローノ。

 怪力自慢の巨漢、ガラブラ。

 クローノの孫弟子、ケイス。

 そして、マイカの姉、レンカ。


 かつてパンチラシヨンで優勝を競い合った、格闘家たちである。


 突然の再会に驚いていると、レンカが心配に満ちた顔で私にすがってきた。


「マイカは? あの子はどこ!?」


 なんと答えればいいかわからず、黙ってしまう。

 敵に連れ去られたと話せば余計に不安にさせてしまうのか。この話を掘り起こしてしまうとリリィが罪悪感に打ちひしがれるのではないか。

 適切な言葉を探していると、クローノがレンカの肩を叩いた。


「ギルドからの報告通りじゃよ。マイカちゃんはドラゴノイドに連れ去られた。そして、ワシらの仲間は……」


 まだ子供のケイスが泣き出す。


「信じらんねえよ。あのシエリスさんが……」


 彼とクローノは、シエリスの古くからの仲間である。

 彼女を失った悲しみは、私たちより重いだろう。


 私はリリィと顔を合わせた。

 いったい、いまがどういう状況なのかわからない。

 彼らはどうして、いきなり現れたのか。

 私たちの疑問に答えるよう、ガラブラが睨んだ。


「ギルドからの応援だ。本当なら来週来る予定だったが、急げと催促されてな」


「ど、どうして?」


「お前から依頼主の奴隷商人に、そこからギルドに、そして俺たちに、昨夜の出来事が知らされた」


 クローノが続ける。


「マイカちゃんはワシらが救出する。すぐに、とはできんがな」


「でも……」


「でもなんじゃ? ワシらじゃ力不足だと?」


 彼らは強い。それは充分理解している。

 だがあの化け物は、それ以上の。


「安心せい。直にリュウトも合流する」


 勇者リュウトといえば、クローノの弟子であり、ケイスの師。

 一度は最強の格闘家として栄光を掴んだ勇者である。


「あやつは大会の頃とは違うぞ。なにより、シエリスの子の親は、あやつじゃからな」


 クローノが言い終わった瞬間、リリィの呼吸が荒くなった。

 自分の両腕を抱きしめ、震えだしている。


「そうだ、そうなんだ。私のせいで、シエリスさんだけじゃなくて、子供も」


「ま、待ってリリィ!!」


 これ以上自分を追い詰めさせたくない。

 どうにかポジティブな言葉で励まそうとしたとき、クローノがホホホと笑った。


「ま、そうじゃな。お主に責任はある。が、全部ではない。亡人にムチは打ちたくないが、シエリス本人のせいでもあるのじゃ。状況を見誤ったのじゃよ」


「でも、シエリスさんは、本当はついてきたくなかったんです。子供がいたから。なのに、私が頼りないから無理して……」


「それもまた真実。しっかり反省し、精進することじゃな」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 クローノたちがいなくなったあと、リリィはぐっと何かを堪えて唇を噛んでいた。

 なにを思っているのか、聞かなくてもわかる。

 それでも、私はーー。


「リリィ、帰ろう」


「コノエちゃん……私……」


「なにも言わないで」


 彼女の瞳に黒い炎が宿ったのを、私は見逃さなかった。


「私のせいでこんなことになったなら、せめて、私が責任を取る。でないと、私が私を許せない」


「でも危ないじゃん。私らじゃドラゴノイドに勝てないよ」


「強くなる。もっと、もっと! シエリスさんのために!!」


「だけど……」


 これ以上ダメだ危険だと忠告したところで、きっと無駄なのだろう。

 感情的でバカ。リリィはそういう子だから。

 いっそ大っ嫌いになれたらどれだけ楽か。

 それでも、彼女の太陽のような優しく眩しい輝きが愛おしくて、大好きなのである。

 じゃあもう、どうしようもない。


「なら、私も戦うよ」


「ダメだよコノエちゃん!! 私だけでいい!! もし今度はコノエちゃんになにかあったら、私!」


 外で抱きつくのは恥ずかしい。さんざんその羞恥を嫌がったのに、いまは抑えきれなくて、私はリリィを抱きしめた。


「リリィと離れるほうが嫌だよ。リリィが決めたなら、私も側にいる。いつだってリリィを支えてあげる」


「そんな……」


「私が心配なら、無茶はしないこと。やばくなったらすぐ逃げる。大人の判断に従う。いい?」


 リリィはそっと両腕で私を包み、感謝の雫をこぼした。

 復讐し、マイカを取り返す。

 そのためなら、リリィのためなら、死んだって構わない。

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