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誕生ッッ!!

「ああああああああ!!!!!!」


 リリィが叫んだ。

 シエリスの頭部が転がり、遺体が倒れていく。

 その腹を掻っ捌き、灰色の腕が現れた。

 気だるそうに、朝が弱い者の寝起きのように、ゆったりと腹から地面へ這って出た幼いドラゴノイドを、ラズが注視した。


「こいつ……このままだと死ぬな」


 前回、この方法を産まれたドラゴノイドは、たとえ胎児であろうともすぐに大人の体へと成長していた。

 おそらく、呪いを強制発動させた影響なのだろう。

 しかし目の前のドラゴノイドは、幼児程度の大きさまでしか成長していないのだ。

 

 ラズは灰色のドラゴノイドの首を掴み、マイカと戦っているヘイムの方を向いた。


「こいつに餌をやる。お前は先に戻っていろ」


 ヘイムはマイカの腹を殴り、気絶させた。


「あぁ、ちょうど終わったし、また後でな」


 ヘイムがマイカを肩で担ぐと、森の闇の中へ消えていく。


「マイカッ!」


 追いかけようとした瞬間、背後からラズの殺気を感じ、足が竦んだ。


「ちょうどいい餌があって助かった。ほら、食っていいぞ」


 ラズが灰色のドラゴノイドを私の方へ投げた。

 しかし灰色のドラゴノイドは食いかかるどころか、立つことすらできていない。

 よほどの虚弱。これではラズの言う通り、まもなく餓死するかもしれない。

 

 さすがのラズも困り果てた。


「まいったな。どうするか」


 注意が逸れている。逃げるならいましかない。

 マイカを追いかけたい気持ちより、助かりたい生存本能が勝っている惨めさ。

 でも、逃げたいのだ。生きたいのだ。死にたくないのだ!!


「リリィ!!」


 放心状態のリリィを抱きかかえ、全速力で走り出す。

 追いかけてくるな、早く街に着けと祈りながら。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 取り残されたラズがため息をつく。


「逃げたか。うーん。たった二匹のために追いかけるよりは……」


 集落のある方角へ振り返る。


「予定通りに行こう」


 ラズは灰色のドラゴノイドの首を掴むと、走り出した。


 二人が集落に着くと、異様な気配を感じた住人が武器と明かりを持って集まってきた。


「何者だ! お前が山に住み着いたバケモンか!」


 どうやら、別の集落に起きた惨劇をすでに知り得ているようである。


 瞬間、威嚇した男性の四肢がラズによって切り裂かれた。


 ダルマとなった男に灰色のドラゴノイドを投げる。


「ほら、食べやすいだろう。たらふく食えよ。……ここには」


 ラズは、驚倒し完全に硬直していた周囲の人間たちを、同様に切っていった。


「餌がたくさんある」


 と、灰色のドラゴノイドは男の臭いを嗅ぎ、新鮮な餌に食らいついた。

 男の悲鳴を耳にしながら、一口、また一口と肉を食う。

 その度に体が大きくなり、纏う邪悪な気配も増していった。


 ラズはそれを見つめながら、笑みをこぼす。


「なるほど、こいつ、面白いな」


 餌を食べて生存のエネルギーを得たことで、生きるために使われていた力が成長に回ったのである。

 本来とっくに死んでいたはずの命。それを長らく保っていたパワーは底知れない。

 なんという生存本能。こいつは、強くなる!!


「この私よりも、もしかしたら……」


 食事を終えた灰色のドラゴノイドは、大きくなった肉体で、しっかりと立ち上がった。


 しばしぼーっと地を見つめた後、ラズを見やる。


「お前は?」


「ラズ。お前の……親だと思えばいい」


「じゃあ、俺は?」


「お前? そうだな、名前がいるか。うーん、じゃあ…………テスカ」


「?」


「テスカでいい。お前の名前だ」


「テスカ?」


「さあ、住処に行こう。……その前に」


 ラズの視線が、泣き叫ぶ四肢なき人間たちを見渡した。


「残さず食えよ。はは、別にありがたいものでもないが」

芹子・旅日記


○月✕日 △曜日(晴れ)


きょうは、ひきょうのろてん風呂に入りました。

ジャグジーがなかったので気持ちよくありませんでした。

やっぱり田舎はダメですね。


せりこ


先生からの一言「立派なクズ人間に育ちましたね」

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