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女王ッッ!!

 山岳地帯から離れた小さな街。

 そこで奴隷商人のおじさんに電話し、可能な限りきちんとした言葉ですべてを伝えた。

 詳細に、漏れなく、というより、どこを取捨選択していいか分からなかったので、本当に全部伝えた。


 おじさんからギルドに連絡してもらい、私たちは、借りた宿で小休止を取ることにした。


 シエリスがマイカに問いかける。


「人間の意思が残っているって、珍しいの?」


「はい。私も呪いを受けた身として、いろいろ勉強しました。普通はドラゴンの魂に完全に乗っ取られるそうです。元の人間の魂は、その際、完全に消えるとされています」


 マイカがドラゴンに乗っ取られずに済んだのは、パンチラシヨンにて彼女の姉、レンカとの戦いで得た強い意志のおかげである。


 今度は私がリリィに質した。


「これからどうする? おじさんが曰く、数日後には応援が来るらしいけど」


「うん。でも……」


 リリィは唇を噛むと、目を伏せながら答えた。


「数日後、なんて遅すぎるよ。こうしているうちにも、もっと人が襲われてるかも」


「……もう一度行って、残った奴らも倒すってこと?」


 リリィは黙って頷いた。

 確かに、私たちなら倒せない相手ではない。

 あくまでも、数が少なければ、であるが。

 向こうの戦力が如何ほどなのかわからない以上下手に手はだせない。

 が、だからといって応援を待っているのももどかしい。


「あいつらが妊婦さんを殺して仲間を増やしたのって、どういう理屈なんだろ」


 私の疑問にマイカが答えた。


「たぶん、ドラゴンの呪いを利用したんだよ。ドラゴンを殺した人間の子供がドラゴンになる。だからわざと妊娠している人に卵を壊させて、お腹の子供をドラゴノイドにした。妊婦さんを殺したのは、たぶんだけど、ああすれば早く産まれるから、かも」


「なんでそんな回りくどいことするの? ほっとけば卵からドラゴンは産まれるはずでしょ?」


「それは、わからない」


 しばらくの沈黙が私たちを包む。

 その侘しさと動揺の均衡を、リリィが破る。


「やっぱり行こう! 私たちで止めようよ!!」


「言うと思った。リリィが行くなら私も行くよ〜」


「コノエちゃん! ありがとう!」


 いつもの如く、リリィが抱きついてきた。

 マイカとシエリスがくすくすと笑っている。


「私も行くよ!」


 マイカがぐいっと身を乗り出す。

 反対に、シエリスはきまりが悪そうに悩みだした。


「私は……」


「む、無理しなくていいですよシエリスさん! 私の勝手な判断なんですから!」


「そう、かもしれないけど……」


 シエリスは考え込みながら、自分の腹を撫でた。


「やっぱり行くわ。戦力は多いほうが良いし、あなた達だけだと、ちょっと不安」


 意地悪く微笑むシエリスに、リリィがムキになる。


「だ、大丈夫ですよー! ね、コノエちゃん?」


「どうかな〜。リリィ臆病だから」


「えぇ!? そんなこと言わないでよ〜」


 泣きじゃくりながらリリィがまた抱きついてきた。

 とことん甘えん坊なやつである。 


「ちょっと、離れて〜」


 嬉しさと恥ずかしさの間で、私は自分の不甲斐なさに落胆していた。

 もし彼女が来てくれたら。パンチラシヨンの優勝者にしてリリィのファン、最強の格闘家である女が助けにきてくれたら、などと考えてしまったから。

 しかし彼女は旅に出てしまい連絡が取れない。

 やるしかないのだ。私が。私たちが。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 山岳地帯中央にある洞窟に、赤いドラゴノイドは帰っていた。

 彼の住処である。

 その奥に、数多のドラゴンを束ねる女王が眠っていた。

 全長100mは優に超えている巨大な竜の前に、小型のドラゴンの他、数人のドラゴノイドが立っている。


「遅かったなヘイム」


 黒い鱗を纏う雌タイプのドラゴノイドがそう告げた。


「ラズ……いよいよ手強い人間に気づかれたぜ」


「思ったより早かったな。まあいい、どのみち戦争は避けられないんだから。仲間は増えたか?」


「あぁ。そのぶん二人やられたが」


 女王が目を覚まし、黒いドラゴノイド、ラズを見下ろす。


「ラズ、およしなさい。これ以上人間に手を出してはなりません」


「女王よ、そうやって影に隠れているから、情けない死を迎えるのでは?」


「キサマ……」


 殺意を放ち起き上がろうとするも、女王はよろめいて地に伏した。


「病にさえ侵されなければ、こんな……」


「ふん、惨めなものだ。かつての面影を失い、愛する部下たちはあなたを見限り各地へ散ってしまった。残ったのは幼い子供と、半端者と忌み嫌われ、あなたの介護を押しつけられた半竜半人の者たちのみ」


 ドラゴンは魂を食らうことで寿命を伸ばせる。現に女王はすでに四千年以上生存している。

 だが、不死になれるわけではない。不老になれるわけではないのだ。老いて病にかかれば、死ぬことだってある。


 より多くの魂を食えば体力が漲り、溢れる生命力で病を治す手段もあるが、女王は人間に危険生物認定されるのを恐れ、巣に引きこもっていたのだった。


「その消えていったドラゴンたちも平穏を求め緩やかな死を待つ有様。なにが聖獣か」


「愚かな若造が。なぜ我らが守りに徹しているのかも知らず」


 ラズの眼が敵意を宿した。


「人間の私利私欲のために狩られるのが守り? ふざけるな!! 皮を剥がれ、角を折られ、骨を砕かれるのが守りか! ならまだしも、恨みの産物である私たちを軽蔑するのは筋違い。最高最強の生物としてのプライドがないのか!!」


 激を飛ばした後、ラズば不敵な笑みを浮かべた。


「まあ、心配しないでくださいよ女王。まもなく世界はドラゴンのものとなる。人間を恐れる必要など、ない!」


「悪魔め……。同胞の子を殺して、なにがドラゴンの世界か」


「進化ですよ。威厳のある肉体だけじゃあ役に立たない。それに比べこの、人間の形は便利でいい。……我々をより強くする。わざわざ仲間を半竜半人として誕生させるのは私なりの、種族への恩返しです」


「その先にあるのは破滅のみだと、知っているはず!」


「乗り越えますよ。生物は、そうやって強くなっていく。そして、生物の頂点へ」


 ラズは赤いドラゴノイド、ヘイムの肩を叩き、二人で洞窟から去っていく。


「では、仲間を増やして参ります。女王様」

次回予告!!

私芹子っ! 元気いっぱいの主人公!!

旅をしていた私たちの前に立ちふさがったのは、パンチラシヨンで呆気なく敗退した毛むくじゃらボクサー、ボストンだったっ!!


毛むくじゃら拳法を前に成すすべがない私たち。

そんなとき、一瞬で世界を破壊できる魔王が目覚めちゃったの!!

しかも小汚い野良猫が勝手に私のベッドで出産をはじめてもう大変!!

さらにデリバリーで届いた昼食のラーメンにメンマが入ってなくて私も大激怒!!

加えて爪切り中にポルターガイストが騒ぎ出してつい深爪になっちゃったから大問題!!!!

なのに一瞬で世界を創造できる最高神まで目覚めちゃって神々の戦争がはじまっちゃった!!


いったいこれからどうなっちゃうのおおおお!?!?!!?!?!!??


次回、芹子がんばり物語 第50話


「芹子、全知全能になる」


次回も一緒に〜、せりっこせりっこ〜!!

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