同窓会ッッ!!
人間って醜くて自分勝手な生き物なのよね。
そこが愛らしいというか気に入っているとこでもあるんだけど。
だから綺麗事で人の良い面だけを見せようって魂胆の恋愛映画とか青春映画は大嫌い。
やっぱ人のエゴがぶつかり合うスプラッタホラーが一番っしょ。
的なことを親戚一同の前で語ったら苦笑いされ、聞かなかったことにされました。
どうも、コノエです。
ま、私みたいに真実を話す人間は嘘まみれの社会では爪弾きにされるってわけ。
だから親戚の集まりでも隅っこで黙っているのはしかたないってわけ。
その後家に帰ったら急にテンション上がって親にも高圧的になるのもしょうがないってわけ。
「ふん、偽善者ばかりでやんなるし〜」
地元の駅の改札前で昨日のことを思い出し、無性にイライラしてしまった。
私の地元は王都から遠く、高い建物もなければ自然豊かな緑も少ない、真の意味でなにもない場所である。
王都を通過する汽車の停車駅があるのが唯一の救いであろうか。
汽笛が鳴り、ホームに列車が止まった。
それから少しして、
「あ! コノエちゃん!」
汽車から降りた私の幼馴染、魔法少女のリリィが改札口に現れた。
桃色の髪に丸っこい顔。何度見ても、かわいい。
「迎えに来てくれたの?」
「まぁ、暇だったし」
「うれしい! ありがとう」
リリィがガバっと抱きついてきた。
彼女とはもう10年近い付き合いになるが、頻繁に私に抱きついてくる癖は何度注意しても治らない。
嫌なわけじゃないのだが、外だとこっ恥ずかしいのだ。
「どうだった〜、オーディション」
「うぅ……」
「ダメだったのね」
「歌が下手って言われちゃったよお」
リリィはアイドルを目指している。
同性の私から見ても顔は可愛いし愛嬌もある。しかし悲しいかな、リリィは少々あがり症な面がある上に歌がめちゃくちゃ下手である。
下手すぎるのである。
爪で黒板を引っ掻いたときの、想像するだけで鳥肌が立つあの音よりも不愉快な特殊音波を喉から発射するのだ。
どうにかして生物兵器として悪用できないか模索しているが、さすがに敵が可哀相になってしまうので実現できていない。
「じゃあ歌わないアイドル目指せば? グラドル?」
「歌以外にも個性がないって言われた。お前みたいなのはいくらでもいるとか、田舎臭酷すぎてバイオテロでも起きてるんかと思ったわ、とか、エッチなダンスしろとか、いろいろ言われちゃった」
「ボロクソ言われてるじゃん。芸能界の闇を垣間見た気がする」
リリィは泣き出しそうに俯き、ため息をもらした。
直後、グッと拳を握ってはやる気に満ち満ちた顔で天を見上げだす。
「だから個性を作ることにしたの!」
リリィのこういう前向きなところは、嫌いじゃない。
「どんな個性作んの〜?」
「最強アイドル!」
「……?」
「この前のパンチラシヨンで私、一回戦で負けっちゃったでしょ? そこで思ったの、もっと強くなれば注目度も増すはずだって!」
王都で開催された格闘大会『パンチラシヨン』。それに私たちは参加して、見事に二人とも一回戦で敗退してしまっている。
思い出したくもない忌まわしい記憶だ。
「そこで! 隣町のギルドに行っていろんな依頼をこなし、最強の魔法少女アイドルになろうと思います!! 名付けて『リリィとコノエの猛特訓! 涙は見せない、女の子だから』大作戦です!!」
「え、私もやんのそれ」
「ダメ? コノエちゃん頼りになるから側にいてほしくて……」
瞳をうるうるさせてこちらを見つめだした。
こういうあざとい行為を、この子はわざとではなく素でやるから厄介である。
狙ってやっているなら抵抗の余地があるのに。
「しょうがないな〜」
「やったあ! じゃあさっそくギルドにレッツラゴー!!」
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ドーム状の建物に入って、掲示板に貼られている大量の依頼書をざっと見やる。
この中から気に入ったものを受付に持っていって契約を済ませ、その後依頼を達成すれば報酬が懐に入るのだ。
世界最大の巨大なギルドのメンバーに会員登録しなくちゃいけないとか、依頼にはランクがあって自分のギルドランク以上のものは受けられないとか、面倒な説明は省略する。
「どんなのがいいかな、コノエちゃん」
「なんでもいいんじゃ〜ん」
適当に依頼書を眺めていると、リリィが背後から何者かに肩を叩かれた。
「久しぶりね」
「あ! シエリスさん!!」
気品のある風格に美しい髪とプロポーション。小国のお姫様にして格闘家、シエリスであった。
パンチラシヨンにも出場していて、私たちとはそこで知り合っている。
「奇遇ですね! こんなところにいるなんて!!」
「私も一人の格闘家として、いろんな場所でいろんな仕事を受けて修行しているの」
「おぉ〜、すごい!」
なにが凄いんだか。リリィは簡単に好感抱く悪癖がある。
いろんな子と仲良くするのはいいが、広く浅い人間関係とは如何なものかね。
ていうか、
「なんか二人、距離感近くない? そんな仲良かったっけ〜」
「パンチラシヨンの控室でたくさんお喋りしたんだよコノエちゃん。ね? シエリスさん」
「ふふっ、大会が終わってもう会えないかと思ったけど、また会えてよかったわ」
ふ〜ん、あっそう。
すごいっすねリリィ先輩は陽のコミュ強で。
別にいいですよ。羨ましくなんかないです。私は社会の爪弾きもで結構ですので。
「あ! じゃあシエリスさんも一緒に依頼受けましょうよ!」
「いいわね!」
私はなんか嫌だな。と本音を口にしようとしたとき、ひょこっと見知った顔が私たちの眼前に現れた。
「やっぱり、リリィちゃんとシエリスさんだ」
「マイカちゃん!」
同じくパンチラシヨンに参加していた女であった。
呪いでドラゴンに体が乗っ取られそうになっていたが、大会を通じて力をコントロールし、完全に操れるようになった子である。
「マイカちゃんとも控室で仲良くなったんだ、コノエちゃん」
「私も強くなろうと思ってここに来ました」
はい。わざわざ説明してくれてありがとうございます。
結局マイカも仲間に加わり、再度依頼探しがはじまった。
とんだ同窓会になったものである。
シエリスが一枚の紙を指差す。
「これなんかどうかしら、大魔王討伐。世界を救いに行きましょう」
「世界だってこんなふわっとした空気感のグループに救われたくないと思うんですけど〜」
マイカが提案しだす。
「じゃ、じゃあこの下着泥棒退治と、下着泥棒代行、どっちがいいかな?」
「下着泥棒の犯人、代行を依頼したやつで決まりじゃん。てか迷っちゃダメでしょその両者。暗黒面に堕ちるつもり?」
「でも、この世に悪はいなくて、正義の反対は別の正義だってお姉ちゃんが……。もしかしたら下着泥棒さんにもやむにやまれぬ事情があったのかも」
「その優しさはいずれ自分の身を滅ぼすから捨てな」
ふとリリィを見やると、ニコニコしながら私を見つめていた。
「リリィ、なにみてんの〜」
「だって、コノエちゃんがこんなに私以外の人と喋ってるの久しぶりに見たから」
喋りたくて喋ってるわけではないのだが、この子の目には世界がどう映ってるんだか。
「ちょっと不安だったけど、コノエちゃん楽しそうでよかった」
「不安に感じることなんかないじゃん」
「だって、いっつも私、コノエちゃんにわがまま言ってるから」
怒ってるかなって、とリリィは小さくつぶやいた。
友達に気を使っていた、なんてわざわざ言葉にするのは恥ずかしいものだ。
リリィはもじもじしながら、私と床を交互に見だす。
一見自由奔放に見えてこういうところがあるから、リリィは嫌いになれないのだ。
「別に、リリィに振り回されるの、慣れてるし。怒るわけないじゃん」
その後、ホッと安堵したリリィに抱きつかれつつ、私たちは受ける依頼を決めた。
……え、あれ?
なにここ。いつもの7万文字の広い空間はどうしたの?
うそ、あとがき? ここあとがき? 私主人公なのに? この物語のタイトルにもなってる最強くノ一なのにあとがきに追いやられてんの? 嘘でしょ?
おーい! 芹子です! おーい!! ここから出してくださいよー、ねえ!!
冗談でしょ……。実質出向じゃん。主人公が出向するなんて半沢◯樹だけだと思ってたわ。
おーい!!




