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再開ッッ!!

 突如現れたネネの義兄が侮蔑の眼差しでコスモスを見下す。


「あのときの鬼!!」


「義兄さん、どうしてここに? それに、その者たちは……」


「心配になって後を追いかけたのです。それより、聞いていましたぞすべて。よもや異国の人間が鬼だったとは」


「義兄さん! でも彼女は!」


「私とて人間。情はある。しかしこれでは、命で持って償ってもらう他ない」


 そうだそうだ、外人は殺せ。と、周りの男たちも同調する。

 それに対しコスモスが敵意を見せる一方、ササも眉をひそめた。


「彼女はこの山から出さない。人も殺させない。それでいいでしょう? もとはといえば彼女たちを虐げた私たちコホン人の自業自得です」


「どうやって保証するのです?」


「彼女が約束を破ったら私は自害します」


 ササの発言にコスモスは声を上げて驚いた。


「それだけはいや!」


 しかし。と義兄が反論した。


「そんな口約束、信用できません!」


 男たちがコスモスを囲む。

 ネネは抵抗しようと立ち上がるが、よろついてしまった。

 休まず山を登り続け二体の鬼と戦って、さすがに疲れが溜まったのだろう

 しょうがない、ここは一肌脱ぎますか。


「ネネは休んでて、私がどうにかする」


「芹子さん……」


「いいってことよ。忘れてるだろうけど私も奴隷、虐められてる側だから」


 確かにコスモスは鬼で、直接見てはいないが人を殺しているのだろう。

 けれど、気に食わない外国人ってだけで切りかかってくるような民族性のコホン人もまた、同じように不条理に殺害をしたことだってあったに違いない。

 ここは一つ、喧嘩両成敗で終わらせよう。

 ていうか最後ぐらい主人公させてください。

 敵地に乗り込んだのに一回も戦ってないんですよこちとら。


 私は男たちを見やりながら、印を結んだ。


「多重影分身の術!!」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「此度の一軒、誠にご苦労であった」


 私とネネ、そしてササが道場に戻ってから一夜明け、私たちはネネの父にすべてを話した。

 差別がこの悲劇の元凶であったと知るなり、父は大仰にため息をつく。


「もとはこの国、古より他国から何度も侵略されかけた故、外への不信感が根付いてしまったのだ」


「ぼんやり知ってます」


「言い訳にはならぬがな。が、これで少しは改善すると祈ろう。私も、考えを改める」


 退室しようとする父を、ネネが呼び止めた。


「父上、この刀、お返しします」


「構わん。少し早い誕生日の褒美としなさい」


「あ、ありがとうございます!!」


 で、その後の結末を端的に語ると、まず、コスモスはちゃんと視力が回復し、生き残った肥満鬼と共に足取り山でひっそりと暮らすことになった。肥満鬼的には不服だったが、悪さするとまた腹に顔が浮かんで腹痛になると嘘をついてきたので、大丈夫だろう。彼より強いらしいコスモスもいることだし。


 ササの夫、つまりネネの義兄はササに嫌われてしまい婚約解消になりかけたが、彼も仲間の仇討ちや、嫁の心配からコスモスを手に掛けようとしたので、情状酌量の余地ありと判断。ササに一生尻に敷かれる形で離婚せずに済んだようだ。


 ササはそれから暇さえあればコスモスに会いに行っている。

 鬼の食料は人間ではなく獣でも問題ないそうで、餓死にはならないようである。

 コスモスちゃんよかったね。


 で、私たちだけど、現在コホンの港から船に乗っています。


「ネネ、本当に私たちについてきて大丈夫なの? お姉さん、まだ心配なんでしょ?」


「はい。でも、『旅してもっと強くなってくれなきゃ私が結婚した意味がない』と姉上に説得されてしまい」


「ははは。だけどその刀、真名知ったからもう人は切れないんでしょ?」


「肉を切らなくてはならないなら、鞘に収めたまま戦います。鞘にある仕込み刃が刀の刃代わりです。それと、芹子さん」


 不安そうに、ネネはもじもじと体をくねらせた。


「すみません。鬼退治の途中、調子に乗ってしまって。ちょっと、苛立ってたというか、片目の鬼に勝ち、最強になったと自惚れてしまったというか」


 例のタメ口事件のことである。

 ネネに呼び捨てにされて少しゾクゾクしちゃったやつである。


「いいよいいよ。怒ってないから。でもあれがネネの本性なのかあ〜」


「ち、違います! ほんとに、どうかしてたというか、自分を見失ってたというか……」


「あはは、わかってるよ。思春期だもん、そういうときもある」


「よかった……。ありがとうございます」


 でもたまには呼び捨てで呼んでみてほしい。

 キツイ口調で話しかけてみてほしい。……なんつって。


「私、もう迷いません。まっすぐただ、困っている人を助ける剣を極めます」


「かっこいいね。……んでメミーナ、あんたもしかして船酔いしてんの?」


 私たちの傍らで、メミーナはず〜んと暗いオーラを纏いながら蹲っていた。


「違うよセリちゃん。私、魂が抜けてる間、ひどいことされてた」


「は?」


「私の体、ひどいことされてたの」


 メミーナが右腕を出すと、手首がポロッと取れる。

 腕の断面は、銃口になっていた。


「腕からビームだせるように改造されてたの!!」


「へえ、すごいね。なんでやねん」


「忍法淡白ツッコミだ!」


そういえば、メミーナがお風呂で戦った鬼に見覚えがあるとかぬかしてた件についてだが、彼が人間であったころに会ったことがあるらしいようだ。

 たぶんメミーナと同じ街出身とのことだが、とするとコスモスちゃんもそうなのだろうか?

 平穏に過ごせるようにはなったが、いつか故郷に戻れる機会があればいいと切に願う。


 こうして私たちの旅が再開された。

 それにしても、コスモスたちを鬼にした男って、何者なのだろうか。

 針治療で鬼にした、ということは針師? ジェルリさんなら知っているのか。

 

 目指すジェルリさんの故郷は、もうそんなに遠くない。

次の話が決まるまで少しお休みします。

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