秘密ッッ!!
三人称と入り混じります。
大目に見てください!
山を駆ける。
ネネは先程死闘したにも関わらず、元気もりもり山ガールのように走り続けていた。
「急ごう、芹子」
「う、うん」
もしかしてネネは私に怒っているのか。
だから急にタメ口を使ってきた?
でも、その、不謹慎なんですけど、純粋敬語キャラにタメ口使われるの、ちょっとゾクゾクする。
「ねえネネ、あのコスモスって鬼、何者なんだろう。前々からネネのこと知っているみたいだし」
「……私は知らない。あの、鬼を」
「もともと人間だったのよね。ほんとに、なんで鬼になんかになれたんだろう」
「どうだろうと変わない。姉上を助ける、邪魔するなら切る。それだけ。いまの私には、それができる力がある」
「うーん」
大切な人を守るため人を殺める。くノ一として暗殺をしたことのある私的には、大いに賛同できる。
綺麗事で人が助かるなんて保証はないから。
しかし、もし万が一、彼らが熾烈な差別の末に鬼になったのだとしたら、やっぱりどうにも、同情せざるを得ない。
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足取り山中腹部に、やや広い洞窟があった。
その奥で、一人の女性が手足を縛られている。
やつれきった彼女の瞳に、一体の鬼が映る。
「コスモス」
「ササ、起きたのね」
コスモスの手が優しくササの頬に触れた。
「このままでは餓死するわ。死にたくないのなら、鬼になりましょう。私と同じになるの」
「い、いや。私は、人間よ。あなただって」
「違う。私はもう人間を卒業している。すべてはコホン人を殺すため。……あなたとその家族は生かしておくわ。もちろんね」
「……足が痛いわ」
コスモスはササの足を撫でると、縛っていた縄を爪で切った。
溺愛が生んだ油断であろうか、結果的にササは洞窟の外へと走り出す。
「ふふっ。相変わらず元気ね」
とはいえ衰弱しきった肉体ではロクに逃げられない。
洞窟から出たタイミングで足をくじき、コスモスに追いつかれてしまう。
「鬼になろう。ササ」
ササの顔が横に向く。ハッと目を見開く彼女につられ、コスモスも視線をやった。
二人の少女が立っていた。
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偶然、とも言い難い。
私とネネは比較的走りやすい道をひたすら進んでいた。
思えばその道は、多くの生物が通ったがゆえに自然と舗装されていった山道だったのだろう。
ならば鬼もこの道を使う可能性も高く、半ば必然的に、巡り会えたのだ。
「ネネ、あの人が」
私の問いに耳を貸さず、ネネが叫んだ。
「姉上!!」
「ネネ……帰っていたの……」
「いま助けます」
コスモスが舌打ちをした。
「しつこいやつ。安心しなさい、ササは殺さない」
「じゃあなぜ攫う!」
「永遠に生きるのよ。鬼として。今度こそ添い遂げる」
ササがコスモスの足にすがった。
「やめて! ネネを殺さないで!」
「殺さないわ。あなたの家族は殺さない。たとえすべての元凶であろうとも」
冷たい殺気が私たちを包んだ。
負けじと、ネネが刀を抜く。
「戯言を! 私が元凶? 私は異国人を差別などしない!」
「キサマさえ、キサマが素直に刀を捨てれば、ササは私との約束を破らずにすんだのに」
「約束? ……まさか、お前は!」
みなさま、あの、主人公はちゃんとここにいます。
私完全に蚊帳の外ですが、います。
でも残念ながら、回想入るのでしばらくおさらばです。忘れないで、私を。
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三年前。激浪に襲われコホンに漂流した者たちがいた。
経済や渡航会社、コホンとの外交など、様々な問題と思惑が重なり国に帰れなくなった彼らは、コホンで生きる術を身につける他なかった。
コホン人は異国民を嫌う。たとえそれが行き場のない人間相手でも例外はなかった。
人間であった隻眼の鬼が眼球を一つ失ったのは、この時期だ。
ある夜、飢えで理性が働かなくなったコスモスは、とある道場に忍び込んだ。
そこで彼女は、ササと出会ったのだ。
ササはコホン人には珍しく異国民にも優しく、誰にも内緒で食料をコスモスに与えてくれた。
コスモスはすぐに心を許し、何日も何ヶ月も逢い引きしては互いのことを語り合った。
ササはコスモスも住む国の話が好きだったし、コスモスも、ササの側にいれるだけで満足であった。
この期間、ネネは一度コスモスに会っている。
深夜目が覚め、こっそり家を抜け出すササを追いかけた先でだ。
「ネネ、彼女は私の親友。一生の友達よ」
ササの紹介がコスモスには嬉しく、彼女もまた誓ったのだ。
ずっと隣にいたい。
やがて二人は言葉を交わさずとも、互いが互いにとって一番の人間であると感じ合うようになる。
だが、ササはネネの想いを尊重し、家の跡取りを産むため結婚した。
ササではなく、道場の娘として生きる道を取ったのだ。
コスモスのすべてが崩壊する。
ササすら含んだコホン人への憎悪が体躯を染めたとき、ある男に出会う。
コホン人に殴られた痛みを消す、その名目で彼が行った針治療を受けて、コスモスたちは鬼と化したのだ。




