変貌ッッ!!
メミーナの活躍? により肥満鬼を倒し、残すは隻眼鬼のみとなる。
隻眼は黙って肥満鬼を見送ると、何かを納得したように頷いた。
「コホン人ではないとやや手強いものかな」
ネネが眉をひそめる。
「どうしてコホン人に拘るんですか!? 私たちがなにかしたとでも!」
「なにかした? つくづく無神経な人種」
「?」
「我々への非道な暴力、差別、忘れたとは言わせない」
差別? 鬼はコホン人に迫害されていたとでも?
たとえ数で劣るとしても、これほど強い者たちが一方的な攻撃を受け続けるとは思えない。
じゃあ、まさかこいつらは。
「まさかあんた、人間だったの?」
隻眼は答えない。
もし人間だったなら話が早い。
彼らは異国の人間、外国人だったのだ。理由はわからないがコホンに移住するハメになり、結果、虐げられた。
死人も出ただろう。
ならば、彼らがコホン人を憎む気持ちも理解できる。
「なんで鬼に……どうやって?」
「お喋りはそこまでよ」
吹雪のような鋭い存在感を発しながら、華奢な鬼が近くの大岩に降り立った。
額に角があるものの、身長は私より少し高い程度で、その肌は柔く人間そのものである。
宝石のように丸く艶やかな瞳は、海のように深く、暗く、青かった。
コスモス。と隻眼の鬼が少女の名を呼んだ。
「わざわざあなたが来なくとも」
「人間の声は耳障りよ。さっさと殺してしまえ」
コスモスの視線がネネを捉える。
瞬間、彼女は目を見開き、ニヤリと笑みを浮かべた。
「ササの妹、帰っていたの」
「なっ! 姉上を知っているのか!! どこにいる!!」
「教えてどうするの? 残念だけどササはもう私のものよ」
「絶対に殺させない!」
「ふんっ。大人しくしていれば生かしておいたものを」
コスモスは飛び跳ね、さらに北西方面へと消えていった。
間髪入れず追いかけるネネであったが、隻眼鬼が立ちふさがれる。
「コホン人だけは通さない」
「くっ、ならば芹子さん、あの鬼を!」
追いかけろ。最後まで聞かずとも意思は伝わる。
だが、私は自然と足を動かすことができなかった。
「でも、ネネ一人じゃ……」
それが失言であったと直後に気づく。
私もメミーナも、単体で鬼を倒している。
しかしネネは一度敗北しているのだ。確かに手にしていたのは木刀だったし、全力で挑めなかったのは確かだが、負けは負け。
負け癖が身についているのでは、などと不躾な不安を、ネネに伝えてしまったのである。
「ち、違うのネネ! 二人で戦ったほうが確実でしょ! バラバラに戦って苦戦するよりは、二人はさっさと、みたいな」
「くっ」
ネネが隻眼を睨む。
「死にたくなければ、退け!」
「馬鹿め。死ぬのはお前だ。コホン人はここで滅す」
「どけえ!」
ネネが刀を握る。
抜かれた白刃が日光を反射し、隻眼の目を眩ませる。
その隙を逃すわけもなく、ネネは鬼の岩のように硬い肩を切り裂き腕を落とした。
その尋常でない切れ味にネネ自身が驚き、笑った。
「この刀ならば!」
「コホン人!」
隻眼は切り落とされた腕を拾うと、肩に取り付けた。
超常的な回復能力の為せる技か。
「腸を見せろ!」
隻眼の両腕がゴムのように伸び、ネネの首と刀を握る手を掴んだ。
「動けまい! 死ねい!」
「ちぃ!」
闇雲に左手で鞘を掴んで武器とすると、鞘からノコギリ状の刃が生えてきた。
「仕込み刃!? なるほど!」
鞘で右手を掴む腕を切ると、
「くっ」
隻眼の力が弱まり、ネネは強引に腕を振り払って、
「トドメ!」
一気に間合いを詰め、隻眼の額を突き刺した。
「この程度ではまだ死なぬ!」
「ならばこれで終わり!」
ネネは両手で刀を握り、渾身の力を込めて、突き刺した刃で股下まで切り裂いた。
「な、なんと、コホン人が……」
隻眼は砂となって散っていった。
久方の勝利にネネは両頬を釣り上げ、刀を鞘に収めた。
「ふふっ、これならば、私は強者。……芹子」
「は、はい!」
呼び捨てにされたんですけど。浮かれ過ぎじゃあないですか?
「着いてきて」
「う、うん」
一度の勝利で人はこうも変わるものか。
とにかく、ネネが自信を取り戻したのだから良しとしよう。




