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対決! 鬼兄弟ッッ!!

 コホン国北西部に位置する足取り山は活火山であるが、ここ三〇〇年は大人しくしているのだとか。

 名前の由来は酷く単純で、足が取れそうなほど険しい山だからである。

 傾斜激しくゴツゴツとした岩になんども躓き、正直なんかもう、帰りたいです。


「はぁ……はぁ……やばい、やばいやばいやばいって」


「おや、休憩しますか? 芹子さん」


「ネネは余裕そうだね」


 ていうか余裕どころの騒ぎではない。なんとこのサムライガール、とっくにギブアップしたメミーナを背負って歩いているのだ。

 体力が化け物すぎる。

 ていうかメミーナあんた、気持ちよさそうに爆睡しちゃって、羞恥心ってもんがないのか!


「定期的に足取り替えてるの?」


「え? よくわかりませんが、幼い頃よりここで足を鍛えてましたから」


「こっわ。どんだけドMなのよ」


 私がドン引きしていると、ネネが遠くの方を指差した。


「あれを見てください!」


 近づくに連れてネネの指したものがはっきりと見えてくる。

 地面に転がっているそれは、普段はだいたい私の目線の高さにあるべきものであった。


「な、生首!?」


「なんとむごい」


 それだけではない。辺りを見渡してみると、引きちぎられた腕や、腹が引き裂かれた上半身などが無造作に散らばっていた。

 おそらくは十人近く、ここに死体が晒されている。

 同時期に殺されたものではないのだろう。死体によって劣化具合に差があり、まだ新しい肉片から、酷い異臭を放つ肉まで、様々である。


「クマ、かな」


「もしくは鬼ですかね」


 ネネの頬に汗が伝う。

 疲労のものではない。姉の身を案じての焦燥感である。


「そういえば昨夜、義兄さんから聞きました。ここ最近、人攫いが増えていると。もしやそれも鬼の仕業……。なぜ鬼なんて化け物が現れたのか……」


「これ、鬼が食べたってことよね? どうしてわざわざ、こんな中途半端なところで。よく人登るの? この山」


「いえ、滅多に。確かに変です。食事をするなら、町でそのまま食べてしまうか、寝床などリラックスできる場所まで運んでから、というのが生き物として自然です」


 もしくは、と寝ていたはずのメミーナが、似合わない決め顔でつぶやいた。


「この山全体が、鬼さんの家なのかもね」


「あんた起きてたの?」


「セリちゃん、私だっていつもふざけてるわけじゃないのよ」


「ちょ、じゃああんたの言う通りなら、私らはとっくに鬼の本拠地に踏み込んでるってこと?」


 瞬間、これまで感じたことのない圧倒的な、重厚な殺気が私たちを包んだ。

 背後だ。三人が一斉に振り返ると、2体の鬼がそこに立っていた。

 見た目は昨日倒したヤツと似ていて、岩の肌に二本の角が額から生えている。

 大きな違いを挙げるなら、目の前の2体の内、一体は眼球が一つ無く、もう一体はえらく肥満体型である点。

 が、その存在感はまるで別格。拳も言葉も交えることなく、昨日の彼より格上の鬼だと理解できた。


 隻眼の鬼が口を開く。


「俺たちを退治しにわざわざ餌の方からやってきたのか」


「他の二人はどうする兄者? コホン人は一人だけだ」


「いいんじゃないか食っちまって。この際同じだろう」


 コホン人であるか否か、そこに彼らにとってどう違いがあるのか不明だが、どうやらこいつらはコホン人を食すことに拘りがあるようだ。


 ネネが吠える。


「姉さんはどこだ! あなた達はどこから来た!」


 肥満鬼が図太い犬歯を覗かせる。


「答える必要はなし!! お前は餌! 餌は喋らん!! 食いもんと問答する者もまた皆無よ!! 死ねえ!」


 肥満がダッシュすると、メミーナが立ちふさがった。


「二人に手を出させない!!」


 とまあカッコよく前に出たメミーナでしたが、肥満にぶつかって呆気なく遥か彼方へ吹っ飛んでいったのでした。ちゃんちゃん。


「あ〜れ〜」


「メミーナ! ったく」


 肥満は止まらず突っ込んでくる。

 うまいこと立ち回れば昨日の鬼のように倒れさせることは可能だろうが、相手は太く丸い巨体。

 まるで鉄球が転がってきているかのように錯覚してしまい、つい怯んでしまう。

 

「圧し潰してやる!」


 肥満が私の間合いに入ったそのとき、


「!?」


 突如立ち止まり、腹を抑えだした。


「な、なんだ? 腹に、なにかいる」


 腕を退けて腹を顕にすると、なんと彼の腹部に、メミーナの顔面が浮かび上がっていた。


「こいつ、さっき吹き飛ばしたはずじゃあ?」


「甘いね。私があの程度で退場すると思ったか! ……ただいま、セリちゃん! ネネ!」


「ただいまと言われましても……」


「体はどっか行っちゃたけど魂だけは戻ってきたよ!」


 こんな気持ちの悪いもの見せられるくらいなら魂もどっか行っててほしかった。

 今回といい、知らないおじさんが部屋で寝てたギャグといい、こいつの最近行動気が狂ってない? 笑いを通り越してホラーなのよマジで。

 売れなさすぎて拗らせた結果迷走してる地下芸人みたいじゃん。


 肥満は青ざめ、大量に汗をかきながら蹲った。


「腹が、痛い……」


 メミーナの魂がお腹にいるんだもん。腹も痛くなるさ。かわいそう。


「二人とも今だよ! 私が時間を稼いでいるうちに!!」


 とりあえず構えてみると、肥満鬼は立ち上がって、


「兄者すまん! 腹痛いから一時撤退する!!」


 背を向けるなり走り去っていった。

 メミーナが慌てだす。


「待って! わたしゃまだここにおる! おるのよ! 頑張って戦って!! このまま退場しちゃうのやだよお!!」


 彼女の声はだんだん遠くなり、結局メミーナはいなくなっちゃいましたとさ。

 ちゃんちゃん。

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