入浴ッッ!!
夜食をご馳走になり、時刻は午後9時。
私は汗を流すため、ネネの実家のお風呂を借りた。
室内に浴室があるが、屋敷の裏には小さな露天風呂もあるようで、せっかくならと私はそちらを浸かることにした。
「あ、ネネ」
先にネネがお風呂に入っていて、その隣に腰を下ろす。
修学旅行みたいでわくわく……しないね。それどころじゃないもんね。
「信じらんないね。鬼だなんて」
「凄まじく強い人を鬼と表現する、あれと同じかと思っていましたが、義兄さん曰く見た目も人間とは程遠いだとか」
「ふーん」
パンチラシヨンにはリュウトなるチート野郎がいた。
まともな攻撃ではダメージが入らない鋼鉄の皮膚を持っていたが、人間としての弱点は残ったまま。
彼にはそこを突いて勝利できたが、相手が人間ではないのなら、はたして……。
ネネを見やると、酷く落ち着いた顔で夜空の星星を見上げていた。
「大丈夫?」
「あれほど取り乱したせいか、反動で精神的には冷静になれました」
「お姉さん、無事だと良いね」
「……もし私が旅など始めなければ、こんなことには」
「どういうこと?」
ネネは悔しそうに、泣き出しそうな瞳をつむった。
「姉上は私より強かったのです。本来姉上は道場の師範として生き、結婚し子を授かるのは私になる予定でした。でも、私が駄々をこねたせいで、強さを求めたせいで、姉上は自ら進んで縁談に乗ったのです」
「それとこれは話が別だよ。優しいお姉さんじゃない」
励ましてみてもネネは浮かない様子で、重たいため息をついた。
「大会で負けてから、ずっと考えてました。私はまだ弱い。はたして、姉上を救えるかどうか」
「ラミーネが強すぎただけだって」
彼女を倒した私の方が強いけど。
「なので、ラミーネさんの強さの秘訣を参考にしようと思ってます」
「は?」
「女の子をペットに、ってやつ……」
ネネはみるみる顔を赤くして、体を私に向けた。
「あの! たいへん申し上げにくいんですが! 試しに私のペットになってみてはくれませんか、芹子さん!!」
「ちょちょちょ! 性癖と強さは関係ないから!!」
「わ、ワンと言ってみてくれませんか……」
「ダメよネネ! アブノーマルプレイは一度ハマってしまうと人生を棒に振る恐れが……」
「それで強くなるのなら! せ、芹子さんになら私のどんな姿を見せても、嫌じゃないですし……。そ、それとも芹子さんは、私とそのような行いをするのは……」
悲しそうにネネが眉を寄せた。
「そういう話じゃないのよお!」
まずいって、ラミーネと違って生真面目ピュアなネネに主従関係プレイを強要されるのはなんかドキドキしちゃう! 秘密の関係が始まりそうになっちゃう!!
妙な空気に息を飲む。
その瞬間、夜空から何者かが降り立った。
細いながらも岩石のような皮膚を纏い、二本の角を額から生やした異形の男、一瞬にしてこれが鬼だと理解できるほど、人間離れした肉体であった。
「おお? 仲間が散々暴れたっつうから火事場泥棒しにきてみれば、まだ人がいたのか」
「な、何者!」
私たちは湯船から飛び出し、距離を取った。
「まあいいさ。暇つぶしにぶっ殺してやるかい」
ネネが舌打ちをする。
それもそのはず、彼女にはいま武器がない。
戦いようがないのだ。
と、露天風呂の出入り口の扉が開き、木刀を手にしたメミーナ(全裸)が飛び出してきた。
「こんなこともあろうかと木刀持ってきたよ!」
「ナイスメミーナ!」
「ありがとうございます!」
メミーナが投げた木刀を受け取り、ネネは走り出した。
「姉上はどこだ!」
頭部に木刀を振り下ろしたものの、まさに岩石に切りかかった如く、刀は弾かれた。
もちろん、鬼にダメージはない。
「非力があ!」
鬼が勢いよく息を吹く。
まるで突風のような威力の息が私たちを襲い、体の軽い私は踏ん張りきれず腰を抜かしてしまった。
「硬いのなら!」
息が収まった直後、ネネは高速で突っ込み、鬼の眼球を突く。
確かに眼球ならば柔い。安易に潰してしまえる。
はずだった。
「なに!?」
鬼は眼球すらも強固なのか、ネネの木刀は目玉を潰すことは叶わず、逆に刀身が折れてしまった。
「邪魔くせえ!」
ネネが鬼に蹴り飛ばされる。
「人間が鬼に叶うわけないんだよ!」
次回予告
我、芹子なり。いと強しなり。毎日もりもり頑張りけり。
本日も頑張りけり故唐揚げ食したく候。
鬼来たりててんやわんやけり。私、無事生存可能なりたひ。
ネネの父上から褒美貰いて、いと嬉し。
次回、最強くノ一芹子ちゃん頑張り物語 第38話。
『芹子、全知全能になりけり』
次回も一緒にせりっこせりっこ〜し給えなりけり。




