鬼ッッ!!
「ネネの家ってどんなところなの?」
あのハチャメチャな挨拶のあと、私たちはネネの家の付近まで来ていた。
話によるともうすぐ見えてくるらしい。
「剣術道場です。私はそこの次女」
メミーナは話に興味を示し、目を輝かせた。
「ってことはお姉ちゃんいるんだ! 私と一緒だ!!」
「はい。ラミーネさんほど強くはないですが、一応道場の免許皆伝です」
「おぉ〜。共通点があるっていいね。ちゅーしよ〜」
「ま、まだ昼間ですよメミーナさん!」
夜ならいいのかよ。
それから少しして、ようやくネネの実家にたどり着いた。
広大な敷地に道場があり、その隣には、半壊した屋敷があった。
「これは……」
ネネは目を大きく見開き、慌てて門をくぐった。
「父上! 母上!」
大声が響いて間もなく、屋敷から2名の男女が現れる。
「ネネ、帰ったのか」
「父上、これはいったい。なぜ……」
ネネの両親が気が重そうに顔を伏せる。
数秒して、屋敷からもう一人の男がやってきた。
「私が説明しましょう」
二〇代後半ぐらいの年齢で、気品のある出で立ちで私たちの前に立った。
「義兄さん」
「客人も、まずは中へ。お茶をお出しします」
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結構意外なんですが、メミーナってこういう雰囲気だときちんと黙れる女なんですね。
こいつのたまに常識人っぽいムーブするところは評価している。
まあ、パンチラシヨンでメミーナ目立ってたし、今回はネネが活躍する話ってことで、大人しくしていてほしいところ。
で、ネネの義兄、正確にはネネのお姉さんの旦那さんは、和室にて事の顛末を語ってくれた。
「義兄さん、いま、鬼と言いましたか?」
「あぁ。間違いなく、鬼がこの屋敷を破壊した」
ネネに耳打ちをする。
「鬼って?」
「空想上の化け物です。図体が大きく、怪力と」
どうやら私の知る鬼の概念と同じようである。
義兄さんが続けた。
「つい昨晩のことだ。突如現れては散々暴れまわり、ササ様を攫っていったのだ」
「姉上を!?」
「師範代である私がいながら、不甲斐ない……」
ネネが立ち上がった。
「鬼はどこへ!?」
「わからぬ……。いま弟子の者たちに調査させている」
「私も自らの足で!」
踵を返したネネの前に、彼女の父が立ちふさがった。
「行くな」
「父上! 姉さんを見捨てろと? 結婚して半年、稽古も辞めたいまの姉上に戦う力などあるはずもない!!」
「お前まで失いたくはない」
「なっ! 死んだ前提ですか! 親が子を!!」
つんつんと、メミーナが私の脇腹をつついてきた。
「気まずいね」
「言わなくていいのよそんなこと」
「いま叫んだらどうなるかな」
「あんたマジでちゃんとした教育受けたほうがいいよ」
私たちの会話を耳にしたネネがこちらを向いた。
「そうです! 父上、こっちにはパンチラシヨン優勝者がいるんです!」
「あの武闘会の……」
ネネの父が私とメミーナを見やるなり、訝しげな表情を浮かべた。
「ネネの友人と聞いているが、異国の人間か……」
彼も先程の侍たちのように、他国の人間を快く思っていないらしい。
なぜこうも外国人に対して差別的なのか。入国する前に少しだけ書物で調べたが、どうやら他国との度重なる戦争が原因らしいが、定かではない。
「父上、私の仲間を蔑むのなら親子の契を断ってでも姉上を助けにいきます!」
「……すまぬ。気を悪くしないでくれ、客人の方々」
父は折れないネネに対しため息をもらした。
現実を受け止めたくないのだろう、渋面で私たちに背を向け、情けなく、か細い声で言った。
「なんであれ、今夜は泊まりなさい。使える部屋はまだある。まずは弟子共の情報を待て。いま飛び出したところで、どこにいく」
反論の余地など一切なく、ネネは歯を食いしばった。
「わかりました」
その後、私を見やるなり、申し訳無さそうに目を伏せた。
「すみません、巻き込んでしまい」
「大丈夫。ネネは私たちの友達だもん。ね、メミーナ」
「うんうん! レッツ鬼退治!」
「……ありがとうございます」
ネネのお姉さんが化け物に連れ去られた。
顔も見たことない相手だが、かなり心配である。
けどもう一つ心配なのは、こんな国に泊まって無事に朝を迎えられるのかってこと。




