入国ッッ!!
港から小舟に乗り三時間。
私たちはコホンに上陸した。
一応大陸と地続きなのだが、陸地からでは険しい自然が道を塞いでいるため、こうして海路を利用するのが一般的なのだそうだ。
港町に降りて辺りを見渡してみる。
木造建築ばかりの家屋、人々は基本和装で、男の中には腰に刀を差している者もいる。
一言で表現するなら江戸時代っぽい雰囲気。
異世界にこういう時代劇みたいな地域があることは少なくないのは知っていたが、どうやらここがそうであるらしい。
「ようこそ、コホンへ。とりあえず私の実家に行ってみましょう」
先日の忠告通りあまり通行人と目を合わせず歩いているが、周囲から冷たい視線をいくつも感じるのがわかる。
ネネ曰く縄張り意識が強いとのことだが、どうやらよそ者=敵、みたいな認識のようだ。
「いいメミーナ。余計なことすんじゃないわよ。フリじゃないからね。ガチだからね」
「わかってるわかってる。向こうがどんなギャグ仕込んでるか楽しみ」
「あんたコメディ番組の見過ぎなんじゃない?」
にしても、観光しにきたのに自由に目線を動かせないとは、なんともおかしな話である。
それからしばらく歩いていると、遠くから何者かが駆け足で近づいてくるのが聞こえてきた。
刀を抜いた侍であった。
「なにワシら無視しとんじゃ子供おおお!!」
ちょ、なになに!! 私もメミーナも誰とも目を合わせてないはずなのに。
あれか、逆にそれが癪に障って怒っちゃったのか。どうしようもないじゃん!
「二人とも下がって!」
ネネは木刀を抜くと、振り下ろさた男の刀を横へ弾き、
「蛮人め!」
男の腹を突いた。
「ぐえっ! なんと早業!」
男はぶっ倒れると、今度は巨漢の侍が現れる。
「しかと見たぞこの曇りなき眼にて。外人への正当防衛と心得い!」
「私はコホン出身です!」
「両隣は違う! オセロ理論でお前も外人じゃ!」
最初の侍が便乗する。
「至極正論! やってくだせえ呉服屋の五太郎!!」
すると巨漢は、なんの迷いもなく三下臭い最初の侍の胸を刀で突き刺した。
「人任せは恥もいいとこ、死んで詫びれい!」
「お、おっしゃる通りで……」
男が絶命すると巨漢の侍は刀を抜き、ネネに切りかかった。
ネネは一太刀を回避し、木刀の剣先で男の顎を叩いて脳を揺らしてみせる。
「うっ」
「客人の前で無礼もいいとこ。キサマも恥を知れ!」
さらに至近距離から木刀を振り上げ、巨漢の股を強打した。
巨漢は絶叫しながら顔を真っ青にして、
「ワシの金玉が……こ、これは勝てぬっ!」
前から倒れ気を失った。
ネネは一息つくと木刀を納め、苦笑を浮かべた。
「あらためてようこそ。ここがコホンです」
「えぇ……」
素直にドン引きである。
あの、その……。まさかこの物語の最初の死人が蛮人侍だなんて想像もしてなかったんですけど。
南無……。
 




