知らないおじさんッッ!!
金があるっていいなあ。
ここ数日、私たちはパンチラシヨンで得た賞金の残りで思う存分贅沢していた。
良いご飯を食べ、良い宿に泊まる旅。
あぁ、まともな人間生活してるって感じ。
「ふぁ〜、朝か」
朝日で目が覚め、ぐぐ〜っと体を伸ばした。
奴隷でも平穏に過ごせる場所を探す旅は以前継続中。とりあえずの目的地である、針師ジェルリさんの故郷までは、まだ遠い。
「朝よ、メミーナ。起きなさい」
同室のベッドで掛け布団に包まっているメミーナに声をかけるが、返事がない。
おかしい。こいつは高血圧で朝は強いはずなのに。
「ちょっと、起きなさいよ。先に朝ごはん食べちゃうわよ。ねえ」
なんど揺さぶっても反応がなくてついムキになってしまい、強引に掛け布団を引き剥がしてみた。
寝ていたのは知らないおじさんでした。
「え……」
背筋がゾワゾワしだし、瞬く間に壁際まで後退した。
え、マジでだれ? なんでおっさんがここに!? 部屋間違えて入ってきた? ちゃんと鍵かけたけど……まさか私が部屋間違えて寝てたの?
うそうそうそ、確かに昨晩はコーラとポップコーンでハイになってたけど、そんな過ち犯すほど酔ってはいないんですけども。
じゃあ、まさか、メミーナが連れ込んだんじゃ……。
「ふっふっふ、驚いたようだね、セリちゃん」
振り返ればメミーナがニヤリとムカつく笑みを浮かべてました。
「ちょ、あんたこれどういうことよ! なんで知らないおっさんがいるのよ!!」
「セリちゃんを驚かせたくて仕込んだギャグだよ」
「ギャグの領域超えてホラーになってるじゃない!」
つい大声で叫んだところ知らないおっさんは起き上がり、シャキッとメミーナに向かって直立した。
「はい、ではこれで仕事は終わりましたので、失礼させていただきます」
「あ、はい。ご苦労さまでした。お支払いは口座に振り込んでおきます」
「いえいえありがとうございます。領収書の方はお振込後にメールでお送りいたしますので」
「あ、はい」
では、失礼します。とおっさんは深々と頭を下げ、部屋から出ていった。
「なんなの、いまのやり取り」
「あの人、眠り屋なの。人の代わりに寝るお仕事なんだって」
「よくそんな仕事が成り立つと思ったわねあの人」
一息つき、あらためて部屋を見渡す。
昨日の宴のゴミ(コーラの残りやお菓子の袋)が散乱していて、どっとため息が漏れる。
「ねえ、ところでネネは? 朝シャン?」
「外で素振ってるよ」
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宿付近の空き地にて、ネネは木刀を素振りしていた。
彼女の愛刀はパンチラシヨンで折れてしまったため、いまはお土産屋で買った木刀を所持している。
「あら芹子さん、おはようございます」
「おはよ。今日はいつもより早起きね」
「うーん。コホンが近いからですかね」
「コホン? って、国の名前だっけ?」
「私の故郷なんです。だからつい気持ちが昂ぶっちゃって」
「へえ。じゃあ寄り道して行ってみようよ。観光したいな」
ネネは苦笑気味に木刀を納めた。
「よしたほうがいいですよ。ほんとに治安悪いんで」
「大丈夫よ、私は優勝者だし。ネネだって強いじゃない。あとの一人もついでにそこで成敗してもらえばいいし」
私は転生者だが、前世の記憶はついこの間蘇ったばかりである。
この世界に対する好奇心は結構高い。
長い長い修学旅行中のような気分が拭えないのだ。
「そこまで言うのなら、いいですけど。でも絶対、私から離れないでくださいね。あと、絶対に人と目を合わせたり喧嘩しないでください。縄張り意識が強いので部外者に当たりが強いのです」
「うわ、ガチで無法地帯なんだ。世紀末じゃん。文化レベルどんぐらい? 貨幣の概念ある?」
「ひどい言われようですが擁護できないですね、あはは」
そんなこんなでネネの出身国、コホンに向かうことになった。
後々の出来事を考えると、ここで軽々しく決断しなければあんなバケモノと戦わずに済んだのだろうと、深く後悔してしまう。




