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優勝ッッ!!

 ラミーネが飛んだ!

 人間離れした跳躍で太陽を背にしている。


「いきなり隕石蹴り!?」


 彼女の落下に合わせ、私は急いで観客席に逃げ込んだ。

 ラミーネは舞い上がる土煙を払い、周囲を見渡す。


「おおっと芹子選手、忽然と消えてしまった!」


 私を発見するのは困難であろう。

 ただ一般人の中にいるだけではない。変化の術を使い、観客席の一人に変装しているのだ。

 あとはタイミングを見計らい、不意打ちの一撃を加える。

 予想の応酬がある以上、攻撃を仕掛ければどちらかが負傷するまで攻防は続く。

 単純計算で50%の確率でしかダメージを与えられないが、ラミーネ相手なら充分な数字である。


 途端、ラミーネが変装している私に迫った。


「闘気隠せてなかったら意味ないんじゃない!!」


「まずった!」


 ラミーネが私を宙に投げ飛ばすと、音速を生み出す脚力でタックルしてきた。


「ぐっ!」


 さらに宙を蹴って反転しもう一発、地面を、壁を、人を蹴って、自ら音速の弾丸となり四方八方から空中に浮く私に突進を繰り返す。

 速さが生み出す連続攻撃こそ天翔道の真骨頂なのだ。


 そして、


「死ねい!」


「させるか!」


 強烈な踵落としでもって、私を地面に叩きつけた。

 しかし!


「なに!? 枕!?」


 最後の踵落としを決められたのは、変わり身の術と変化の術を併用して私に化けさせた枕であった。

 本当の私はラミーネの背後に立って、


「こっちが本物だ!」


 飛び蹴りを食らわせてやる。


「うっ!」


「どうやらかなり怒り心頭って感じね。あんたの絶対予想は冷静な分析力があってこそ発揮する。頭に血が上っているんじゃ、不完全もいいとこよ!!」


「じゃあもういらない! こんなもの!」


 音速で接近され、頭部に回し蹴りを喰らってしまう。

 壁までふっとばされたうえ、脳が揺れてしまって気持ちが悪い。

 あの足の破壊力ときたら相当である。次、同じ箇所を蹴られたら、頭蓋骨が粉砕するかもしれない。


「いいの? これ以上やったら死ぬわよ?」


「どうせ一度死んだ身。もしかしたら現世に転生し治せると思えば、怖くないわ」


「意味不明ね。よし、死になさい」


 私の予想は、ラミーネに予想される前提があって成り立っている。

 つまり、彼女の予想が不完全なら、私もまた同様になるということだ。

 そう、ここから先繰り広げられるのは予想の連鎖ではなく、騙し合いでもなく、シンプルな、至極単純な、


「おおおおお!!」


「はあああああ!!」


 暴力の応酬である!!


 肉が裂け、血が飛び、歯も欠ける。

 きっと明日には全身筋肉痛で、いやいや、たぶん全身の骨が折れちゃってて一ミリも動けないかもしれない。

 でもいいのだ。ネネが祝福してくれて、リリィちゃんやコノエが看病してくれて、メミーナのくだらないギャグに呆れられるのなら。

 なんだったら、奴隷商人のおじさんやジェルリさんも加えて打ち上げパーティーでもしたい。

 

 私は事故で死んじゃって、気づけば見知らぬ世界に奴隷少女として転生してしまっていた。

 寂しくて不安だったけど、いまでは、賑やかな仲間がいる。

 彼女たちを守るためなら、平穏な日常を勝ち取るためなら、恐れるものなどなにもない。


 私とラミーネが同時に倒れる。

 先に立ち上がったのはラミーネだった。


「支配こそすべて。ぜんぶ、この世界のあらゆるものを私の所有物にする」


「あっそう。残念だけど、私はとっくにリリィちゃんの所有物だから」


 たぶん、お互い次が最後の一撃になる。

 みなさま、シリアスバトルも終わりを迎えますよ。

 そしたらまた、ワイワイガヤガヤな日常に。


 ラミーネが天高く跳躍した。


「終わりよ!」


「へへっ」


 印を結び、


「多重影分身の術!!」


 幾人も私を増やす。

 私がジャンプすると、もう一人も飛んで新たな踏み台となる。

 そして同じく二段ジャンプをしてきた分身を踏み台にして飛ぶ。また一段、さらに一段と、空へと駆け上がる。


「なっ、なに!?」


「これが最強くノ一の力だ!」


 ラミーネと同じ高さまで昇りつめると、最後の力を振り絞って彼女を殴り飛ばした。

 落下するラミーネに合わせてよろつきながら着地し、入場口を見やる。

 メミーナが泣いていた。

 まったく、あんたが真面目に泣いたらいよいよギャグ担当いなくなるじゃない。相変わらず自分のキャラってもんを理解してないわね。


 目にも留まらぬ攻防の終焉に、観客たちは目を見張り声援を送ることさえ忘れていた。

 とても決勝戦とは思えぬ無音。

 ラミーネの肉体は、完全に動作を停止させていた。


「け、けっちゃああああく!! パンチラシヨン優勝者は!! 最強の格闘家は!! 16人のツワモノたちの頂点になったのは!! 奴隷少女、芹子おおおおお!!!!」


 実況に煽られ、観客席からポツポツと歓声や拍手が響き出す。

 やがてそれは巨大な熱狂となり、会場を包んだ。


 それに答えるよう、枯れた喉で小さな勝鬨をあげる。


 こんなに疲れたのはハリキリ過ぎちゃった小五の運動会依頼だわ。

 私は急な睡魔に襲われ、気を失った。

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