第八試合と最後の選手ッッ!!
入場口で観戦していた私のもとに、ジェルリが近づいた。
「おや、奴隷の子」
「ど、どうも」
「あの軽やかな身のこなし、不思議な術、私は好きだよ。弟子になるかい?」
「いやあ……」
「カカカッ! そいつは残念。ちなみにね」
ジェルリが服の袖をめくると、その腕にはなんと、私と同じ奴隷の入れ墨が掘られていた。
「え!?」
「内緒だよ」
ジェルリは最後にもう一度カカっと笑うと、去っていった。
代わりに、リリィちゃんとコノエがやってきた。
「リリィちゃん♡」
「こんにちは。次はコノエちゃんの試合なんで、ここで応援することにしたんです」
「そうなんだ。友達思いだね。好き」
コノエは明らかに嫌そうな顔をして、リリィちゃんと私の間に立った。
「ファンだかなんだか知らないけど〜。リリィに悪影響与えないでよね〜」
なにこいつ、嫉妬してるのかな?
意外と可愛いところあるじゃん。
コノエは私を一睨みして、入場していった。
対戦相手は、私よりも小さい少年である。
「第一回戦最終試合!! 闇の使い手アイタタガール、コノエ!! 対するは勇者の一番弟子、ケイス!!」
勇者のカキタ……じゃなくて仲間、ライバル、師匠ときて、今度は一番弟子か。
Bブロックはずいぶん勇者に関係のある人物が出場している。
ケイスなる少年はグローブをはめてシャドーボクシングをはじめた。
「試合開始!」
コノエが二丁拳銃を取り出す。
「威力は落としてるから穴は開かないよ〜。でも、すっごく痛いけど」
二丁の人の闇の産物を連射しだした。
ケイスは直撃を免れるべく、大きく円を描くように走り出す。
しかし、あまりにも足が遅い。
結局足に被弾し、ケイスはすっ転んだ。
「ぐわっ!」
「子供だからって容赦しないよ〜ん」
私の隣で良い匂いを放つリリィちゃんが勢いよく両腕を上げた。
「がんばれコノエちゃーん!」
コノエがケイスに銃口を向けると、彼は恐怖に怯えだした。
ボロボロと溢れる涙を、袖で拭い出す。
「くそっ、俺は、俺はリュウトさんに優勝するって約束したんだ! そのために辛い修行にも耐えてきた! まだ負けたくない!」
会場が静まり返る。多くの観客が同情の色を瞳に宿した。
……なんだ、なんだこの違和感。なんだこの嫌な予感。
勇者に優勝すると誓った。
何度聞いたこのセリフ。何度、敗北した者たちが口にしていた。
おそらく大会出場者の中でもっとも弱いであろう少年の泣き言に、私の背筋がゾワゾワしだす。
コノエはトリガーにかかる指の力を強めた。
「残念だけどここまでだよ〜」
銃声が鳴り響く。トドメの発砲は、確かにケイスに向かって直進した。
なのに、当たっていない。それもそのはず。放たれた銃弾は、ケイスでも、ましてやコノエでもない者の手によって掴まれてしまったのだ。
先程まで、ほんの数秒前まで、来賓席で偉そうにふんぞり返っていた男。異世界から来た勇者、リュウトの手によって。
「もう、見てられねえぜ」
「リュウトさん!」
リュウトの乱入に、異常事態に、観客が湧いた。
「おおおっと! キングの乱入だああああ!!」
これは、反則ではないのか? メミーナも他人を使ったが、あれと同様にギャグパワーとして流しているとでも?
でも、だとしても、
「無念に散ったシエリス、師匠、ケイスの願いは、俺が叶えるぜ!!」
「これは! キングまさかの参戦だああああ!!!!」
いきなり大会に参戦するなんて、許されるのか?
コノエは動揺しながらも、リュウトに銃を連射する。
勇者リュウトはその弾丸すべてを手で弾き、彼女に接近すると、クローノがジェルリにしたように、彼女の手を握ってくるりと回し、地面に叩きつけられたコノエの腹を強打した。
コノエが気絶すると、リュウトはとぼけた顔をした。
「あれ、楽勝じゃん。俺、そんなすごいことしたかなあ?」
観客たちは、まるで優勝が決まったかのような熱量で歓声をあげる。
仮にこれがギャグだったとしても、私は妙な不気味さを感じる展開においていかれ、アウェー感を覚えていた。
みんなに大人気のリュウトと親交があった者たちが、私の知らないところで描かれた話を、まるで当たり前の設定かのように引っさげ大会に参加。
そして三人とも悪そうな、卑怯っぽい連中に敗北し、その無念を彼が晴らそうとしている王道展開。
そう、まるで、いつの間にか私の物語が、勇者リュウトの物語として書き換えられているような感覚。
クラスの中心にいた学生が、自分よりもっとすごい人間に出会って自身のちっぽけさを、世界の広さを思い知ったかのような居心地の悪さ。
こうして、第一回戦最終試合、パンチラシヨン最後の選手が、私の前に現れたのだった。
Bブロックも終わりです




