第七試合ッッ!!
第七試合は何とも異様であった。
二人の年老いた男女がシワだらけの顔を、互いに見合わせている。
老人が若者を経験で打ち負かすのはよく漫画で見かけるが、まさか二人とも老人とは、まったく勝敗が予想できない。
「第七試合は老醜対決!! 普段は島国のナース兼お医者さん、ジェルリ・キッコオオオ!!! 対するはあの勇者の師。大会出場は実に半世紀ぶり、クローノ流師範代、クローノ・ションビイイイ!!!」
勇者の師、クローノなる老人は、満面の笑みで観客たちに手を振った。
「おーいリュウト、師匠の活躍見ていてくれよー」
リュウト、それが勇者の名なのか。
バリッバリの日本男児名。やはり彼は私と同じ世界から来ているようだ。
勇者は呆れ気味に頬をかいた。
フォッフォッフォと笑うクローノに対し、老婆ジェルリはあくびをかましている。
「試合開始っ!」
開始早々、クローノが握手を求めた。
「ま、ここはジジババ同士お手柔らかにやりましょうや」
「そうだねえ」
二人が握手をかわしたその瞬間、
「それ!」
クローノの柔術によってジェルリはくるりと回され地面に叩きつけられた。
「悪いのう。なんせ弟子に優勝を誓ったもんで」
と、意地悪そうに唇を歪ませた瞬間、クローノは突如焦り気味に自身の右腕を左手で掴んだ。
クローノの額に汗が伝う。
ジェルリが立ち上がった。
「ないんだろ? 感覚が」
「むぅ……」
「そして力も入らない」
クローノは右腕から何かを抜き取った。
「針か」
「おやおや、針師ジェルリといやあ結構有名だと思ったんだがね。心配しなくていいよ、毒針だなんて手間がかかるもんは使わん」
「ならばこれは……秘孔か」
極細の針で秘孔を突き、敵の肉体に異変を起こす。それが針師ジェルリのようである。
クローノの額に血管が浮かび上がった。
「おもしれえ。ジジババ同士、手加減無しでやろうぜ!」
ジェルリは両手で針を投げながら、一気に距離をとった。
クローノはそれらを回避しつつ、全速力で突っ込んでいく。
「貧弱な武器で俺が倒せっかよ!」
そのとき、クローノは左足に異変を感じる。
左足が刺されたのだ!!
完全に左足が麻痺したものの、間合いは充分!
クローノは残った右足で踏ん張り、針を投げようとするジェルリの腕を払って、そのまま彼女の顎を下から掌打した。
ジェルリはふっとばされ、鈍い音と共に落下した。
「ふん。こんな激しい戦い方は好きじゃなかったんだがな。血が滾っちまったぜ。ところで、俺の腕と足は治るのかい?」
飄々とした態度でクローノが踵を返す。
途端、クローノはいきなり吐血し、地に伏した。
代わりに、ジェルリがムクリと起き上がる。
「痛いね〜まったく」
「て、てめえ、いつ刺した」
「最初の一撃目さ。もうちっと早く毒が回ると思ったんだがね」
毒針は使わないって言ってたじゃん……。
「使うに決まってんだろ。針師なんだから。カカッ、安心しな、死にはしないよ」
「勝者、ジェルリイイイ!!!!」
まるで虫を殺して楽しむ無邪気な子供のように、ジェルリは笑った。




