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第五試合ッッ!!

 軽くストレッチをして、心身ともにリラックスをする。

 思い返してみれば、一対一の真剣勝負など経験がない。

 闇夜に乗じて敵を屠るのが私の、くノ一としてのやり方であったからだ。


「芹子さん、ご武運を」


 ネネに見送られながら、私は出場者用ローブの袖の長さを気にしつつ、入場していく。


「第五試合の選手入場!! 小さな体でどんな戦いを見せるのか、ツッコミ担当キャラ、芹子おおおお!!」


 誰がツッコミ担当キャラだ。


「対するは」


 対峙する選手がフードを脱いだ。

 美しい水色の髪をした美少女が、私の眼に映る。


「前回優勝者の仲間。とある小国のお姫様、シエリスウウウウ!!!!」


 前回優勝者、つまり、勇者の仲間!?

 来賓席の彼を見れば、期待の眼差しでシエリスを見つめていた。

 彼女の方も、勇者に笑みを向けている。


「試合開始!」


 と言われたものの、どうする? 勇者へアピールするつもりが、相手は勇者の仲間となっては、勝っていいものか。

 とにかく、なんにせよ私の実力を見せるべきなのは変わらない。


 シエリスが天高く跳躍した。


「はああああ!!」


 縦回転を加えながら、シエリスが踵落としを仕掛けてきた。

 ささっと後退して回避すると、シエリスは足を器用に使って回転蹴りへと移行する。

 それも難なくかわしはしたが、


「痛っ!」


 腕に切り傷が生まれていた!

 しかも、傷の周囲が酷く冷たい。


「まだまだ行くわよ!」


 さらなる足技をすべてかわすたび、謎の切り傷が増えていく。

 ついには彼女の足を受け止めたとき、正体不明の攻撃への答えへたどり着いた。


「冷気ね」


 足に触れた瞬間、私の手はまたたく間に凍ったのだ。

 改めて彼女が立つ地面を見やれば、土が凍っていた。


 十中八九、氷系の魔法を使っている。華麗な足技のみならず、動きに合わせてカマのように鋭く圧縮した冷気を飛ばしているのだ。

 まさに、異世界ならではの戦闘スタイル。

 シエリスが得意げに笑った。


「同じ女同士、手加減はしませんよ」


「調子に乗らないでもらえるお嬢さん」


 反撃のため、ファイティングポーズをとった。

 そのときだった!

 腕と共に散々切られたローブの袖が、腕を上げたことでハラリと裂け目が開き、腕に刻まれた入れ墨が顕になってしまったのだ。


「おい、あいつ奴隷だぞ!」


 急いで腕を隠すも、観客たちは私が奴隷という事実に騒ぎ出した。


「奴隷のくせに出しゃばんじゃねえ!」


「俺の奴隷になれよ!」


「エッチなダンスしろ!」


 飛び交う私へのやじ。そう、これがこの世界における奴隷への価値観なのだ。

 綺麗な蝶々かと思って近づいたら蛾だと判明し軽蔑の眼差しで逃げるように、奴隷は、底辺の存在は、普通の人々にとって気持ち悪い虫けら同然なのだ。

 恥ずかしさで血が沸騰しそうになる。

 

 シエリスは自身のせいでこうなったと自認しているようで、気まずそうに私を見つめている。


「身分と力は関係ないわ。勇者くんもそう言っていたもの」


 彼女の鶴の一声に対し、観客席からは「さすがお嬢様」だの「心が広い!」だの、称賛が止まらない。


「……」


 私は羞恥が諦めに達し、ローブを脱いだ。

 マイクロビキニ姿で、シエリスを睨む。

 みなさま、申し訳ありませんが不肖ながら私芹子、逆ギレをさせていただきます。


「調子に乗んなよ、勇者のカキタレがっ!」


 高速で印を結び、私は作中でついに、忍術を発動した!


「影分身の術!」


 もう一人の私が出現し、同時に飛び出す。

 はじめて目にする技にシエリスは驚きつつ、私を蹴り飛ばす。

 が、それは影分身で作り出した偽物。

 本物の私は背後からシエリスに接近し、彼女の足に腕を絡ませ、関節技に持ち込み脱臼させた!


 足技を使ってくるなら、足を使えなくしてしまえばいい道理。


 シエリスの顔が苦痛で歪んだ。


「こ、こんなことで……。優勝するって、勇者くんに誓ったのに」


「これが底辺の戦いってやつよ、お嬢さん」


 止めの一撃を顔面にぶちかまし、実況が吠えた。


「試合終了おお!!」


 大ブーイングの嵐が私を包む。

 シエリスの敗北に、勇者が立ち上がって驚愕した。

 あぁ、くそ。やってしまった。まるで悪者みたいじゃないの私。


 差別により感情をなくし戦闘マシーンになった悲しき奴隷少女、って設定でうまく勇者に取り入れられないだろうか。

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