目覚めッッ!!
私の名前はセリーヌ。虫も殺したことのない気弱な14歳の女の子。
いつか心優しい王子様と結婚するのが夢なの。でも、現実はなんとも残酷。
父さんが倒産して家族ともども売られてしまったのがつい一週間前。
いまではマイクロビキニ姿で手を縛られ、奴隷商人に引っ張られながら街中を歩いているの。
他の奴隷たちは全身が隠れたローブを着ているのに、私だけマイクロビキニ。
アンティーヌという世界では一度奴隷堕ちしたら二度と這い上がれない。
剣や魔法を極めて凶悪なドラゴンを倒しても、奴隷と見破られたらとりあえずビンタされる悲惨な世界。
ぐす、ぐす、こんな仕打ちってないよ〜。
「おら、さっさと歩きやがれ!」
奴隷商人のおじさんがムチを奴隷仲間に振った。
よっぽど痛かったらしく、打たれた奴隷は悲鳴をあげて泣き出してしまった。
ふええ、怖いよ〜。
「おめえらもちんたらしてたらこいつでぶっ叩くぜ。なんつっても1億ギルはしたワニ皮のムチだからな。いいかワニ皮だぞワニ皮! ブランド物だぞ!」
その後も商人は自慢気にムチを見せびらかせて、ワニ皮だぞ! と連呼した。
こう、奮発して高級品買ったはいいけどいまいち価値がわかんなくて、どうしようもない語彙力で自慢しちゃう貧乏人の、なんと惨めなことか。
「おいてめえ! なに羨ましそうに俺のムチを見てんだ!」
商人が私に近づいた。
「ええ!? 私は別に……」
「そんなに羨ましいなら触らせてやるよ! ワニ皮を喰らえ!」
最高級ムチが空を切り、私の柔肌に直撃した。
まるで赤く熱されたナイフで切り裂かれたような、鋭い痛みと熱が全身を駆け巡り、脳が真っ白に染まる。
そのときだ、私の脳裏に、見に覚えがないはずの記憶が走馬灯が如き速度で駆け巡った。
「ああああああ!!!!」
気づけば痛みなどなんのその。
それ以上に重大な事実を、思い出してしまったのだ!
「わ、私、ホントはくノ一じゃん!」
私の名前はセリーヌではなく芹子だし、虫どころか人だって殺していたのだ!
まるで宇宙の心理を知ったかのような衝撃がアドレナリンとなって止めどなく溢れてくる。
そう、とどのつまり私は、奴隷少女に異世界転生してしまったのだ。
しかしどうしていまになって? 過去にもムチで打たれたことはあるし、もっと痛い思いをしたことだってある。
もしや、ワニ皮か? ワニ皮パワーで前世の記憶が蘇ったの?
さ、さすがは高級ブランド。ありがとう! ワニ皮!




