第四試合ッッ!!
選手入場口で試合を見ていた私の横を、退場したレンカが通り過ぎた。
去る間際、気になっていた疑問をついぶつけてしまった。
「もしかして、はじめから負けるつもりだった?」
レンカは振り返ると、優しく微笑んだ。
「私はお姉ちゃんだから。妹の成長のために一肌脱ぐのは当たり前だよ。でも、まさかいきなり戦うとは思ってなかったけどね」
あははと苦笑いして、レンカは去っていった。
敗北した選手は控室には戻れず、観客席で大会の行く末を見守ることになる。
ふと、私は生前大好きだったお母さんの顔が脳裏に浮かんだ。
レンカと入れ替わるように、メミーナが現れた。
「いよいよあんたの出番ね」
「……ふん」
と、メミーナはあからさまにそっぽを向いた。
あ、一応まだ絶交中なのね。私たち。
そろそろ仲直りしたいところである。
私はメミーナのこと、いまではもう仲間だと思っているのだから。
頑張りなさいよ、メミーナ。
メミーナと対戦相手が入場する。
「続いてAブロック第四試合!! 変幻自在のおふざけ格闘家、メミーナアアア!!!! 対するは、元気いっぱい夢いっぱい、輝く未来に猛烈ダッシュ、魔法少女、リリィィィィィ!!!!」
うおおおおおおおおおおおお!!!!!
リリィちゃん頑張れリリィちゃん頑張れ!!
リリィちゃん勝てリリィちゃん勝て!!
リリィちゃんしか勝たんっっっ!!!!!
メミーナなぞぶちのめせえええ!!!!!!!
「試合開始ッッ!!」
リリィちゃんは星が先端についたステッキを両手でぎゅっと握り、緊張気味にペコリと頭を下げた。
「よろしくおねがいします!」
「先手必勝!」
急にバレーのスパイクを繰り出し、リリィちゃんにバレーボールをぶつけた。
なにしやがるこいつ!
「きゃあ!」
「まだまだあ!」
繰り返されるスパイク攻撃。
リリィちゃんは連打を受けながらも次第に攻撃を見抜き、猛攻をかわし始めた。
「私だって負けません! いっけええ!!」
ステッキから巨大な光弾が発射された。
私に撃ったときの貧弱なものとは程遠い一撃。これが本来の、成功した魔法攻撃なのか。
が、
「甘いわ!」
メミーナはサーブで光弾を頭上へ打ち上げ、
「気が弛んどるわ〜!」
ジャンプして光弾を強烈スパイク!
「きゃあああ!!」
リリィちゃんは自分の攻撃を受けて、絶叫を上げた。
がっくり横たわるリリィちゃんに、メミーナが喝を入れる。
「そんなもんか! お前の夢っつーのは」
「わ、私の、夢?」
「そんな根性でアイドルになりたい、だって? ははっ、鼻で笑っちまうね」
「……くっ、やっぱり、私なんかがアイドルになれないよ」
リリィちゃんの丸い瞳から、ポロポロと涙がこぼれだした。
「私なんて、普通の女の子だもん」
いや、魔法少女な時点で普通ではないんですけどもね。
落ち込むリリィちゃんの肩を、メミーナが優しく叩いた。
「アイドルになりたい。大いに結構よ。ちやほやされたい、輝きたい、自分を変えたい。女の子なら、いや人間みんな夢見るものよ。でもみんな諦める。なぜか? 恥をかきたくないから、失敗したくないから、馬鹿にされたくないから、怒られたくないから、そうやってみんな普通の人生を選ぶのよ。でもね、諦めずにアイドルを志す人もいる。必死に努力して、芸能界の闇に飲まれ、心が荒んでもアイドルになりたい、アイドルでいたいと心がける。そういう世界なのよ!! こんなもんでへこたれるようなあんたに、そこまでの意志、情熱ハートがあるっての!?!?」
「わ、私には……」
「あんたが憧れるアイドルも、みんなそうやって苦しんで来たのよ!」
謎の説教を受け、リリィちゃんの瞳に熱が宿った。
「メミーナさんの、言う通りです」
ふらつきながらも、しっかりと立ち上がった!
「私は、まだまだ心が弱いです。すぐ後ろ向きになっちゃうし。でも、諦めたくない、諦めない! 私、キラキラ輝くアイドルに絶対なるんだもん!!」
メミーナがニヤリと微笑む。
「よく言った! 行くぞ!」
「はい!」
いつのまにか集まっていた謎のバレー部員たちも気合を入れた。
「「「はい!!」」」
メミーナがサーブを打つ。
それをバレー部員たちがトスして回していき、
「「「いっけええリリィィィィィ!!!!」」」
「リリィ、いきます!」
魔法の力で天高く舞ったリリィちゃんが、メミーナに向けて鮮やかで力強いアタックを決めた!
メミーナは反応しきれず、ボールを喰らってしまう。
リリィちゃんは涙混じりに、ガッツポーズをした。
「やった!」
部員たちがわらわらと集まってリリィちゃんを胴上げしはじめた。
「おめでとう!」「おめでとう!」「おめっとさん」
「ありがとう! 誰だかわからない人たち!!」
それを微笑ましく見つめていたメミーナだったが、突如バズーカ砲を取り出して、
「私を仲間はずれにするんじゃねええええ!!!!」
リリィちゃんwithバレー部員たちはふっとばされ、落下の後気絶した。
「勝者、メミーナアアアアア!!」
知らん人間乱入しとるんですけども、反則じゃないんかい……。
これぞメミーナのギャグ拳法。なんだかんだ、なんでもありなこいつが一番厄介な選手かもしれない。




