第一試合ッッ!!
「最強は誰だ!!」
会場の観客席を埋める人、人、人。
わーわー盛り上がっている人々に紛れたマイクを持つ実況者が、そう叫んだ。
「この世には、強いやつが多すぎる!! どいつもこいつも俺が強えいや俺が強え!! 威張り散らした美しいツワモノたちよ、いまこそ誰が一番か決めてくれえええ!!!」
煽りに載せられ、観客たちはさらに盛り上がる。
私は他の出場者たちと共に入場し、整列して土を踏んだ。
「ここに集いし16人。それを見下ろすのは現最強、前回優勝者のこの男!!」
観客席の中央、周囲から区切られた特別席。
王族が座るもののような来賓席に、一人の男が腰を据えていた。
やや照れくさそうに手をふる男の両隣には、可愛らしい女が二人。
間違いなく、彼が勇者だ。
「身元不明、突如現れた常識知らずのこの男が優勝したあの衝撃がつい昨日のよう。今日、あの伝説が塗り替えられるッッッ!!!!」
どうやら、聞いたところ正真正銘、私と同じ異世界転生者らしい。
彼に気に入られてハーレムに加わる。この大会はいわば面接、就活のようなもの。
「それではさっそく第一試合!! 戦うのはこいつらだ!!」
選手にはそれぞれ番号が振られていて、番号順に戦っていく。私は9番。出番はまだ先だ。
そしてパンチラシヨン第一試合、最初に戦うのは、
「武者修行中のサムライガール、ネネ!! 対するは、世界の奴隷は全員俺のもの、奴隷商人ッッ!!!!」
会場に二人だけが残り、互いにフードを脱いだ。
考えてみれば、ネネがまともに戦う姿を見るのは初めてである。
奴隷商人のおじさんは……まあ、無理しないで頑張って。
私は選手入場口から、ネネの奮闘を応援することにした。
「お前たちが参加すると噂を耳にして、またあの二人を騙して俺たちも参加したのだ! お前も奴隷にして売りさばいてやるぜい!!」
奴隷商人はお気に入りのワニ皮ムチを振り出す。
そして余った左手には、もう一本。
「チタン合金製の特殊ムチだ!! 高くついたぜ」
二本の鋭い尾がヒュンヒュンと空気を切る。
肩、肘、手首、腕の関節をフルに使って大きく振ることで、射程距離を存分に伸ばしている。
「自然と科学の驚異を食らうが良い」
一方、ネネはひどく落ち着き払った相好で、刀を鞘に収めたまま、あろうことか、
「先端は見えぬまでも、間合いは見当がつく」
ゆったりと、奴隷商人に歩み寄った。
これには奴隷商人もびっくり。警戒し距離を取るならまだしも、まさか接近するとは夢にも思わなかっただろう。
「ちっ、じゃあ痛がりやがれ!」
二本のムチがネネへ迫る。
まさに触れるかと思われたその瞬間!
「ぬるい!!」
ネネの抜刀一太刀で、ムチは二本とも切り落とされた。
「なに!?」
「常に間合いの限界ギリギリまで振っていては、踏み込んだ瞬間即攻撃だと教えるようなもの。対応し切り裂くのは容易いことです。あとは、肩の動きを見て攻撃箇所を絞れば、こんなもの」
「ぐぅ……」
奴隷商人は額に汗を流し、一歩後退した。
ネネは剣先を点に向け、上段の構えへと移行する。
「覚悟」
大きく踏み込んで一閃、このまま頭部から真っ二つに切り裂くかと思われた刀は、奴隷商人の頭のてっぺんで、ピタリと停止していた。
「こうなっては手を加える価値もありません。どうか降伏を」
「ま、参りまいした……」
こうして、一回戦第一試合が終了した。
おいおい、こんなきちんとしたバトルをするような話だったかなこれ。
しかしこのときの私はまだ知らなかった。まさかこの大会が、「お前路線変更でもしたんか?」と疑われるぐらい、序盤とは打って変わったドシリアスな展開になることを。




