控室ッッ!!
くノ一の技術があるとはいえ、いまは衰えきった少女の肉体。
私は丸一日、人気のない公園で全身の筋肉に負荷を与えるハードな筋トレをすませた。
これで、とりあえず即席で私の魂を、「奴隷少女セリーヌ」の体に馴染ませることはできたわけである。
それから一日立って今日、私はネネと共に、闘技場へ向かった。
選手用の受付でフード付きのブカブカのローブを渡されたのだが、試合開始まで自分の正体を隠すための配慮らしい。
たしかに、一目相手の五体を見ただけで、格闘スタイル、得意技、弱点などなど、看破するのは難しくもない。
「この先が選手控室のようですね」
扉の前でネネが告げた。
心地よい緊張感を抱きながら、ドアノブを回す。
控室の中には、同じようにローブを纏い、フードで顔を隠した者たちが集まっていた。
大柄小柄など、ローブで隠しきれない特徴は掴めるが、それ以外はてんでさっぱりな強者たち。およそ、私たちを含めて16人といったところだ。
……あれ? あ、え? いまのところすごくNOおふざけで語ってない?
これよ、これよこれこれ、こういう語りをしたかったのよ私は。
「あ! 芹子ちゃん!」
一人の選手がきゃわいい声を発しながら、近づいてきた。
フードを脱いで顔を見せてきたとたん、私の心臓が熱く熱く脈打った。
「リリィちゃ〜〜〜ん!!」
どうしてこんなところに推しがいるの? 幻? 夢?
「王都に立ち寄ったので、参加してみちゃいました!!」
「そっか〜。行動力があってしゅてきだね♡」
「えへへ。コノエちゃんも奴隷商人おじさんもいますよ」
「そうなんだ〜。遊園地に遊びに来たみたいなテンションなんだね。可愛いよ」
「そ、そんな、可愛いだなんて……」
顔を真っ赤にして照れる私の推し。
はぁ〜、好きだ。
コノエもこっちにやってきて、フードを脱いだ。
「なんか一人増えてるけど〜、金髪のやつは〜?」
「そういえば、ここにいるはずなのに話しかけてこないわね」
「芹子さん、あそこ」
ネネが指差す方を見れば、明らかにこっちを意識している巨乳の女がいた。
フード越しでも、チラチラ様子を伺っているのが丸わかりである。
「メミーナ、2日ぶりね」
「……話しかけないでよ」
「え?」
メミーナは体育座りをして、そっぽを向いた。
「いいもんいいもん。わたしゃ一匹狼になるもん。絶交だよ」
「え、え。構わなかったからってそんないじけないでよ。ごめんて」
「知らないもん」
いっそ、このまましおらしく生きてくれたほうが可愛げがあっていいな。
「あ〜あ、私はこうやって一人ぼっちで死んでいくんだな。誰にも看取られず、一人寂しく死んでいくんだな」
なんだこいつめんどくさ。
メンヘラだったのかよ。
「まあまあ、私も反省するからさ〜」
とそのとき、控室の天井に設置されたスピーカーから、大会開催間近の報せが放たれた。
ここブランブラン王国王都でたまに開催される格闘大会『パンチラシヨン』。
優勝賞金1000万ギルと、全世界に轟く最強の称号を奪い合う戦いが、まもなく開催される。




