炸裂! ドリームハート拳法と人の闇拳法ッッ!!
奴隷商人が私たちを指差した。
「行けお前たち! この悪人どもを引っ捕らえろ!」
リリィちゃんが、先端に星がついた可愛いらしいステッキを取り出した。
「よーし! ドリームハート拳法いきます! ていーっ!」
ステッキを振ると、淡く発光している丸い玉がゆっくりとこっちに飛んできた。
ていうか魔法少女属性なんだ。いいじゃん。アイドル志望の魔法少女。いいじゃんいいじゃん。
するとリリィちゃんはもの悲しげに目に涙を浮かべた。
「うぅ、また失敗しちゃった! ほんとはもっと強いビームがでるのにい」
それが出てきたのが丸くのろい光る球。
このまま避けたり防いだりしたら、リリィちゃんはもっと悲しんでしまう。
させない。推しを悲しませるなんて私にはできない!
球は私に直撃したが、その威力はそよ風の如き感触であった。
せめてまともに痛かったらよかったものを。しょうがない、推しのためには一肌脱いでやる!!
「うぎゃあああああ!! 痛い! なんだこの攻撃!! 強すぎる〜〜〜!!」
リリィちゃんの顔がパアっと明るくなり、ぴょんぴょん跳ね出した。
「やった! うまくいったみたい!! 嬉しい!」
リリィちゃんが笑顔で私も嬉しいよ。どうかその笑顔を絶やさないでほしい。
メミーナが失笑した。
「セリちゃんさ〜」
「うるさいわね! 私は推しのためならピエロにでもなる女なのよ!」
「忍法『下手くそヒーローショー』、だね」
「黙れ!」
コノエがいやらしく頬を歪ませた。
「なんだこいつら、弱っちいじゃん。じゃ、私もやっちゃおっかなあ〜。人の闇拳法」
すると、コノエは懐からピストルを出し発砲しはじめた。
銃弾は運良く外したが、
「ちょ、あんた! それのどこが拳法なのよ! 銃じゃん! 近代兵器じゃん!」
「いやいや、人の闇拳法なんで〜」
そりゃ人の闇を凝縮した産物だろうよ。
だいたいな、拳法なんだから素手で戦えよ! 己の鍛え上げた筋肉を信じろよ!
リリィちゃんがコノエに抱きついた。
「コノエちゃんかっこいい! すごいな〜。でも、ほんとに人に当てたらダメだよ!」
「ちょ、リリィ、離れなさいよ。当てなきゃ意味ないし」
「離れないよ。コノエちゃんは親友だもん!」
「うぅ〜(照れ顔)」
うわあああああああ!! やばい、この攻撃が一番キツイ!!
なんだこの感情、コノエへの嫉妬。かわいいリリィちゃんが見れた幸福感。プラスとマイナスの感情が螺旋状に渦巻いて心が破裂しそうだ。
しかし、混ざりたいとは思わない。コノエと代わりたいとは思わない。
何故なら推しであるリリィちゃんが、リリィちゃんの親友と、二人の間にできた絆を確かめあっているのだから。
眺めるだけでいい。推しが推しの好きな人と幸せなら、私も幸せ。
これが、尊い、というやつなのか?
コノエが銃口を向けた。
「今度は外さないよ〜ん」
メミーナが舌打ちをする。
「セリちゃん使い物にならないし、しゃあない! 見せてやる! 総合誠実格闘術超自由形ミニマム級『灼熱地獄廻し!』」
途端、リリィちゃんがどっと汗を流し、顔が火照りだした。
「な、なんか急に熱くなってきちゃった」
「ええ!? おいメミーナ、これあんたの仕業?」
「これからどんどん体温が高まる地獄の技だよ」
リリィちゃんになんてことしやがる!
リリィちゃんはスカートをパタパタと仰ぎだした。
「下に水着着ててよかった〜。脱いじゃおっかな」
脱げ! 脱げええええ!!
メミーナよくやった!!
コノエが心配そうに見やった。
「リリィ、大丈夫?」
「う〜ん。あっ」
「わ! また急に抱きつかないでよ」
「えへへ。コノエちゃん冷たくて気持ちいね」
ひやあああああ!! めっさ尊いよ〜〜〜〜!!
やば、幸せすぎて死にそう。




