凡人の戦い1
俺が駐屯地に戻ると、アスフィルがテントの外で立って待っていた。
「やってくれたな……」
彼が呟いたその一言で、彼が俺が今しがたしてきた行為を認知していることを察した。
血の匂いか?そういうのに敏感だというのもあり得る……などと思考を巡らせている俺に彼がハンカチらしきものを渡してきた。
「言いたいことはいろいろあるがまず血を拭え」
「血……?あぁ川で洗おうと思ったのにその川が汚染されていてな。
その汚染されている川の上流に反乱軍の基地があると思う」
「その様子だと。もう何を言ってもしょうがな。
今回の兵士は敵の基地を単独で調査に向かい絶命したことにしておく。
お前はその服を焚き火にでもくべてこいそして新しいローブを羽織れ」
「わかった」
そう言って俺はローブやシャツを脱ぎながら焚き火の方へ向かう。
正直アスフィルの対応には驚かされた。
情に熱そうな彼なら、仲間を殺した俺をぶん殴るだろうと思っていた。いやもう俺の様子を見て、感情をぶつけるだけ無駄だと思ったんだろう。
着替えてからしばらくすると笛の音が辺り一体に響いた。
するとテントからわらわらと兵士が出てきて、彼らは武器の置いてあったテントから自分の装備を取り、慣れた手つきで装備していく。
夜の間に出発するということなのだろうか?
確かにあと数時間で朝は来るし、上流が山頂近くにあった場合、この人数の休憩するスペースを確保するのも容易じゃないだろう。
兵士が2列になり山道を歩み始めたので俺はアスフィルの横に立ち後に続いた。
しばらく登っても周りにあるのは木々だけで何もなく、おそらくかなり山頂に近い位置に基地はあるのだろうと推測していると、俺たちの道の先にたくさんの人影が見えた。
敵の軍勢かと思い隊の全てが剣に手をかけたが、慌てて山を降ってくるのは同じデザインの鎧をきた兵士たちだった。
列の先頭にいた兵士が慌てて降ってきた兵士に尋ねる。
「貴様どこの隊のものだ」
「私たちはアスール様率いる反乱分子討伐部隊の先行隊です。
助けてください。この先に敵の基地を見つけたのは良いのですが、敵の数、強さが予想以上で撤退を強いられたのですが、アスール様他幾人かの強者がしんがりとして……」
そこまで話した兵士は隊の先頭に居た兵士に殴られた。そして彼は襟を掴まれ糾弾される。
「貴様主君を残して逃げてきたのか!!恥を知れ」
そう言ってもう一度打とうとするのを止めたのは先程まで俺の隣にいたアスフィルだった。
「それでアスールはこの先にいるのか?」
そんなアスフィルの現状確認に対して、逃げだて来た兵士は頷いた。
「隊を半分に分ける。後ろ半分は逃げてくるアスール隊の兵士の治療に当たってくれ。
残りはアスール達しんがりの救援に向かう」




