英雄の休日2
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今俺たちが向かっている隣町のショッピングモールは施設内に通路がある、いわゆるエンクローズドモールと言われる種類のものだ。
今自分が住んでいる町は住宅地と公共施設で構成されている。
コンビニやスーパー、飲食店は何店かあるが、隣町に行かなければ大きな店はない。
そのためバスで二十分ほど揺られて隣町まで来たのだが…
周りからの視線が気になって仕方ない。恐らく、原因は隣のイケメンだろう。
すると隣から
「ねぇ、さっきから視線が気になるんだけど」
と呟く声が聞こえた。
どうやら紅依奈も同じ違和感を感じていたらしい。
三人で横一列に並んで歩いているのだが、右から俺、紅依奈、クオンと並んでいるので、彼女が感じる視線は俺以上だろう。
「そんなこと言ったって、クオンにイケメンをやめてもらう訳にいかないだろ?」
俺が冗談めかした言い方をすると、紅衣奈も俺の冗談に乗っかり、
「ねぇクオン君ちょっとイケメンやめてみてくれない?」
と彼に提案する。
2人とも出来るわけがないと、たかを括っていた。
しかしクオンの返答は意外なものだった。
「できるよ」
「「え?」」
驚きのあまり俺たち二人が動けないでいると
「だからできるって。魔法で」
確かに昨日俺の渡したラノベ数十冊を一晩で完読したことからも出来ないということはないと思うが…
「そもそもこの世界に魔法って存在するのか」
まずい・・考えていたことをそのまま口に出してしまった。
クオンが
「見てもらったほうがいいかもな」
と言いつつ手のひらを見せてきた。彼の透き通るような白い手に薄紫色の魔法陣が浮かび上がる。
するとその魔法陣の中心から指輪が出てきた。
「この世界に魔法が存在しないんじゃない、魔力が存在しないんだ。
昨日の本を読んでわかったよ。この世界での魔法の考え方についても。
でもあくまで存在しないのは魔法ではなく魔力なんだ。」
彼は止まることなく言葉を連ねる。
「世界にもともと存在するエネルギー量ってのは決まってる。エネルギー量が多ければ多いほど、様々な手段で物事を処理できる。」
なるほどクオンが言いたいのは、電気エネルギーや運動エネルギーと同じように、魔法エネルギー=魔力が存在するということか。
火をおこすのに火打石を運動エネルギーで打ちつけるのと魔力を利用して魔法で火をつけるのは同じだと。
さらにクオンは続けた。
「この世界のエネルギーを魔力に変換して魔法を使えばいいだけ。
もちろんエネルギー量が少ないこの世界でエネルギーその辺にが落ちてるわけないからね。」
「じゃあ何のエネルギーを使ってるんだよ?」
俺の素朴な疑問にクオンは、軽快に答えた。
「別に不思議な事じゃあないだろ。俺たちの体ん中にもエネルギーが存在してるだろ」
確かに人体を動かすためにデンプンがどうのとか、ATPがどうのこうのっていうのは生物で習った。
しかし物事を無理矢理解決できるほど膨大なエネルギーが体内にあるとは考えづらい
するとクオンが俺の心を読み取ったかのように話を続けた。
「そもそも俺はこの世界の人間じゃないからな。この世界の人と構造からして違う。
そもそも体内のエネルギーが多いってこと」
生物が環境に適応した進化をするなら考えられなくもないか
「じゃその指輪何なんだよ」
ただの自慢で見せたわけではないだろうし何か魔法と関係あることなんだろう。
「これは、道具だよ。火を付けたり風を起こしたりするくらいなら魔力単体でどうにかできるかもしれないけど。
本を瞬時に読んだりするのは、複雑すぎるだろ?
だからやりたいこととかをいろいろ設定したこの指輪に魔力を通すことで無理を通してるわけ」
なるほどあくまでも「道具」ということか…コンピューターも電気自動車も魔法の杖も同じ分類ってことだな。
隣を見るとすでにオーバーヒートした紅依奈が頭を抱えて苦しみながらこう言いはなった。
「一度にこの説明量はアニメだったら皆一話切りしてるよ…」