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凡人の過失

 瞼を開けるとそこには、知っている天井が広がっていた。ベッドから起き上がり、シャワーを浴び服を着替える。学用品をカバンに入れるついでに昨日作ったものを入れ、同居人に声をかけ、朝食を取らず共に学校に向かう。


 いつものモーニングルーティーンにわずかなイレギュラー介在していることに気づきながらも、なるべく普通であろうとすることは、周りから見れば酷く滑稽かもしれない。


 今から向かう学校という場所はある意味では、【学生】という普通であることができる場所かもしれないな。


 そんなどうでもいいことを考えながらドアを開け外に出ると、家の前に紅依奈が立っていた。


 制服を着た彼女は、何やら話したそうな、申し訳なさそうな顔をしている。



 彼女が口を開き「あっ・・」と言葉を発しようとしたとき、俺は彼女の肩に手を置き


「気にするな。」


 と声をかける。すると彼女はいつもの表情に戻り俺の右斜め半歩後ろを歩く。


 それでよかったのか・・・・・


 心に残る微かな不安は突如横から聞こえた声によって見失われた。


「昨日聞いた戦闘を撮るっていう話の中の魔法で認識をゆがめるって話。このピアス付ければできる。」


 そういってクオンは、同じデザインのピアスを俺と紅依奈に一つずつ渡す。二つのピアスのデザインは全く同じであることから、二個一対の装飾であると思われる。二つしかないことにクオンはどうするんだという疑問が出てくるが、恐らくショッピングモールで使用していた指輪を使うのだろう。しかし一つの疑問が頭に浮かぶ。


「どこで聞いたんだよ。俺お前に話してないよな?」


 昨日動画配信のことはクオンには話していないはずだ。なぜならクオンと契約について少し対話した後すぐに階に上がったからだ。今思うと感情が制御できずにその場から逃げ出すのは、思春期真っただ中の中学生男子みたいだなと思い少し恥ずかしさが込み上げてきた。


「これだよ。これ。」


 クオンは得意げにスマホを見せつけてくる。それを使って連絡を取ったという意味なんだろうか。


「昨日手に入れたばかりなのによく使えたな。」


「俺が今までどれだけの武器を扱ってきたと思ってるんだよ。このくらい朝飯前だよ。」


 つまりスマホのSNSを通じて紅依奈から情報を得たと・・・


 学校に着くまで紅依奈とクオンが動画について話続けていたが俺はどこか他人事のように聞いていた。


 校門で紅依奈と別れるとき彼女が昨日の使っていたメモ帳の一ページを切り離して渡してきた。


「これ昨日考えた技名だからちゃんと配信までに覚えておいてね・・」


 それを受け取りポッケに詰めた後下駄箱に行こうとしたところクオンが学校中の女子に取り囲まれていることに気づく。まあ始業の時間が近づけばいずれ解散するだろうと思いひとまず置き去りにしてみる。


 下駄箱で外靴をうち履き用のサンダルに履き替え教室を目指そうと一歩踏み出すと視界の右端に映る女子生徒が話しかけてきた。


「あのさ、関谷君だよね?」


 どこかで見覚えのある顔だ。それにサンダルの色から察するに上級生・・・思い出した。軽音部の先輩だ。軽音部はその特質上グループ単位で活動することが多いから、同学年じゃない部員は名前とか忘れがちなんだよなと思いつつ、


「何か用ですか先輩」


 当たり障りのない言葉で返す。すると先輩は俺が想像だにしない言葉を投げかけてきた。


「大鷲絃葉のことなんだけどさ、なんというか・・ちゃんと真摯に向き合えよ。」


 あまりにも要領を得ない言葉だったので思わず「どういう意味ですか?」と聞き返すと先輩は激高し言葉の真意を口にした。


「昨日お前紡葉に告られただろ?そのことについてだよ。」


 ああ昨日の下校中の話か・・・俺の言葉が嘘であることに彼女は気づいているはずだ。


「その顔見るとまだわかってないみたいだな。」


 先輩は俺が言葉をはさむ間もなく続ける。


「昨日紡葉から泣きながら電話があってどうしてか聞いたら、告白をしたら聞こえてない振りをされたらしくてなぁ。お前がどんなつもりで聞こえないふりをしたのか知らないけどそれがばれてないと思ってるのか?」


 さらに先輩は続ける。


「確かにあいつは勘が鋭いから今までお前の嘘を見抜いてきたかもしれないけどな、でもあいつも一人の人間だ。いや一人の女子高生なんだ。すべてを俯瞰的に眺められるわけじゃない。」


 ここまで説明された時点でようやく理解した。


 つまり彼女は俺の聞いていない振りを見抜き、そして降られたことに涙した。いやちゃんと降ることも受け入れることもせずただ俺の都合で取ったあいまいな態度、その態度の原因を己にあると思ってしまったのだろうか。


 ひとまず放課後に謝りに行ったほうがいいのだろう。


 俺が謝るという結論にたどり着いたのに気付いたのか先輩はその場を去っていった。


 授業中は、なんて謝ろうかということで頭がいっぱいで授業の内容はほとんど頭に入ってこなかった。


 チャイムが放課後の事実をひしひしと伝えようてきた。俺は立ち上がると紡葉のいるクラスに向かう。しかし教室のどこを見渡しても彼女の姿はない。つまりは・・


「今日大鷲さん来てる?」


「大鷲さんなら今日欠席だけど・・・。」


 授業終了後直ぐに来てもいないことから、何となく察したがもし欠席の理由が俺ならばなおさら謝らなければならない。


 もし風邪だった時のためコンビニでスポーツドリンクとゼリーを買い彼女の家についた。


 インターホンを押す勇気がどうしてもない。あと数センチ指が動けば押せるのに、なぜ俺はこんなにビビっているんだ?


 ビビる→弱い


 思考が【弱い】に結び付いた時俺の思考は痛みに襲われる。


 痛みに促されてインターホンを押した。


 そして俺は衝撃の事実を知る。


 彼女は今日学校に行くと言って家を出たらしい。


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