英雄の休日7
ただ欲望のままに力を求め、その対価が英雄の助力という、歪な契約がここに成立した。
クオンがバックステップで敵と距離を取り、俺の横に立った。
よく見るとクオンは、出会ったときの漆黒の外套を着て、1.5メートルほどの剣を右手で持っている。
「前にも言った通り、ルールを逸脱したことは出来ない。けど俺が持ってるチート武器なら手っ取り早く強くなれるだろ?」
するとクオンは、左手でなにかを渡してきた。
・・・これは、銃だ。
自衛隊が持てそうな最新の実弾銃ではなく、まるでSF映画に出てくるレーザーガンのようなデザインの銃だ。
半透明の黒い本体に、台形を組み合わせたような近未来なモールドが刻まれており、ところどころ黄緑色に発光している。
確かにこれなら俺自身がどんなに弱くても手っ取り早く強くなれるし、敵との距離を一定に保てるから生身の俺にピッタリの装備だ。
詳しい使い方などはわからないが、ひとまずそれっぽく構えてみよう。
右手に銃を持ち、脇を絞め、グリップを強く握る。
すると視界が赤外線カメラのように緑色に染まり視界が悪くなった。
この現象は、間違いなく銃の影響だ。
だがいくら科学技術が進んだ世界の銃とはいえ、ただ視界が悪くなるだけの銃になんの意味があるのか、と思っていたが、突如視界の中央に白い文字が浮かび上がる。
その文字は右側から浮かび上がり五つ浮かび上がる。
見たことのない文字だったがそれが何を表しているかすぐに理解できた。
文字が消えると、視界の四隅にゲージのようなものが表示され中央に六芒星のようマークが表示された。
それはまるでゲームのHUDのようだ。
試しに銃口を敵の白騎士に向けてみると視界内の六芒星のマークが移動する。
「使い方は大体わかっただろ?リョーマは後ろから狙撃してくれ」
突然のクオンの声に驚きつつも頷くと、クオンは剣を握り直し白騎士に向かって走っていく。
彼は、敵と何度も剣を交わし続けている。
ただ続けている。
彼が鍔迫り合いをしている姿を見て理解した。
これはきっと試練だ。俺が力の使い方を学ぶための。
きっといくつもの世界を救ってきたクオンが本気を出せば、敵一体くらい一撃で倒せるだろう。
しかし敢えて戦いを長引かせているのは、俺に力を使う経験を与えるためだろう。
冷静に、この状況を分析してみよう。
まず銃の六芒星のマークは、俺の人体の弱点に対する認識を反映しているのか白騎士の頭を常にロックオンしている。
つまりトリガーを引けば、敵の頭をめがけて直線的に弾が飛んでいくということだ。
そして今の俺の走力では、この瓦礫が多く散らばっている床を走り回りながら狙撃することは出来ない。
結論として導き出される答えは、クオンが敵の頭部と銃口の直線上からずれた瞬間にトリガーを引き打ち抜くことだ。
全神経を研ぎ澄まし機会を待つ。
全ての雑音は、フェードアウトして自らの心音と剣のぶつかる金属音だけが聞こえてくる。
まるで世界にただ一人だけ取り残されたような静寂の中・・・
いや逆だ。
俺が世界を取り残している。
この力を手にした時点で俺は一歩先に進んだ。
・・・・
・・・・
・・・・
・・・・
・・・・
“ここだっ!!”
俺はクオンが直線上からはずれ、六芒星のマークが白から赤に変わった瞬間トリガーを引いた。