表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モノクロレインボーシンフォニー  作者: 華水ながれ
第一部 -『夢』と『現実』-
4/5

20年の壁って、結構厚い?

 ―――


「蓮ちゃん……あの」

「……ごめんね、嫌いになったよね。こんな私の事、さ」


 零くんには、『現実の私』を見せたくなかった。


 ―――遡ること、15時間前。

『現実』での、職場で起きた出来事。


 私は、勢いで零くんを押し倒してしまった。

 運悪くジャストタイミングでやってきた小太りの男性は、

 私の直属の上司・作間(さくま)さん。


「山野……お前……!」

「ひっ、あ、あの! すみません! これはかくかくしかじか!!」

「言ってる暇があったらそこをどけ!」

「ひえええっ!? は、はいぃ! すみません!!」


 作間さんは、私を押し退け零くんが起き上がる背中を支えた。


「大変申し訳ございません! うちの馬鹿が……!

 お怪我はありませんか!?」

「いえ……私が山野さんを巻き込んでしまったんです。

 お気になさらないでくださ……」

「しかし! 藍内さんにとんだご無礼を……!

 こいつの事ですから何か失礼があったかと……!」


「……」

「おい山野! お前も藍内さんにすぐ謝れ!

 いつも口だけの『すみません』は言うくせに、なんでここで言わない!!」


 聞き慣れた、いつもの怒号。

 この姿を零くんに見せてしまったのが、情けなくて、辛い。

 涙を堪え、私は零くんに深く頭を下げた。


「大変、申し訳ございませんでしたっ……」


 最後で、声が詰まってしまった。

 今日もトイレの個室を占拠して、声を殺して泣いた。


 ―――そして、現在。

『夢』の中に戻る。


『現実』の零くんと出会って、初めての『夢』の中。

 昨日の甘々な雰囲気はどこへやら。

 零くんの告白の返事は、Noと言うつもりだ。

 だって、あんな私を好きになる人なんて、いるわけない。

 ここにいるのは、偽りの私だから。


「だってさぁ! 零くんってあの有名な超大手企業の社員さんで、しかもリーダー!

 それに比べて私は、ただのアルバイト! 就職活動は123連敗! もう笑っちゃうねぇ!」

「蓮ちゃん……」

「零くんはさ、もっと素敵な人がいると思うんだ!」

「……!」


「私はさ、私らしく一生誰かに踏まれて生きてい……ひゃあっ!?」


 視界がぐらっと揺れた。

『夢』の世界の空が見えるかと思いきや、零くんの顔がどアップで映る。


 ……これ、朝と体勢逆バージョンだ。

 次は私が、零くんに押し倒されてる。


「僕が大好きな人のことを、否定しないで」

「それは、『夢』の私のこと……でしょ?」


 うわ、零くんの息が顔にかかる。近い……!

 体がみるみると熱くなっていく。


「ここの蓮ちゃんも、『現実』の蓮ちゃんも、

 同じでしょ? 他人じゃない」

「……他人だよ」

「へぇ……?」


 零くんの両手が、私の頬を包んだ。

 あったかい手……

 その手の心地良さによる安心と、緊張が入り混じる。


「僕が見間違うはずがない。蓮ちゃんは、蓮ちゃんだよ。

 『現実』で見た君も、僕が知ってる蓮ちゃんだった」

「なんかそれ、『ここ』の私まで否定してない……?」

「ふふ、そう取っちゃったか。

 いつもと変わらない、そそっかしいけれど癒される蓮ちゃんだったよ」

「ほらもー! そそっかしいって言った!」

「ふっ……ははは! ごめんごめん、貶したわけじゃないよ」


 笑い声が響く、私たちの『夢』の中。

 これが、いつもの私たち。


 20年ずっと続けた『この関係』が、やっぱり私たちにはちょうどいいのかも、と思ってしまった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ