『夢』が『現実』になったら?
―――
「わあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!?」
静まった部屋に、私の叫び声が響く。
突然の衝撃に、椅子の背もガタッ!!!と悲鳴をあげた。
「はぁ、はぁ……」
心臓がバクバクしてる。
私ったら、どうして『夢』にここまで影響されやすいんだろう。
落ち着け落ち着け。状況を整理しよう!
今日、仕事が全然終わらなくて、家で資料整理をやってました。
だんだん頭が回らなくなってきました。
ちょっと仮眠しようと思って、机に突っ伏しました。
…………で、『夢』で零くんにいきなり告白されて、キスされました。
私の記憶は、ここまで。
思考が止まった頭に、ちゅんちゅん……と外から朝の知らせが。
「ああああ……突っ込みどころ満載だよぉ……」
仕事、まったく終わってない。
零くんに、お返事返してない。
何もかも中途半端。これだから私は……!
山野 蓮・23歳。
人生何もかも、中途半端な出来損ないです。
―――早朝7時。
朝一番の会社に、こっそり出社。
誰もいない、静まったオフィスだ。
私は一言でいうと『仕事が出来ない』人間。
始業時間9時の会社にこうやって出社して、
2時間のフライングを決めて、みんなに追いついている。
……いや、『使えない』って言われてるから追いついてもいないのか。
昨日、中途半端にノートパソコンで作った資料を仕上げて、コピー機を起動。
資料を印刷すれば私の仕事の遅れは帳消し……!
ゴールに差し掛かったその時だった。
ガガガガガガ……ピー! ピー!
「ひぃぃっ!!?」
突然の恐怖の警音に、心臓が飛び跳ねる。
コピー機曰く、『故障の可能性があります。カスタマーサポートへ連絡します』との事だ。
……え? 有無を言わさず連絡しちゃうの?
『連絡しない』って選択肢はなし?
冷や汗がダラダラと垂れる。
どうしようこれ、しかも時間のログ残ってるじゃん。
私がこっそり出社してるのがばれたら……
万事休す……がっくりと肩を落とす。
プルルルル……
この時間に、電話。
絶対普段だったら取りたくない電話だけど、
今は、出るしかない。
3回深呼吸して、受話器を取る。
「お世話になっておりますっ! 白詰サービス・山野でございまひゅっ!」
……あ、最後噛んだ。
『お世話になっております。私、アーテルテクノロジー・サポートの藍内と申します。
白詰サービス様のお電話でお間違いないでしょうか?』
「あ、はい……」
『先程、コピー機でエラーを検知しましたので、連絡させて頂きました。
現在も状況は変わりないでしょうか?』
「はい、変わらないです……」
その後、電話に誘導されるように私はただ『はい』『いいえ』を繰り返した。
最後に『それでは、弊社の近くですので今すぐ伺います』と言われ、通話は終了した。
すごいな……
客が何も言わなくても、こうやってちゃんと対応できるんだ……私とは大違い。
―――10分後。
来客を知らせるベルが鳴った。
『アーテルテクノロジーの藍内です。よろしくお願い致します』
「はい! 今開けます!」
セキュリティロックを解除し、扉を開けた。
「……え」
扉の先にいたのは、『夢』で見知った『あの人』だった。
「零……くん……?」