『夢』って、良いことしか見せてくれない
―――ここは、僕の『夢』の中。
『現実』の嫌な事を全て忘れられる、最高の世界。
「零くん! お待たせ!」
僕の元に駆け寄ってきたのは、どこか幼さが残る、柔らかな笑顔が素敵な女性・蓮ちゃん。
彼女とは、もう20年の付き合いだ。
「こんばんは、蓮ちゃん。今日は遅かったね」
「あはは……ごめんね。お仕事が片付かなくって」
「ふふ……、その采配をした上司に物申したい気分だよ」
僕らは幼い頃に夢で出会って、毎日蓮ちゃんと夢の中で交流を続けている。
互いに覚えた遊びを共有したり……
うまくいかない事を相談しあったり……
時には、2人だけの秘密を交わしあったり……
「ねえ蓮ちゃん……、僕さ、君に言わなければいけないことがあるんだ」
「ん? なぁに?」
「……僕、告白しようと思うんだ。好きな人に」
「わぁ! いいね!! …………
…………え?」
時が止まった。
蓮ちゃんは目を見開き、僕の目をじっと見つめた。
この切り出し方はまずかったか……?
「すごいっ! 相手の女の人、どんな人なの?」
「えっ」
「私とは違ってさ、仕事が出来るバリバリのキャリアウーマン?
それともさ、したたかで上品なお嬢様?」
「あの、はすちゃ……」
「あー! わかった!
スレンダーな美女でしょ? 零くんのハートをバキュン! なんて!?」
やたら饒舌になった時の蓮ちゃんは、僕に何かを隠している時だ。
誤魔化し下手なのは変わらないな、と思う。
「ハートをバキュン、ね……そこだけは合ってるかも」
僕が惹かれたのは、決して外見や身のこなし……といったものではない。
長くこうやって一緒にいて、僕の『現実』に縛られた考えを優しく解いてくれて、
僕の心を穏やかにしてくれる存在。
蓮ちゃんの額に、僕の額をコツンと合わせる。
「ふぉえっ!?」
「僕が好きなのは、君しかいないよ。
…………蓮ちゃん」
「えっ、あぅ……」
顔中を真っ赤に染める蓮ちゃん。
彼女の目に、僕はどう映っているのだろうか?
『夢』の存在にここまで本気になってしまう僕もどうかしている。
…………だけど、もう、止められない。
蓮ちゃんの顎を手で引き寄せ、そっと唇を重ねた。
「っ……!?」
一瞬の柔らかな感触の後、視界が突然白く染まった。
視界が開けた後、蓮ちゃんはいなくなっていた。
「……急に、攻めすぎたかな」
『夢』の雲の上に、独りポツンと座る僕。
唇に、先程の感触がはっきりと残っている。
寂しくなってしまった唇に、自分の指を重ねた。