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銃と紅茶は水晶と踊る  作者: しみしそ
3/6

聖剣、折れる。

こんばんわ!不定期でごめんなさい!よかったら感想書いてくれると嬉しいです!!それではどうぞ!

「キャーーーー!!誰か助けてー!」


昼下がりの午後3時。少女の叫びが広場に響き渡る。

だが、街ゆく人々は目線を落とし足早にその場を離れていく。

それもそのはず、この国は『ローンスター』。お家柄第一主義なこの国で、ここは残念ながら低下層の人々が住むスラム街。国から見放されたある種の無法地帯だ。


しかし、白のレザーコートに身を包んだ年若い少年だけが、行き交う人を掻き分け叫び声の主目掛けて一人突き進む。


「へっへっ、大人しくしときな姉ちゃん」


『痛い目見たく無かったらなァ!』


「お前ら何してんだ!」


『誰だ、テメエ…?』


目に飛び込んで来たのは、目つきの悪い男とスライムが1匹が一人の少女に乱暴している最中の真っ只中だった。


『てんめエ、邪魔する気か!ぶっ殺すゾ!!』


「まあ落ち着けよ。お前もよく聞け、何を勘違いしてるのか知らんけど」


「問答無用!」


「がっ!」『ブッ!?』


少年は目にも留まらぬ速度の手刀で二人を気絶させると、再度少女に向き合った。


「ふう、大丈夫?」


「え、あ、はい…」


「ったく、こんな可愛い女の子相手に乱暴するとか信じられないよな」


「そんな、可愛いなんて…」


「あ、ごっごめん、口に出ちゃってた…?」


少年がそう言うと、先ほどまで緊張で固まっていた少女は氷が溶けたようにふふっとはにかんだ。


「ふふ、面白い人っすね、お名前はなんて言うんすか?」


「僕?僕の名前はサレマ。サレマ・ポーギーって言うんだ。まあ、恥ずかしいけど街の人達には『勇者』サマ、なんて呼ばれてる」


「ゆ、勇者様すか!?わ、私はリリィ・クラリエル・ミーサポートっす。どうぞ、お見知り置きを」


「はは、そんなかしこまんないでよ。良かったら今日の…、どうしたの?」


「う、うし…ひえ」


少女はその何か(・・)を指さしてぱたんと倒れてしまった。

じわりと浮き出る脂汗。

サレマはくるりと後ろを振り向いた。


『痛ッてーな!!テメー!!!」


そこに立っていたのは2mはある大男。隆起した筋肉は反射する黒い皮膚に全身が覆われている。が耳まで裂けた血のような真っ赤な口がさっきのスライムの面影を彷彿とさせる。


「あ…え?」


突如現れたそれに呆気に取られている勇者さま。

そんな彼に、避ける暇も与えず巨大な鉄拳が顔面にめり込んだ。


「あびょっ!?」


勢いよく吹っ飛び壁に激突した後、そのまま動かなくなる。 気絶したようだ。


『オーッ!ノーッッ!!やべーー!やっちまった!!」


空気が抜けるような音と共に、大男が一人と1匹に分裂する。


「…やっぱ第二形態(こっち)でも難しいな」


『65点ってとこだナ。つーカ、こいつどうするヨ』


「うーむ…」


その時だった。


「ゆゆ、勇者さま!!?あなた方、一体何を」


振り向くと、そこには路地裏の騒ぎを聞き付けた町人が立っていた。


この状況はヒジョーに不味い。

俺たちは顔を見合わせた。


「オーケーよく聞け、お前には今二つの選択肢がある。今殴られるか後で殴られるかだ」


「だっ、誰か来てくれっ!不審者だあっ!!ゆ、勇者様が、7位の"あぶく夢"のサレマがやられた!バケモンがでやがった!!」


「おーう、そろそろ黙っとけ」


「ごふっ!?」


さあ、腹パンで黙らせたがこれからどうしよう。


急で悪いが、ここで自己紹介だ。

俺の名前は伊織新之助。このスライムみたいは謎生物はリン・ツーという。さっき突然現れた大男はお察しの通り俺たち。


何故だかリンが俺に覆い被さるような形であの大男に変身できるようになる。先程の姿は第二形態。分かりやすく言えば攻撃特化。ムッキムキになる。ぶっちゃけ突然殴られてイラッとしてやった。俺は悪くない。だが…


『クソ、さっきの変身で腹減ったナ……』


第二形態はエネルギー効率が極端に悪い。リン自身がこうなってしまえば再度エネルギーを補充しないと変身はできなくなる。


「ひとまず逃げるか。そこで充電してこの女届けて金貰ってさっさとこんな所お暇しようぜ」


実は最初この女の子に絡んでいたのもちゃんとした理由がある。

俺たちは普段裏世界専門(・・・・・)のアンダーグラウンドな何でも屋で小遣い稼ぎをしており、どういう風の噂か、この国の大臣の耳に入り、この少女を生死は問わず連れてこいとの依頼に従事していた真っ最中だったのだ。それをこのサレマとかいうクソ野郎は…。

新之助は不意打ちされた痛みを軽く思い出し、軽く舌打ちをした。


『そうだナ。…ア』


リンがそこに転がっている勇者を一瞥してニンマリと悪い笑みを浮かべる。


「仕返しってわけじゃ無いんだけどヨ…」


リンが新之助にこそりと耳打ちする。思わず新之助も下衆な笑顔が浮かんでしまった。早速取り掛かろう。


しかし、急いであれやこれやとしている内に騒ぎを聞きつけた街の人達が集まってきてしまった。


「おーい、応援つれてやってきたぞー!」


「おいおいバケモンはそこのチビとスライムか…って」


「あっ」


『ヤベ』


「ゆゆ、勇者様が……全裸で"磔"にされた上に股間に……ッッ」


「股間に、……『お粗末』ッ…………慈悲は、無いのか……?」


「貴様らあ!!!なんて残酷なことをするんだ!」


「人の心をお持ちでない!?」


「こいつらを捕まえろ!」


『おい逃げるゾ!!』


「あいあいさっ!!」


正直、町人たちという存在を舐めていた所もある。


こういう閉鎖的なコミュニティは恐ろしいもので物の一時間もしない内に最初こそ10人もいなかったのに、いまや逃げれば逃げるほどに増える彼らに軽く恐怖すら覚える。多分好奇心や遊び半分で追いかけてきてる奴らがほとんどなのだろうが。


「「待てー!!」」


右に左に、屋根から屋根を伝って逃げたり、果ては地下水道に潜り込みもしたがどこから監視されているのか一向に振り切れる気配もしない。

ちなみに最初捕まえようとした女を肩に担いで逃げているためそろそろ体力も限界に近づいてきている。


「クッソ!まだ追いかけてきやがる!なんで逃げても隠れても俺たちの居場所が分かるんだ!?」


『流石に少し疲れたナ…アッ、あそこの角もう行ったナ、迂回』


「お前俺の頭の上に座ってるだけだろーがよ!!」


『そうそウ、迂回…ア?行き止まりじゃねーカ』


「どうすんだよ、あいつらすぐそこまで来てるぞ!」


投げつけられる石や酒瓶をひょいひょい器用に避けながら新之助は問いかけた。


『ンー、休んでちょっと回復したかラ、ぶっ壊セ』


「はいよ、いつもの部分展開ね!」


新之助は大きく息を吸い込むと、右腕にリンをがぶりと噛みつかせる。チクリとした痛みの後に腕の感覚がどんどん無くなっていく。リンと身体を共鳴させて同期(・・)させているのだ。


同化が終わると俺の腕は先の男を殴り飛ばした怪物の腕に変化していた。


巨大化した右腕は、力を込めるとほのかに赤みを帯び始めた。そのまま大きく振りかぶり、いとも容易く壁は壊れた。


いや、虚しく空を切った。


俺もリンも何が起こったのか一瞬理解出来ず勢いよく転び、地面に頬を摺った。

滲み出る血を拭い辺りを見渡すと、そこは小さな薄暗い小屋のようだった。後ろを振り向くとぶち抜いた筈の壁など影も形もない。


新之助は目の前で起きた奇妙な事象に首を傾げつつも再び前を振り向くと、先ほどまでは存在しなかった鈍色に光る鉄剣が床に突き刺さっていた。


新之助の勇者時代の聖剣はこんな無骨な感じではなくもっと装飾が施されて華美な見た目をしていた。


「何これ」


『俺が知るかヨ』


「う、うーん…」


「あ」


『オ?』


肩に寝かしていた女が眠たげに目を覚ました。


「あ、あの一ついいすか?」


「何?」


やけに軽口な少女はわなわなさせて鉄剣を指さして言った。


「あれ聖剣じゃ 」


「これ?」


「ああ!そんな乱暴に掴まないで下さい!」



【 曰く。


魔王の支配から解き放たれて数年。


世界は平和を取り戻すどころか未知の怪物や機密生物の脱走、封印されていた伝説級の怪物(グランドモンスター)の覚醒などまさに混沌を極めていた。それを抑制するかのように、世界各地に聖剣の残滓を残した模造品が出現した。十六夜が持っていたやつだ。これをレプリカントという。


聖剣(レプリカント)は選ばれた者しか抜くことができない。

抜いた者は「パーク」と言う特殊能力を身につけ、『勇者』と呼ばれる司祭や貴族よりも強力な権力を持てるようになる。しかし適正が完全にない者が聖剣に触れると心臓が爆発して死ぬ。


「パーク」は聖剣の抜けた度合いにより能力が決まり、過去の例を見ても完全に抜けた者は存在せず、現在最強と呼ばれる勇者は聖剣を3分の2まで抜いたとされている。

そして各国に『全世界勇者協会』を設置し、各勇者でしのぎを削り合わせ戦力の増強を目的にランキング制度を導入した。そしてレプリカントは誰の手にも渡ることのないように各勇者協会で厳重に保管されているーー】


『で、そんな大層なもんが何でこんなとこにあるんだヨ』


「アタシが知るわけ無いじゃないスか…」


「まあ」と再度聖剣の柄を手に取り、新之助は言った。


「抜いてみよーぜ」


『よっしャ、任せロ』


「待って!まてまてまて!!話聞いてたっすか!?最悪死ぬんすよ!?アホなんすか!?バカなんすか!?」


「それはさ」新之助は言った。


「『面白そうだから」』


ドン引きする彼女を後目に新之助とリンは聖剣に相見える。


新之助は右腕に意識を集中させ、リンと同化したことを確認すると深く息を吐き静かに腰を落とした。


「せー…」


『ノッッ!』


それはまるで地面そのものを引っ張り上げるような感覚に近かった。結論から言おう。


全く動かない。


「んぎぎぎぎぎぎ!!!おいリンもうちょい力出してくれ!」


『フルパワーダ、ボケ!!』


「だから言ったじゃないっすか…アタシらみたいな普通の人間は適正が無いんですよ」


呆れたような目で新之助達を見据える少女。それに若干の苛立ちを覚えつつも、現実はその言葉通り少しも抜けるどころか1ミリも動く気配すらない。


「こうなりゃアレだ、行くぞ」


『よっしャ」


形態変化(ビルド)!」


それまで全身を覆っていたリンを右腕1点に集中させる。冬場の朝、布団をいきなり剥がされたような肌寒さに襲われつつも意識を切り替え再度左手を柄に手をかける。


そのアンバランスにも巨大化した右腕はドス黒く胎動し、力を込めると浮き出る脈と光沢を帯びた黒い肌に若干の赤みを孕ませつつ、更に膨れ上がった。


「3、2、1で行くぞ。込めろよ、3、2」


『1!』


バキッ


「あっ」


『あっ』


薄暗い小屋に甲高い音が響き渡る。

思わず重力を失った柄でバランスを崩し、転倒してしまった時には何が起こったのかを想像するのに難くなかった。


それまで部屋の隅でじっとうずくまっていた少女が折れた聖剣を指差し声にならない悲鳴を上げる。


「あ、あ…折れっ、せいけっ、せいけ…」


刀身の半分を失ったそれをまじまじと見つめると、手のひらから熱い何か(・・)が流れ込んでくるのを感じた。下腹部の辺りが特に熱くなるのを実感した。


「いっつ…!?」


強烈な切り傷のような痛みを手の甲に感じたかと思えばそこには「41」という数字が刻まれていた。


『なんじゃそレ』


「俺が聞きたい…って」


身体がどこかへ引っ張られるような強烈な違和感を感じ、言葉を紡ぐ暇も無く新之助の視界は暗転した。



最後までお付き合い下さりありがとうございました♪良ければ次もお願いします!

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