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銃と紅茶は水晶と踊る  作者: しみしそ
1/6

始まり

初描きです!よろしくお願いします!

それではどうぞ!


2020年3月4日。

伊織新之助、

俺が捜索願を出された日だ。


元来俺はオカルトという概念に異常とも言える耐性を持っていた。



例えば丑の刻参り。


「新之助、お前度胸試しにあそこに藁人形打ってこいよ!」


「えー?やだよ…こわいよう」


「うるせえ!いいから行ってこい!」


そう言って課せられたミッションは深夜の3時に一人で裏山に行き、五寸釘を藁人形に打ち付けた写真を撮ってくることだった。齢7歳だったが、俺のオカルト体質はここで初めて発揮することとなる。


「か、帰りたい…」


泣きながら写真を撮り終え懐中電灯の灯りをMAXまで強くし、帰路につこうとした新之助はそこで最悪の状況に直面する。

なんと新之助以外にも一人、白装束で頭に日本ロウソクをぶっさしたガチめ(・・・)のみだれ髪の女性がいらっしゃったのだ。丑の刻参りは決して誰かに見られてはいけないとされている。


「見たな」


地をふるわせるような恐ろしくしゃがれた声で新之助は暗い山道で深夜の鬼ごっこに励んだ訳だが、しばらく走って後ろを振り返ると、新之助の跡を追い、派手に転んでめげずにまた向かってくると、今度は頭に巻いたロウソクの炎が服に燃え移り炎上。

火だるまになった女にいたたまれなくなった新之助が水をぶっかけ、こっそり逃げようとするが女は性懲りも無く腕を掴むとその拍子に新之助が木にぶつかり頭上にあった蜂の巣が落下、そのまま女の頭にすっぽりハマり、女はたまらず裸でその場を逃げ出した。


他にも両親に連れられて田舎へドライブに出かけたら、車と全く同速度で走る老婆が窓越しに新之助に気味の悪い笑みを浮かべて笑いかけたが、そのまま道路標識に激突してぶっ倒れたり合わせ鏡をしたら100枚目の俺と目が合ったのだが、新之助の顔を見るなり吐いて、そのままぱったり見えなくなったりした。


こんなことが15年間続いたので精神的にも随分と心霊現象にも慣れた物で、皿が割れたりラップ音が聞こえたら次の日には塩を舐めたり塩分多めのラーメンを食べたりするとぱったり止んだりするなんて日常茶飯事だった。


そんな霊障に関しては無敵とも言える新之助だったが、遂に20歳を越え東京に出稼ぎに出たものの高卒の新之助には中々見合う職種は見つからず、結局履歴書要らずで翌日から出勤してこいといういかにもな会社に入社することとなった。


パワハラ?聞き飽きたね。友人達にもよく突っ込まれるが、環境に適応さえしてしまえばブラックだろうと人間ホワイトに感じるのかもしれない。一日14時間労働のサイクルを三年間にこなしてきたが、遂に新之助の身体はぶっ壊れた。


「おいお前、ここの書類間違ってるぞ」


「カルピス」


「伊織先輩、これやっといて下さい」


「カルピス」


「貴様ふざけているのか!?」


「カルピス」


こんな調子が1週間も続いたので新之助はクビ、両親にLINEでこの事を伝えると精神病院にぶち込まれることとなった。


失意の中新之助はいつもの武蔵野で電車を乗り換えた時だった。新之助はそこでいつもの車内とは違う空気を感じ取り、周りを見渡すと乗客が一人も乗っていない。よく目を凝らすと、椅子のスポンジが飛び出ていたり、吊革がちぎれていたりと何故だかいつもよりみすぼらしい。先程まで操作していたスマホのソシャゲの画面にも「通信環境の良い所で再起動して下さい」との表示が。


肩を落とす新之助だったがその時電車が大きく揺れ動きやや強めに停車する。つまづく勢いで下車するとそこはいつも見知った駅の風景ではなく、錆だらけの看板に描かれた文字を見ると「きさらぎ駅」と記されていた。遠くには階段とエレベーター。照明の切れかけた中身が数年前の飲料で敷き詰められた自販機。


聞いたことがある、きさらぎ駅という名前のパラレルワールドがこの世のどこかに存在すると。


目の前にはエレベーター。そしてパラレルワールドと言われる「きさらぎ駅」。

ここで新之助は一つの結論が導かれる。


"エレベーターって確か異世界行く方法あったよな…"


新之助はスマホを取り出すと幸いWiFiは繋がっていたのでフォロワー2桁のアカウントで「きさらぎなうwww」とツイートし、その後ネットに調べた順序通りにボタンを押すと、何度目かの扉の開閉に合わせて小綺麗な女が一人、無言で乗ってきた。


「(……来た…!!)」


だが本当にこの女は怪異なのだろうか?そして怪異には人権が適応されるのだろうか?導き出された確認の最適解は一つ。新之助はおもむろにしゃがんで女性のスカートの端を握ると、そう、まくりあげた。


「(……紫か……)」


だが反応はない。多分この女は怪異だろう。

流石にパンツの中身を見るのは紳士ではないので断念。残されたボタンを押し、高鳴る鼓動を右手で押さえ付け、最後の閉口を確認し、いよいよ最後の開口を待つだけとなったその時だった。


「…?」


異常とも取れる急激な眠気。


絶対にその先は見るな(・・・・・・・・・・)、とも取れるメッセージだったのか。新之助はそのまま意識を失った。



2020年 3月4日(多分)。


「え?誰だこいつ」


「は?」


目が覚めて一発目のセリフがそれだったことを今でも覚えている。


赤い絨毯にいかにもな西洋風の大広間。ずらりと1列に並んだ甲冑の騎士達に囲まれた頭に王冠を付けた王様らしきおじいさん。


そして新之助は確信する、「ああ、成功だ(きたな)」と。


新之助はローブに身をくるんだ女の子に見下ろされ、自身がとんでもなく場違いではないかという考えに達し、思わずその場から逃げ出した。やけに窮屈で動きにくい、新之助は何故だか学生時代の学ランを着用していた。


「不躾な、死ね」


「うおっ!?」


全身を赤い鎧で覆っている割には可愛い声の少女騎士が、物騒なセリフと共に焔の塊を両手から発射し、新之助は全身焔に包まれた。


「ぁあっつ!!…くない…?」


メラメラと燃える焔はだが、新之助は全くと言っていいほどその熱を感じなかった。オカルト耐性のお陰なのか。


「わ、わたしの【バーガーズ】が…!?く、くそ、これでも!」


「待て」


「お、王よ…」


「貴様、名はなんという」


「い、伊織新之助、です」


「そうか、ならば新之助。貴様も魔王討伐へ協力してくれないか?」


どよめきが起こった。


「何故あのような得体の知れぬ者を?」「いやしかしヴォラーレを止めたのは事実」「ゆ、勇者様に判断を委ねよう!」


「ゆうしゃ?」


「俺たちの事だ」


筋肉質の黒髪イケメン・パーカーの美少女・背の高いサングラスのイケおじ・メガネを掛けた芋っぽい少女・学生っぽい少年。


ずらりと揃った面々は年齢こそバラバラだが見知った格好もあり、なんとなく新之助は察した。


「もしかして、俺と同じでここに気付いたら来てた…みたいな感じですか?」


「そうだな、ついでに言うと俺たち五人は王曰く『選ばれし4人』らしい。そこのパーカー女に引っ付いてこいつも間違えて連れてこられたがな」


「えへへ…」


少年はぽりぽりと照れくさそうに頬をかいた。

ああ、だから俺が現れた時にもさして新鮮そうなリアクションが無かったわけだ。


「王よ、この男も魔法陣で連れてきたのか?」


「いいや、正真正銘、君たち勇者4人分しか用意していない。ましてや新しく二人も連れてきてしまうとはとんだ失態だな。すまない」


「い、いえ…」


「話を戻そう。彼ら勇者には特別な力、『パーク』と呼ばれる力が異世界人ながら宿っていてな。そこの少年は…まだ分からぬな。だが、格闘術を生来身につけていたらしい。先ほどの『試練』にも合格したからな」


「いやー、そんな大したことでもないっすよ!ちょっと俺が強かっただけで!あ、全然あの人達も強かったっすよマジで!」


後ろで積み上がっている甲冑騎士達の山はこの少年の仕業だというのか、末恐ろしい。


「どうやらお主も不思議な力を持っているらしい。勇者、引き受けてくれるか?」


「はっ、はい!」


勢い余って声が裏返る。恥ずかしい。

広間は笑いに包まれた。


数ヶ月が過ぎた。


新之助達は遂に魔王決戦を迎える。


「ハア、ハア…新之助!」


「はいよ!」


魔王から放たれた氷塊は新之助にぶつかると途端に蒸発してしまった。どうやら俺のオカルト耐性はこの魔法にも健在らしく、こういった直接攻撃以外はほとんどダメージを喰らわないことが分かった。


「奴の体力はもうすぐで底を尽く。気を引き締めていくぞ!」


筋肉質のイケメンことリバル・ダブポップ。

所持パークは『極東の雷種(スキャットマン)』。

全身葡萄人間のような見た目のパーク。血を媒介する特殊な静電気で苦痛を伴うことなく対象を殺すことができる。


奴が再び雷撃を再装填して、キューブに血液を垂らし、その場で電撃弾を生成し、そして複製する。


パーカーの少女こと妃更(キサラ)

所持パークは『落とし穴の宝物(ラズベリーキューブ)』。カエルのような見た目をしているパーク。彼女自身は嫌っている。どんな物でもカエルの背中から生成する『キューブ』に閉じ込めることができる。キューブの硬度は自身で自在に調節できる。


「喰らえっ!」


「ぐ…っ!?」


魔王の傷口にキューブが衝突、そして破裂。魔王は電撃が血から体内に流れ、感電し身動きが取れなくなる。


「わ、私が"目"を飛ばします!」


芋っぽい少女こと沼津姫子(ぬまづひめこ)

所持パークは『小人一家の取立て業(チーターズ)』。

名前にそぐわずメカっぽい小さな蚊のパーク。

大量のチーターズは『目』の役割を果たしているので、四方八方監視することが可能。『目』は質量を持っていて小さな攻撃なら目同士を連携させて、反射させて迎撃することが可能。


「『背中』です!肩甲骨の真ん中!『核』が現れました!…あ、でもまた体内に潜り込みそうです…」


「ならば余に任せるがよい」


サングラスイケおじ、ことツー・クー。

彼のパーク『終秦司銀(ファーストエンペラー)』は彼のみ身体と一体化しているパーク。自身含めて周りも流体金属に変換できる。


ツークーは地面に落ちた瓦礫を拾うと、思い切り投擲、石は空中で槍のように変形し魔王の胴体に突き刺さった。


「ぉぉおおお…!!」


「再び開きました!今です…!」


格闘家の少年こと天月(あまつき) 十六夜(いざよい)。格闘だけではなく、この中の誰よりも純粋な戦闘能力が秀でていて剣の才能もあったらしく、新之助含め常人は持ち上げることすらできない聖剣を軽々と振り回す怪腕と才能の持ち主。


聖剣を魔王の胸ど真ん中に構え、フーっと深呼吸する。


「星剣の誓い、"白夜句・月詠"ーー『ログ・モノリス』!」


十六夜は空中に展開したキューブを軽やかに踏み越え、魔王に聖剣を突き刺した。


マグマで満ちる城内に響く断末魔。

この世のものとは思えないほどおぞましい叫び声に新之助は震え上がった。


「やった…!」


「遂に、魔王を倒したの…ね?」


「おわ、りましたね…」


「フン、余がいるなら当然である」


その時だった。


「クク、クク、ハハハハハハ!!」


「何がおかしい!?」


「とんだマヌケよ、貴様らは。分からぬか?この音。城内が響くこの音が!」


「まさか…魔王貴様、俺たちを道連れに…?」


「察しがいいなあ勇者よ!我が心臓と同化する死の呪い!!生と死の等価交換だ!貴様らは誰かを生贄にしないとこの崩壊する空間からは出られない!」


「どうやらソイツの言ってることは本当のようだ、十六夜。見えない壁がここにある」


「目を飛ばしても見えません、十六夜さん!」


「どうすんのよ!十六夜!」


「うへ、なんだこりゃ」


どくんどくんと胎動する見えない壁に阻まれて、蹴っても殴ってもビクともしない。そんな絶望と沈黙の中、最初に口を開いたのは十六夜だった。


「みんな」


その覚悟を秘めた瞳を見て、リバルは唾を飲んだ。


「俺は、残る」


「十六夜さん!」


「盟友…貴様」


「ごめん、ヒメ。約束守れなかったな」


「ぐすっ…そんな…っ!」


「行けっ!みんな!!」


「か、壁が無くなってる…」


ぽんぽんと新之助がそれまであった壁を叩くと悲しく空を切った。


「今だ!逃げるぞ!!」


それぞれ十六夜に思い思いに言葉を交わして離脱していく。遂に残すところは俺だけとなった。


魔王の広間には二人と魔王一人。


燃え盛る火炎の熱で汗が1粒流れた。


「あー、なんていうか、その…ありが」


「聖剣の誓い、"釈鞭・六花"ーー『スラスト』!」



       ?



聖剣で腹を刺し貫かれた新之助は両膝をついた。


「すいませんね、先輩」


「お、まえ…」


腹から剣を引き抜き十六夜は空中で血を振り払った。


「俺には俺を待っている女がいるんでね」


そう言い残し地面に倒れた新之助を足で蹴飛ばし火口に突き落とした。


「じゃあね先輩!あいつらには「伊織先輩は頑張った」って伝えときますから安心してさようなら!」


マグマの中は多少魔王の力が使われているのか即死しなかった。全身をじわじわと炙られていく感覚。焼け死ぬことだけをゆっくりと実感できた。


喉も焼けただれ、悲鳴を出すことさえ許されない。こんなことならこんな肉体なんていらない、本当に『死ぬ』ということはこんなに辛いことだったのか。


十六夜は笑って新之助がもがき火に溶ける様を嘲笑う。その顔を見た時に生きる執念が湧いてくる。


死ぬ…、俺が?


いや、まだだ…


あのニヤけた面をぶっ飛ばすーー!


「い、ざよい…!!テメー…こっち見てみろよ!」


「…ん?…ぁッッあああああァァッテメェーッ!!!」


新之助は辛うじてまだ動く右手でマグマをすくい、十六夜の顔に投擲。すんでのところで奴は躱したが、飛び散った溶岩が顔半分に飛び散る。


激痛に悶え苦しむ十六夜をみて新之助はほくそ笑んだ。


「聖剣の誓い!"激烈・釈弁"『ブルーホーン』!!」


蒼い軌跡を描いた飛ぶ斬撃は新之助の肩から下を袈裟斬りにし、新之助はマグマの火中に押し戻された。


「クソが!!」という十六夜の罵倒を最後に何も聞こえなくなる。


どのくらい経ったのだろうか。


巨大なら爆発音と共にマグマも大きくうねり、肉体の6割を失った新之助は崩落する城内に再び打ち上げられた。


「……」


目を瞑っていたおかげで眼球は溶け落ちていないらしく、辺りを見渡すと地面に倒れた人影が目に入った。


「き、貴様も(・・・)裏切られたのか…」


「……」


新之助は瞬きでその応答に応じると、魔王ははは、と笑った。


「そうか…、俺もお前たちもさほど変わらないのだな」


ひとしきり笑った後、再び新之助に向き合った。


「俺はな、厳密にはまだ負けたわけじゃない。知っての通り様々な生物に寄生して、力を蓄えてきた。その最後の力はあと1匹程度ならまだ行使できる」


「……」


「…どうだ?俺と融合して生き延びるのは?…ハハ、なんてーー」


「……!!」


「ーー!、貴様、正気か?貴様も勇者の端くれだろう?」


新之助は最後の力を振り絞り、口の中の唾をぺっ、と吐き出した。




…そして、勇者(おまえ)を殺すまでーー!!


「『クソ喰らえ』…と。ハハハハ!面白い!良いだろう、今日からお前(・・)は俺の相棒だ!」



そして、魔王城は完全に崩壊した。


「あれ?十六夜さん!?伊織さんが、いない…」


「ああ、彼はその…魔王に操られて俺に斬りかかってきてね…しょうがないから…俺が…彼を…!」


「……十六夜は悪くないわ、魔王の操作能力は本人依存でもあるから彼の中には少なからず私たちに対する反抗心が芽生えていたのかもしれないわね」


「所詮奴も有象無象…」


「ああ、だが彼のおかげで君が生きて帰ることができた、それについてはどんなゲス野郎だろうが感謝しよう」


「いい十六夜さあ〜ん…!私、私本当に心配したんですよお〜!!」


「はは、抱きつくなよヒメ。これからはいつまでも一緒だ」


後に彼らは国からスターファイブと名付けられ、その栄光は伝説となった。ある者は剣の指導者への道を、またある者は更なる冒険を求めて旅立った。


こうして魔王は倒され、世界に平和が訪れた。




そして魔王討伐から約3年後。


結論から言おう、魔王との融合に



ーー失敗した(・・・・)

最後までお付き合い下さりありがとうございました!次回から場面が3年飛びます!お付き合い下さいませ!

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