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92話 遺物


ヴィンス先生は本を持ってくると、私に応接用の席に座るよう勧めてくれたので私はそれに従った。

先生が持ってきた3冊の本は、神話と王家の歴史と聖剣についての本だったので、私が「魔王の遺物について書かれた本ではないのですね」と言うと「流石にそんな分かりやすいタイトルだと禁書行きですからね」と先生が言ったので、それもそうかと納得した。


「これらも魔王の遺物について書かれてはいますが、剣と杖、あと指輪があるというのが分かるくらいですね、どのような効果があったり、どんなデザインなのかは書かれていません」

「そうなんですね、でも彼女はどうしてそんな本を…」

「単純に知りたいだけであればいいですけど、彼女は歴史が好きだとかではないので、魔王の遺物そのものに興味があるのでしょう、帝国人ですし」

「魔王の遺物って実在してるんですか?」

「はい、ありますよ」


ヴィンス先生の答えに「はぁ!?どこにある!」と何故かアルヴィン様が食いついた。


「えっ!?アルヴィン様どうしたんですか」

「…魔王の遺物は見つけ次第封印すべき物なんだよ、それでヴィンス、それはどこにある!」

「そんなに焦らなくても私が持ってますよ」


ヴィンス先生が平然とそんな事を言うので、私とアルヴィン様は絶句してしまった。

「アルヴィン、そんな顔しないで下さい」と先生が言ったので、チラッとアルヴィン様の表情を窺うと明らかに怒っていた。


「…お前、ずっと持ってたのか」

「誰かの手に渡るより私が持っているのが1番安全だと思ったので」

「それはそうだが、あんな物持ってたら危ないだろ」

「封印はしてますし、マリアンヌさんのおかげで今はまったく問題ないです」

「へ?私ですか?」

「はい、魂の契約をしてから遺物の影響を受けなくなりました」

「影響受けてたのかよ」

「ちょっとだけですよ、キースやアルヴィンといれば問題なかったですし」

「まさか不眠症だったのは遺物が原因か!何で言わなかったんだよ」

「言ったらアルヴィンは私の代わりをしようとするだろう、それは避けたかったから言わなかった」


ヴィンス先生のその言葉を聞いたアルヴィン様は、舌打ちをすると不機嫌そうな顔で黙り込んでしまったので、私はどうしていいか分からず先生の方を見ると「拗ねてるだけなんで大丈夫ですよ」と言われた。

それを聞いて、え?これで拗ねてるだけ?というか放置でいいんですか先生!?と思ったが、私が何か言うとややこしい事になりそうなので、魔王の遺物について話を戻す事にした。


「あの、魔王の遺物はどんな効果があるんですか?」

「剣と杖と指輪でそれぞれ違うんですけど、危険度で言うなら剣が1番危ないですね」

「魔剣なんですか?」

「そうです、エレボスと繋がりやすくなるので、魔王や適合者が持つと乗っ取られます」

「先生本当に大丈夫なんですか?」

「先程も言いましたが封印してますし、マリアンヌさんと契約してからは意識を持っていかれそうになる事も無いので大丈夫ですよ」


先生の発言に、それ全然大丈夫じゃないよね?と思ったが、今は本当に平気みたいなので触れないでおいた、変に追及してアルヴィン様の機嫌がまた悪くなっても嫌だし。


「ちなみに盗まれる心配とか無いんですか?帝国の方達とか探してそうですけど」

「探してるでしょうね、ですが私が持ってる事を知ってる人がそもそも少ないですし、私しか取り出せないので盗まれる事はないですよ」

「私達以外にも知ってる方がいるんですね」

「古い知人1人とキースが知ってます、今日マリアンヌさんとアルヴィンが知ったので、合計4人ですね」


ヴィンス先生がそう言うと、アルヴィン様が「あのくそ爺、黙ってやがったな」と呟いた。

アルヴィン様の言うくそ爺とは、恐らくアルヴィン様と同じ寵愛者のキース様の事だろう、800年程生きてるし歳だけ見ればお爺ちゃんではあるんだろうけど、どんな人なのかは知らない。


「キースには私が言わないで欲しいと言ったんですよ」

「あの、キース様ってどんな方なんですか?」

「何だマリアンヌ、キースに会いたいのか?」

「会えるんですか?」

「俺の家に来れば会えるぞ、会ってみるか?」

「はい、あっ、でもウィルが許してくれるかしら」

「一緒に来ればいいだろ」

「良いんですか?」

「構わん、ヴィンスも居るしな」


アルヴィン様がそう言うので、ヴィンス先生を見ると「今は皆忙しい時期ですし、夏季休暇あたりなら大丈夫だと思いますよ、それにキースにも言っておかないと彼人見知りですから」と言ったのだが、それにアルヴィン様が「いきなり行って驚かせてやろうと思ったのに」と発言した。

それを聞いた先生が「アルヴィン…」と呆れていると、放課後になったのかウィルが迎えに来た。


ウィルには、私が今日の午後第2図書館で本を探す予定だと話していたので「てっきり図書館の方にいると思ったんだけど何かあった?」と聞かれたのでここに来た経緯を話し、ついでに今度の夏休みに一緒にキース様に会いに行けるか聞いてみた。


「夏休みか、多分大丈夫だと思うけど、これから生徒会室に行くしカイン様に聞いてみるよ、ちなみにキース様に会うとカイン様に話しても大丈夫ですか?」

「話してもいいが、もしカインが行きたがったら理由は自分で用意しろと言っとけよ」

「分かりました」


来年の夏休みには、カイン様は卒業されて王太子としての仕事が山ほどあるし、学生でなくなるから外出にもそれらしい理由が必要になる。

そんな事までして一緒に行きたがるだろうかとこの時の私は思っていたが、その後生徒会室でカイン様に話すと「私とアリスも一緒に行くよ、理由はそうだな…フェアリード領の視察って事にしておこうかな」と笑顔で言って、セス様に夏の予定を変更するよう言っていた。


私が思わず「あのカイン様、大丈夫なんですか?」と聞くと「ん?問題ないよ」と理由を説明してくれた。


「フェアリード領は本来視察出来ないんだけど、叔父上の許可があれば入れるからね、視察出来るなら優先させて大丈夫だよ」

「視察出来ないんですか?でもアルヴィン様って最近までお城と音信不通でしたよね」

「そうだよ、だから勝手に視察しようと視察団が向かっても、何故かたどり着かないんだ」

「そうだったんですか、ちなみにそれっていつからなんですか?」

「領地にすら入れなくなったのは叔父上がフェアリード領に送られてからだね、領主の屋敷に関してはキース様の頃から誰も入れてないよ」

「でもそれって領民はどうなるんですか?」

「商人や領民は全く問題なく行き来できるらしいよ、だから1度それに紛れて視察しようとしたみたいだけど、馬車の故障で全員降りた瞬間、視察団だけ魔の森に転移させられたらしい」


カイン様の話にウィルが「その話なら俺も知ってます」と言った。


「魔の森はクレメント辺境伯領だからウィルは知ってて当然だね、そんな訳で叔父上の領地の視察は今じゃ行われてないんだ」

「なるほど、ウィルもフェアリード領がどんな感じか知らないんですか?」

「最近は知らないけど、自然豊かな領地だったよ、常駐騎士も居ないのに賊や魔物の被害も無く、干ばつや災害、疫病とも無縁、作物を作ればどれも綺麗に育つから畑を持ってる家がほとんどだったよ」

「えっ、凄い領民に優しい土地なんですね…」

「領民が「ここでは悪事を働いた瞬間天罰が下る」みたいな事を言ってたから、当時は信仰心が強いんだなくらいに思ってたけど、アルヴィン様を知ってからは事実だろうなって思ってるよ」

「ははっ、叔父上ならやりそうだね」


そんな感じで、夏休みにカイン様、アリス、ウィルと私はキース様に会う為にフェアリード領に行く事が決まった。


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