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88話 謎


その日私はユフィ様と精霊学の授業を受けていたのだが、ユフィ様が「そういえばあの男爵令嬢、この間は私がいてもアル様やバージル様に話しかけてきましたわ」と言ったので、そこからはパトリシア男爵令嬢の話になった。


「へぇ、王女と王子の会話に男爵令嬢が割って入るとはな」

「学園ですから許されますが、場所が違えば不敬罪ですね」

「ヴィンス先生の仰る通りですので、私も驚きましたわ」

「あの、私まだパトリシア男爵令嬢を見た事が無いのですが、どんな人なんですか?」

「え!?マリー見かけた事すらないの?」

「はい、なぜか会わないんですよね」


私の発言にアルヴィン様が「どうせウィリアムが何かしてるんだろ?」と言うと、ヴィンス先生が「そうですね、この間見かけた時は古代魔法でお互いを認識出来ないようにしてましたよ」と言った。

するとユフィ様が「なるほど、だからお昼休みの時はパトリシア男爵令嬢が来ないんですね」と納得していた。


「そういう事になりますね」

「私ウィルがそんな事してるだなんて知りませんでした」

「マリアンヌさんに気付かれないようにしているので、知らなくていいんですよ」

「たった今ヴィンスがバラしたけどな」

「…口が滑りましたね、ウィリアム君には黙っていて下さい」

「ウィルに聞かない方がいいんですか?」

「マリアンヌがウィリアムに過保護だから止めろって言わないなら聞いても大丈夫じゃないか?」

「アルヴィン様の中で私はどんな人間なんですかね、守ってもらう立場で守られ方に文句なんて言いませんよ」

「そうか?俺の中では気付いた時にはトラブルの渦中にいる女って感じだからなぁ」

「それは仕方ないじゃないですか、半分宿命みたいなものですし」

「宿命か、確かにそうだな」


アルヴィン様はそう言うと「せっかくだし見た事ないなら例の男爵令嬢を見せてやるよ」と言って、テーブルの上に学園内の様子を映し出した。

そこには廊下を歩く1人の女生徒がおり、ユフィ様が「彼女よ」と言ったので、私はこの女生徒がパトリシア男爵令嬢だと分かった。

パトリシア男爵令嬢は髪色も瞳もピンク色で、小柄で可愛らしく庇護欲を抱かせる容姿をしていた。

私がそんな事を思っていると、アルヴィン様が「髪色と瞳の色は魔法で変えてるから、本来は銀髪と赤い瞳だ」と教えてくれた。


「随分可愛らしい方ですのね」

「実際は羊の皮を被った女狐ですけどね」


私の感想にユフィ様がそう反応したので、アルヴィン様が「違いない!」と言って笑っていた。

暫くユフィ様と一緒に映し出された映像を見ていると、パトリシア男爵令嬢が生徒会室の前で止まり、扉をノックした。

私が「生徒会室?カイン様に用かしら?」と言うと、ユフィ様が「いくら生徒会長だからといっても、カイン様は王太子よ、事前連絡無しに男爵令嬢がいきなり会うのは不可能だわ」と言ったので、それもそうだと思った。


そんな事を話していると、生徒会室の扉が開いてウィルが顔を出したのだが、ウィルは無表情で「何か?」と男爵令嬢に話しかけた。

無表情のウィルは結構威圧的な印象だと思うのに、男爵令嬢は怯む事も無く「ここに今、アルベール様とバージル様が居ると思うんですけどぉ、お話があるので入っていいですか?」と首を傾げ上目遣いで聞いていた。

その反応にウィルはあからさまにため息を吐くと「2人共カイン様の仕事を手伝っている最中だ、それにここは約束も無しに入室を許可される程気軽に来られる場所じゃない、礼儀作法を学び直してから来るんだな」と言って扉を閉め、直後に鍵をかける音がした。

そんな対応に、男爵令嬢は特に気にした様子もなくその場を後にした。


一部始終を見ていた私達は暫く黙っていたが、ユフィ様が「マリーの婚約者って結構キツイ言い方するのね」と言った事で話し出した。


「むしろウィリアムはさっきの態度が普通だ、マリアンヌの前が異常なんだよ」

「ちょっとアルヴィン様、それはウィルに失礼です」

「何が?事実だろ」

「アルヴィン言い方があるでしょう、ウィリアム君はマリアンヌさん以外からの好意を必要としてないので態度に差が出るだけですよ」

「でもあいつヴィンスには懐いてるだろ」

「私への態度は敬慕の表れです」

「じゃあ俺へのあの態度は何だよ」

「ウィリアム君をからかったりして遊ぶからでしょう?」


ヴィンス先生の指摘にアルヴィン様が目を逸らしたので、私はアルヴィン様にウィルに何をしたのか尋ねた。


「別に危ない事はしてないぞ、ウィリアムがヴィンスと古代魔法を練習してる時に、たまに混ざって相手になってやってるだけだ」

「相手と言ってもウィリアム君はまだアルヴィンに勝てる程ではないので、アルヴィンが挑発して遊んでるだけなんですよ」

「ちょっとアルヴィン様!ウィルに何してるんですか!」

「アルヴィン様大人気ないですわよ」


私とユフィ様が責めると、アルヴィン様は「普通の人間が受けたら間違いなく死ぬような古代魔法の練習台になってんだから、ちょっと遊んだっていいだろ」と開き直っていた。

その後授業が終わり放課後になったので、私は寮への帰り道にウィルが男爵令嬢と私を接触させない理由について聞いてみた。


「あの男爵令嬢が誰の命令で動いているにしても、マリーに良い影響があるとは思えないからね、それなら最初から会わせなければいいかなって思って」

「それは分かりますが、なぜ教えてくれなかったんですか?」

「マリーに余計な気遣いさせたくなかったからなんだけど、怒ってる?」

「怒ってません」

「本当に?」

「怒ってはいませんが、ウィルが無理してないか心配にはなりました」

「大丈夫だよ、無理なんてしてないから」


そう言うウィルをずっと見ていたが、嘘は言ってなかったのでとりあえず納得したけれど、何かモヤモヤするのでウィルに抱きついてみたら驚かれた。


「えっ!?何?マリーどうしたの?」

「その、何となくモヤモヤするので」


私がそう答えると「本当に大丈夫だって」とウィルに笑いながら抱きしめられた。


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