86話 ノア・ティルステア
男爵令嬢はネイサン様とルーク先生との接触がし辛くなると、私のクラスにいる攻略対象のサイモン様に声をかけたらしいのだが、サイモン様は以前エレナ様から思考誘導を受けた際に、アルヴィン様が防御魔法をかけていたので魅了が効かず、警戒されて距離を置かれたらしい。
彼女はサイモン様の攻略に失敗すると、その次はネイサン様の弟であるパトリック様に声をかけたが、こちらもヴィンス先生が近くにいたので、魅了にはかからず「兄にも近付いていたみたいですが、私にはもう婚約者にしたい女性がいますから、私の方に来られても迷惑です」となかなか辛辣な事を笑顔で言っていたらしい。
以上の事をアルヴィン様から聞いたカイン様は「サイモンを狙ったあたりは転生者ではないかと思える行動だけど、パトリックにも声をかけてるから彼女自身が転生者ではないのかもね」と言っていた。
それを聞いたアルヴィン様が「一応探したが学園に情報源のような物を持ち込んだり、誰かと情報を共有するような事は無かったぞ」と言うと、カイン様は「だとすると学園内での行動は彼女に一任されてるのか」と呟いた。
「余程彼女を信頼しているのかバレた時に切り捨てる為か、どちらにしろまだ情報が足りないね」
「パトリックで失敗してからは、マーク1人に絞ってるみたいだがそっちはどうするんだ?」
「一応父親のエリックにはそれとなく言ったんですけど、マークが何かしたいなら特に止める気はないみたいなんですよね」
「あー…エリックそういうとこあるよな」
カイン様とアルヴィン様がそんな話をしていると、ウィルが「そういえばセスは興味持たれてないんですね」と言った。
「確かにそうだね、セスも婚約者はいないし、私の執事だから声をかけられてもおかしくはないはずなんだけど」
「あいつ今は子爵家だからだろ、跡継ぎでもないし、最終目標がカインでないならターゲットから外されててもおかしくはない」
「もし、パトリシア男爵令嬢が権力を必要としているなら、今度入学してくるノア様は狙われるかもしれませんね」とアリスが言うと「彼に関してはエレナ嬢が干渉したから、アリスやマリアンヌが知ってる人物とは違ってるって聞いているよ」とカイン様が発言した。
「そうなの!?」
「うん、彼は入学してくる時は第4聖人だと以前アリスから聞いてたけど、書類を見たら第2聖人だったからね、念の為エレナ嬢に確認したけど間違いないって言ってたよ」
「という事は、ノア様はエレナ様が攻略済みという事?」
「ちょっと違うらしいよ、エレナ嬢が言うにはノアが実力を隠すきっかけになる事件を、クロードと協力して起こさせなかった、と言ってた」
「じゃあ入学してくるノア様はいじめられてないのね」
「そういう事になるね」
そんな感じで男爵令嬢やノア様について話す事もあったが、その後は男爵令嬢も大人しく、何か問題が起きるという事も無かった。
そしてあっという間に入学式の時期になり、私は3年生になった。
入学式から数日後、生徒会室で書類整理の手伝いをしていると、エレナ様がノア様を連れてやって来た。
するとカイン様は仕事の手を止め全員席に着くように言った後、ノア様に生徒会メンバーの紹介をした。
ノア様は「カイン殿下、ご丁寧にありがとうございます、皆様、僕はノア・ティルステア、ティルステア聖国で第2位の聖人を務めさせて頂いております」と挨拶し、エレナ様が「ノアが入学したので教皇猊下に教皇の座から降りて頂く準備をしようかと思ってます」と発言した。
「エレナ嬢、上手くいきそうなのかい?」
「はい、殿下に協力して頂いたおかげで不正の証拠もありますし」
「僕とエレナ姉様以外の聖人聖女と枢機卿数人、それと執行者達は僕が掌握しておいたので、いつでも実行可能ですよ」
ノア様が天使のような笑顔でそんな事を言うものだから、その場の空気が一瞬凍った。
「まさかノアの方が掌握してるとは思ってなかったな」
「すみませんカイン殿下、私もそこまでしろとは言ってなかったのですが、私がこちらにいる間にそんな事になっていたらしく…」
「姉様を助けようと思って根回ししてたら、自然と掌握する形になっちゃったんだもん仕方ないよね、それにあの変態は教皇にしていては駄目な人間ですから、この国に迷惑をかける前に引きずり降ろします」
「ちなみに引きずり降ろした後はどうするんだい?」
「私が第1聖女のまま仮の教皇として国を安定させます、そしてノアが成人したら教皇になってもらう予定です、なのでカイン殿下には私達の後ろ盾となって頂きたいのですが」
「それは構わないよ、なんならユーフェミアも紹介しようか?」
「お願いします!」
そんなカイン様とエレナ様の話を聞いていたら「ちょっと待ってくれ兄上、なぜそこでユフィが出てくるんだ」とアルベール殿下が口を挟んだ。
「アル、ユーフェミアはうちと同じでティルステア聖国と隣接してる国の王女だ、教皇を失脚させようとするんだから話くらいはしておいた方がいいだろう?」
「それはそうだけど、何もユフィを巻き込まなくても国王に直接言えばいいのでは?」
「あそこの国王はユーフェミアに激甘なんだよ、ユーフェミアは友人のマリアンヌが狙われていると知れば、自分から国王に協力するよう頼んでくれると思うし、そっちの方が確実だろう?」
カイン様がそう言うと、アルベール殿下は「それはそうだが…」と言いながらチラッとエレナ様の方を見た。
それで何かを察したエレナ様が「アルベール殿下安心なさって、私もう貴方の大事な人を奪ったりしませんし、ユーフェミア様は強い方ですからそもそも勧誘出来ませんわ」と言ったので、私も理解した。
アルベール殿下は、エレナ様とユフィ様を会わせたせいで、ユフィ様がキャシーのようにならないか心配しているのだろう。
エレナ様に言い当てられたアルベール殿下は、顔を赤くして「ばっ!違っ、別に大事な人とかでは…」と慌てていたが、そんな顔ではユフィ様の事を結構好きになっているのが丸分かりである。
そんなアルベール殿下の反応に、事情を知らないノア様まで何かを察して「もし姉様が問題なのでしたら、僕だけでユーフェミア殿下にお話しますよ」と言い出した。
ここまで言われたら流石のアルベール殿下も駄目とは言えず「ユフィに話す時は俺も参加するからな」と言い、エレナ様もノア様もそれで構わないという事だったので、それでその話は終わった。




