71話 神杖
エレナ様が部屋から出ていくと、アルヴィン様が皆に姿を見えるようにして「それで、どうするんだ?」とカイン様に聞いた。
「叔父上は神杖についてはどのくらいご存じですか?」
「教皇が封印解いて持ってるのは確認したが、どういう効果があるかについてはヴィンスやキースの方が知ってると思うぞ」
「聞いてきて下さい」
「お前最近人使いが荒いな」
「協力して下さるのでしょう?」
カイン様がそう言うと、アルヴィン様は「はいはい、聞いてくればいいんだろ」とどこかへ転移していった…と思ったらヴィンス先生を連れて帰ってきた。
カイン様が「叔父上…」と言ってため息を吐くと「なんだよ、俺から聞くより分かりやすいと思うぞ」と言い訳していた。
「ヴィンス先生、叔父上がすみません」
「いえ、構いませんよ、神杖についてお話しすればいいんですよね」
「お願いします」
「はい、まずあの神杖は戦争時代の物ですので、使用者の基準が当時の人用になっています、なので教皇でも使うのは1日1、2回が限度だと思われます」
「使うとどうなるのですか?」
「んー…なんと言えばいいか、元々戦闘から逃げ出した兵を強制的に戦わせるためのものなので、強力な催眠術や洗脳といった感じでしょうか、文字通り操り人形になります、ちなみにこれは契約魔法でも精霊魔法でもありません」
「ん?じゃあまさかあっちの大陸の魔法か」
「アルヴィンの言う通り、エレボスの力を借りて使う向こうの魔法ですね、あちらでは神術と言うそうです」
「ヴィンス先生、なぜ神術が使える杖を当時の大神官が使っていたのですか?」
「元は敵が使っていた戦利品ですので、使えるものはなんでも使うのが戦争ですよ」
「解除は可能なのですか?」
「方法は3つ、神杖を奪って解除するか、古代魔法で解除するか、魔王に頼むかですね」
先生の発言にウィルが「古代魔法でも解除出来るんですか?」と聞き、先生が「出来ますよ、出来ないと戦争で負けますからね」と言ったので、ウィルは「ではもしかして先生なら解除出来るんですか?」と尋ねた。
「そうですね、実際やってみない事には分かりませんが、多分可能ですよ」
「そうですか…ならエレナ嬢の申し出を受けてみようかな」
「ちょっとカイン、確かにエレナ様はエレナ様で大変そうだけど、マリーを狙ってたのに信用して大丈夫なの?」
「あぁそれね、狙ってたというより助ける為にやってたみたいだよ」
「どういう事?」
アリスがそう尋ねると、カイン様はエレナ様の行動について解説してくれた。
まず、サイモン様が私に敵意を持つように思考誘導をかけたのは、私が狙われていると自覚させる為、私とアリスに接触したのはティルステアとエレナ様を調べるよう仕向ける為、クリスとリリに近付いたのは、人質にされる危険があるから警戒心を持ってもらう為だったらしい。
それを聞いたアリスは「分かりにくいにも程があるわ」と言った。
「確かにそうだけど、結果はエレナ嬢の思惑通りだよね、マリアンヌはウィルが守るし、私達はエレナ嬢やティルステアを警戒するようになった、マリアンヌの友人2人にはニコラスがそばにいるし、それにさっきの話で彼女は嘘をついてない、クロードを助けたいというのは本心なんだろうね」
「でもキャシーの件は?マリーを攫わせないようにするだけなら必要ないわよね?」
アリスの問いに、アルヴィン様が「試したんだろ」と答えた。
「試した、ですか?」
「そうだ、思考誘導を使わない会話での洗脳は、王子妃教育を受け、それを理解し、責任感を持っていればかからない、実際アリスには効かないって言ってただろ」
「そうですね」
「いきなり異世界に召喚されて、容姿も変わり、聖国なんて狂った国に捕らわれ、仲良くなった奴が人質になり、マリアンヌを教皇に渡さなければそいつが助からないし、頼りの魔王も見つからない、そんな時にアルベールに甘やかされてる奴がずっとそばにいたら、少しくらい痛い目に合えばいいとか思うだろ、洗脳を試しても王子妃にふさわしければ効かないしな」
「…そういう事ですか、分かりました」
そうしてエレナ様を助ける事に決まったのだが、ウィルが「エレナ様に協力するのは構いませんが、それがマリーを守る事に繋がるのですか?」とカイン様に聞いた。
「もちろん、ティルステアの情報だけなら叔父上に頼めばすぐだけど、内部工作や交渉は第1聖女の彼女の立場がとても有効だからね」
「分かりました、まず何からするんですか?」
「明日エレナ嬢に返事をして詳しく事情を聞くつもりだから、それからかな?叔父上はクロードがどこでどうしているのか調べて欲しいのですが」
「連れてこなくていいのか?」
「出来れば教皇に気付かれない形で解除したいので、今の様子だけでお願いします」
「分かった」
翌日、カイン様はエレナ様に協力する事を約束し、エレナ様も教皇の失脚の手伝いをする事を約束してくれたらしい、その後は特に何事もなく、あっという間に夏休みに入ろうとしていた。




