番外編 カインとアリス
47話あたりの話です。
※カイン視点※
私とアリスの出会いは私達が6歳の頃だった、当時の私は父親である陛下からは興味を持たれず、母親であるヘレナ王妃は、王妃の兄にあたるリーベル公爵の言いなりだった。
その為部屋にいてもたまにリーベル派閥の貴族が来ては私を値踏みしていった。
そして厄介だったのはリーベル公爵は権力自体は強いのだが人望がなく、油断してると足の引っ張り合いに巻き込まれ、リーベル派閥の貴族に毒を盛られるとか普通にあったので、かなりの人間不信になっていた。
そんな当時の私がよく居たのが、鬼の財務部長と言われ、不正を許さず、書類ミスは通さない、予算が欲しい等と言えば、鋭い眼光で睨みつけられ整合性がとれた理由でなければ貰えない、そんなギルバート・レイグラーフ公爵のいる彼専用の執務室だ。
そもそものきっかけは、私がまた毒が入っているのではという恐怖で食べ物の味が分からなくなり、食が細くなり過ぎた為、人の少ない財務部近くで倒れたのが始まりだった。
その時ギルバートは陛下への予算報告の帰りに倒れた私を見つけ、特に騒ぐ事なく私を拾うと、執務室のソファに寝かせてくれていた。
私が目を覚ますとギルバートは「殿下の事情は多少理解しておりますので騒ぎにはしておりません、しかしそのお歳で食べないのは自殺行為ですよ」と言った。
「ん~でも、私の食事はいつ毒が入ってるか分からないし、味もしないんだよね」
「…そうですか」
ギルバートはそう言うと、収納魔法からいくつか食べ物を出してくれた。
「娘が作ったものですので、毒は入っておりません、食べれるだけ食べて下さい」
「娘ってことは、公爵令嬢だよね?」
「はい」
「いくつ?」
「殿下と同じでございます」
「そう、凄いね」
「本人に伝えておきます」
そう言ったギルバートがいつもと違う顔をしていたので、普段なら口にしないが、料理の1つを口にすると、少し味がした気がしたので口にした分は全部食べた。
それから時間があればギルバートの所に行くようになり、ギルバートも「娘から殿下にと預かりました」と保存容器で渡すようになっていた。
流石に保存容器を持ってうろつけないので、収納魔法はこの時に覚えたのだが、教えてもらった魔法師団長のエリックに「殿下は教えがいがありますね」とその後も色々強制的に教わる事になったのは予想外だった。
そんなある日、いつものようにギルバートの執務室へ行くと、ギルバートではなく同い年くらいの女の子が居た。
彼女は私に気付くと「初めましてカイン殿下、レイグラーフ公爵の娘のアリスです」と綺麗な所作で挨拶してくれた。
私も挨拶すると、アリスが急に距離を詰めてきたので驚いたのだが、彼女は私の顔をじっと見つめた後「顔色いいですね、今はちゃんと食べてるんですか?」と聞いてきた。
「アリス嬢が作ってくれた分は全部食べてるよ、ありがとう」
「え?私が作った分だけじゃ足りませんよね?」
「そうだね、でも城の食事はほら、毒が」
「あ、はい、そうでしたね、すみません」
アリスはそう言うと「それならもしかしてお腹すいてますか?私今日サンドイッチ作ったので食べて下さい」と言って、保存容器からサンドイッチを1つ取ると私の口の前に持ってきた。
私がアリスの手からそのまま食べていいのか、受け取るべきかを迷っていると、何を勘違いしたのか「あっ!毒は入ってませんよ!」と1口食べて、また前に持ってきた。
これ間接キスになるけどいいのかなぁ?と思いつつ、この歳のご令嬢はまだ気にしないんだろうと思って彼女の手からサンドイッチを食べると、その時気付いたのか顔が少し赤くなっていた。
その様子を可愛いなぁと思いながら見ていると、まだ赤い顔で「その、美味しかったですか?」と聞かれ、この頃には味覚も戻っていたので素直に「うん、美味しいよ」というと、アリスが嬉しそうに笑って「よかった」と言った。
彼女のその眩しいほど明るい笑顔を見た時、私の中に恋と呼ぶには重い感情が生まれ「この娘の全てが欲しい」と初めて思った。
そして今思い返しても、当時の自分はかなり必死だったと思う、初めて会った時以降、彼女が度々料理を作って持ってくるので、それを理由に近寄り、外堀を埋めて、婚約者になってもらった。
それでも、こんな感情知られればアリスに逃げられてしまうと思った私は、それだけは避けたかったので本心は隠した。
でもその考えはウィルとマリアンヌに出会った事で少し変化した。
元々ウィルが私と同じで、興味のあるもの以外どうでもいいのは知っていた。
そんな彼が最愛の人を見つけ、どう接するのかと思ったら、多少言葉は選んでいるが、愛の重さが丸見えだった。
流石に相手が逃げるのではと思っていたのに、マリアンヌが普通に受け入れていたのを見て、彼らの関係を少し羨ましく思うようになった。
しかし、私は臆病だから、アリスを失うリスクを負ってまで自分の本心を打ち明ける気は無かった。
それなのにどこで気付かれてしまったのだろう、私は今アリスに本心を話せと迫られている。
「…私の本心、ね、アリスは誰に何を聞いたのかな?」
「アルヴィン様に、私が暗殺されるような事があればカインが国を潰してしまうと聞いたわ」
「あ~、叔父上かぁ…」
「本当、なの?」
「とりあえず座ろうか」
私はそう言ってアリスをソファに座らすと、彼女の両手を握り、その前に跪いた。
今までアリスに必要以上に触れたり、距離を詰めるような事はなかった私がそんな行動をしたせいか、アリスは驚いていた。
「それで、アリスは私の本心を聞いてどうするの、逃げるのかい?」
「今更何を知ったって逃げないわ、私はカインの妻になる為に聞いておきたいの」
「…そう、分かった、じゃあ何から話そうか」
「カインは私の事本当に好きなのよね?」
「もちろん好きだよ、君なしでは私はこの世界で生きる意味を見出せないくらいにね」
私は言い終わると同時に立ち上がるとアリスの肩に手を置き彼女をソファに押し倒した。
「きゃっ!⋯え、カ、カイン?どうしたの?」
「ん?アリスは私の本心を知りたいんだろう?」
「そ、そうだけど何でこんな体勢に…」
「今まで人目もあったし、節度ある交際をし過ぎてたからね、そのせいでアリスが私に好かれてるか分からないと言うなら、本心を話すついでに身をもって体験してもらおうと思って」
私がそう言いながら、彼女の脚の間に片脚を割り込ませると流石のアリスも顔を赤く染めて慌て出した。
「ちょっ、ちょっと待ってカイン」
「待たない、私はねアリス、ずっと君の全てが欲しかったんだ」
「…そ、それならなぜ今までその、必要以上に触ってこなかったの?」
「なら聞くけど、言ったら逃げずに抱かせてくれてた?」
「だっ!?いや、その、私達は立場的に…」
「だよね、私はさっさと既成事実を作ってアリスを逃げられなくしたいんだけど、一応王子だし、順序というものが邪魔するから、これでも色々我慢してるんだよ?」
「わ、分かった、分かったから本当にちょっと待って」
アリスが珍しく真っ赤な顔でそんな事を言うので、私は服を脱がそうとしている手を1度止めた。
すると彼女は少し安心したような表情を見せ、私はせっかく優秀な側近達がくれた時間だからここで止める気はないよ、と思ったが黙っておいた。
「どうかした?」
「ど、どうかしたじゃないわ、今まで何をしても手を出さなかった人に、こんな事されるだなんて思わないじゃない」
「あぁ、アリスからの誘いを耐えるのには苦労したよ」
「何で分かってて耐えるのよ!?」
「じゃあアリスはメイドや護衛の前で私にこんな風に押し倒されても文句ないんだね」
「…それは困るわ」
「嫌なわけではないんだ」
「好きな人に触られるのを嫌がったりしないわよ、そもそももう少しスキンシップがあってもいいかなって思ってたから」
「そうなんだ、じゃあ続きをしようか」
「へっ?あっ!ちがっ、そういう意味じゃないの」
その後アリスの意見は無視して、長年の想いを話しながらアリスを撫で回した。
最後の方は「もう分かったからぁ」と言いながら泣かれたので、流石に逃げられるかなと少しは覚悟したのだが、結果は「カインが私が居ないと駄目なのは十分分かったから、今度からは隠さないでちゃんと言って…心の準備が出来ないから」と真っ赤な顔で言われてしまった。
どうやら自分が思っていた以上にアリスに好かれていたようなので、私はその日からアリスに本心を隠すのを止めた。




