53話 接触
学園が休みのある日、とうとうその日が来た。
寮の部屋で猫のメーネスを膝にのせてお茶を飲んでいたら、部屋の扉がノックされ、侍女のマーサが確認するとキャシーだと言われた。
私が出てキャシーに用件を聞くと、アリスとお茶するから一緒にどうかという誘いだった。
特に断る理由もなかった私は参加する事にしたのだが、キャシーについて行った先には、アリスと一緒に見知らぬご令嬢が居た。
アリスが令嬢スマイルをキープしていたので、何となく察してはいたが、キャシーが無邪気に「マリーは初めて会うよね、私の友達のエレナだよ」と紹介してくれたので確信に変わった。
エレナ様は「初めましてマリアンヌ様、私エレナ・スメラギ・ティルステアと申します」と挨拶してきたので、私も令嬢スマイルで「ティルステア聖国の第1聖女様ですよね、初めましてマリアンヌ・ガルディアスです、お会い出来て嬉しいですわ」と返しておいた。
ちなみに今いる場所は、寮の私達の部屋がある5階フロアの多目的室で、お茶会が出来るようセッティングされていた。
私は丸テーブルのアリスとキャシーの間の席に座ったので、エレナ様は真正面になる、初めてエレナ様の容姿を拝見したが、艶やかなロングストレートの黒髪が姫カットにされ、大きな目に精霊の加護持ちである証拠の金色の瞳、華奢で庇護欲を誘う感じの美少女で、顔のつくりは日本人要素がゼロ、初見で異世界人とは分からない容姿をしていた。
私が、アルヴィン様の言ってた顔が違うってこの事か~と思っていると、アリスが口を開いた。
「マリー聞いて下さる?キャシーったらエレナ様がいる事黙ってたのよ、おかげで私凄く驚いたわ」
「あら、アリスもなの?私も知らなかったからさっき紹介された時は驚いたわ、まさか第1聖女様にお会い出来るだなんて思いませんもの」
「ふふっ、ごめんなさい、私達せっかく同じフロアに居ますのに、私キャシーとしか接点がありませんでしょう?お2人とも仲良くしたいとキャシーに相談したら、こうなりましたの」
「2人共ごめんね、エレナがいるって分かると断られるかと思って」
「キャシー、私達エレナ様がいたって断ったりしないわ、ねぇマリー」
「えぇ、ご一緒出来て嬉しいわ」
こんな感じで令嬢モードをフル稼働させた私とアリスは、当たり障りなく会話を続けていたのだが、エレナ様が「そういえばお2人は国王陛下の弟君ってご存じ?」と聞かれたので内心身構えた。
陛下の弟というとアルヴィン様の事だよなぁと思いつつ、表情は令嬢スマイルのまま「陛下の弟君でしたら、フェアリード大公閣下の事かしら?」とエレナ様に聞いた。
「はい、その方ですわ、私留学して1年以上経ちますのにお会いした事が無いので」
以前から、エレナ様は精霊の泉を探したりしてる素振りがある、もしかしてアルヴィン様狙いなのか?と思いつつ、何だか違う気がしたので「残念ながら私もお会いした事はございませんわ」と言っておいた。
アリスは「私もですわ」と言った後「これはカイン殿下に聞いた話ですが、フェアリード大公閣下は現在音信不通だそうなので、生死も分からないそうですわ」とエレナ様に伝えた。
それを聞いたエレナ様は「そうですか」と言った後、その事について言及することはなかった。
その後は特に問題なく話をしていたのだが、キャシーの「皆に聞いて欲しい事があるの」と言って話し出した内容がヤバかった。
「あのね、私、アル様と婚約解消してティルステア聖国へ留学しようと思ってるの」
私は、え?キャシーったら急に何言ってんのかしらと思いつつ、令嬢モードで「キャシーそれはまた急ね、どうしたの?」と聞いてみた。
アリスも同じだったようで「そうよ、事情を聞かせてもらえるかしら」と言っていた。
「実はこの間、アル様にもうエレナと付き合うなと言われたの」
「(アルベール殿下が陛下からの指示で距離を置けって言われてたやつね)アルベール殿下は何か理由は仰ってたの?」
「何か言ってたけどよくわかんなかったわ、ただエレナの近くにいると危ないからって言われて、それで私エレナはそんな娘じゃないって言ったんだけど、分かってもらえなかった」
それを聞いたアリスが「それで婚約解消?流石にそれは無理よ、王子殿下との婚約ってそんな軽いものじゃないもの、分かってるでしょう?それにきっとキャシーのお父様も許さないわ」と言ったのだが、キャシーは「お姉様も私が悪いと言うの!?アル様もそう!そのままでいいって言ってくれてたのに、結局私の自由にはさせてくれない!」と言いながら泣いて怒り出し、そのまま部屋を出て行った。
部屋に残された私とアリスとエレナ様は暫く黙っていたが、私はエレナ様に「エレナ様はキャシーの事、どうしたいんですの?」と聞いてみた。
するとエレナ様は「私はキャシーの相談に乗ってあげていただけなのですけれど」と言い、それにアリスが「どのような相談かしら」と聞いたけれど「本人の許可なく相談内容は話せませんわ」とかわされた。
「ただ私は、キャシーと仲良くしていただけなのに、アルベール殿下に疑われて困ってますの」
「嫌疑の内容はご存じ?」
「いいえアリス様、もしご存じなら教えて頂けるかしら」
「…陛下が、貴女がとある生徒を病ませたと疑っておいでです、アルベール殿下はその指示に従っただけですわ」
「あら、思いの外トワイライト王国の影も優秀なのね」
「事実だとお認めになるの?」
「まさか、証拠があるなら別ですけど、ないのでしょう?」
「随分と強気ですわね、貴女この国に何をしに来たの?」
アリスがそう問うと、エレナ様はクスクスと笑いながら「流石カイン殿下、アルベール殿下と違ってちゃんと妃に向いてる娘を選んでるのね、いいわヒントくらいなら教えてあげる、人を探してるの」と言った。
「それとキャシーの件だけど、私はただ瞳が金色だしティルステアなら重宝されるわよって話をしただけ、まぁあの国が長年研究した末の勧誘マニュアルだから効きすぎちゃったのかしらね」
「では貴女はキャシーがどうなってもいいと言いますの?」
「アリス様、怒る先が違いますわ、勧誘マニュアルを使っても貴女やマリアンヌ様みたいな方には効果がないんです、つまり、彼女を甘やかしてきたアルベール殿下と、いつまでたっても意識の低い彼女の自業自得、私を責められても困りますわ」
エレナ様はそう言うと「次はカイン殿下とウィリアム様もご一緒の時に話しましょう」と言って部屋から出て行ってしまった。
「あー!もう!何なのよあの女ああぁ!!」
「アリス落ち着いて」
「分かってる、分かってるわ、大丈夫よ、それにしても思っていたよりあっさり本性出したわね」
「本心は隠したままだったけどね、転生者かどうかは確認してこなかったし」
「そうね、ねぇ、マリーはあの女の探し人誰だと思う?」
「状況を考えるとアルヴィン様だと思うんだけど、違う気がするんだよね」
「もしかして、ゲームの方のアルヴィン様の可能性ない?」
「あ、なりすましてる方って事?」
「そうそう」
「あ~…うん、そうね、そんな気がする」
「でもそれじゃあ誰かは分かったけど、誰か分からない、って言ってて意味わかんないわね」
「今日はとりあえず部屋に戻りましょうか」
「そうね、明日カインに話して考えましょう」
そうして私達も自分の部屋に帰り、エレナ様との劇的な邂逅は終わった。




