3話 悪役令嬢情報を整理する
侍女のマーサがノートとペンを持ってきてくれたので、私は部屋に1人にしてもらい、何も書かれていないノートに、念の為閲覧されても内容が分からないよう日本語で、『黄昏のメモリア〜私と秘密の王子様〜』について書き出した。
まずはゲームのストーリーだ、私は第5章のアップデート前に転生してしまったから、第4章までの話をざっくりと書く。
第1章はヒロインと初期攻略対象者4人分の運命的な出会いである。
ヒロインとの出会い方に多少の差はあれど、時期はヒロインが6歳の時の王誕祭中に王都サンステラの城下町から見える美しい夕日を一緒に眺め、攻略対象の夢を聞きそれを応援する約束をして別れるというものだ。
第2章は11歳になったヒロインが王都にある学園に入学する所から始まる、ちなみに1章での思い出は約束した内容と、当時のぼんやりした背格好位しか覚えておらず、名前も顔も分からない為、初期攻略対象と再開しても追加攻略対象と同じ初対面対応から始まる。
ちなみに私、悪役令嬢マリアンヌはこの2章のヒロインが15歳になった時に行われるダンスパーティーイベントで婚約破棄の上断罪される。
ここ、トワイライト王国は16歳で成人、社交界デビューをするのだが、デビュタントすら迎えられないとか勘弁して欲しい。
第3章は新ヒロインが学園に編入してくる。
初期ヒロインストーリーと新ヒロインストーリーの2種類ある上に、どの攻略対象を選ぶかで分岐が酷く、サイドストーリーが盛り沢山、3章終了時の国内情勢がどうなるのか予測が難しいシナリオになっている。
第4章は魔王降臨。
3章でドタバタしてた時に魔王の封印が解かれていたらしく、ティルステア聖国の聖地にあるお城が乗っ取られて魔王城になっちゃったという話。
新ヒロインなら聖女として、初期ヒロインなら婚約者と共に魔王との交渉に同行する為魔王城に行くけど、聖国の闇と魔王の事情に巻き込まれる感じだった。
私は、15歳での断罪をまず回避しなければどうしようもないので、ゲームのマリアンヌ情報もまとめてみる。
マリアンヌは2章開始時点でヒロインと同じ11歳、ヒロインの選んだ攻略対象の婚約者として登場する。
学園生活を送る中、婚約者の自分よりヒロインとの距離を縮めだす攻略対象に苛立ち、2人が一緒に居るのを見かけるたびに嫌味ったらしく注意をしたり、時には権力を使い無理やり2人を引き離したりしていた。
だがこの程度で、普通追放されたりはしない。
問題は学園で生活し始めて3年程経つと、攻略対象がヒロインに攻略されてしまい、エスコートやマリアンヌの誕生日パーティー等に来ないようになってしまう、これにマリアンヌの父親が怒り、マリアンヌと2人でヒロインを暗殺しようとしてしまう。
暗殺に成功すると処刑、失敗すると追放となる。
ただし、アルベール殿下を選択した時だけは違う、殿下とヒロインの親密さを注意する役は、私の推しのウィリアム様だったし、アルベール殿下に好かれているのは自分の方だと勘違いしたような牽制をしてくる妨害行為だった。
最後もヒロインではなく、自分を選んでくれないアルベール殿下に刃物をむけてしまい、王族殺人未遂現行犯で追放である。
正直ゲームのマリアンヌは何であんなに殿下を好きだったんだろうか、私はオレ様殿下苦手なんだけどなぁ…まぁ、私はゲームのマリアンヌでは無いんだし、現実の断罪回避の方法を考えないと。
殿下とのお茶会やお父様の反応から、おそらくアルベール殿下のルートに足を入れかけていると仮定して、断罪回避の為に私が出来そうな事と言えば…
1.私が殿下を攻略する(無理!)
2.誰とも婚約者にならない(現実的じゃないので却下)
3.別の誰かと婚約してしまう(いける、か?)
でも別の誰かって誰よ、そもそも推しが居るのにそれ以外の人となんて…そうよ、ウィリアム様と婚約すれば良いのでは?
もちろんウィリアム様の気持ちは大切だから、嫌がられた時は諦めて別の回避方法を考える、でも、せっかくかなりの美少女に転生したし、同じ世界に生きてるし、立場も近い。
何より推しを1番近くで観れる権利を、別の誰かに渡したくないんだから仕方ない、私は推しに婚約を申し込む!
しかしながら、どうすればウィリアム様に会えるだろうか、可能性があるのはやり直しの殿下とのお茶会で、もう一度ウィリアム様が来る可能性だろうか。
もしアルベール殿下ご本人が来てしまった場合は、お父様経由でウィリアム様のお父様にコンタクトを取るしかないだろう。
私はとりあえずの方針が決まったので、ノートに攻略対象者達の名前と今分かっている攻略情報を書き出し、何かあったらその都度確認と追加をする事にした。
一息つこうと思ったので、侍女のマーサを呼んだら何故かお母様も一緒に来たので、2人分のお茶の用意をしてもらった。
しばらく静かにお茶を楽しんでいたら、お母様が楽しそうな表情をしながら聞いてきた。
「さぁマリー、朝の続きよ!ウィリアムくんってどなた?」
「やっぱり気になりますか?」
「当たり前じゃない!娘の初恋よ!!あとお父様には上手く伝えてあげるから安心してね」
「分かりました、私が恋をしてるのはクレメント辺境伯の御子息のウィリアム・クレメント様ですわ、お母様」
「バーナード様の御子息?でもマリーはお会いした事無いでしょう?」
正直どこから話すべきか悩んだけれど、会った事も無い相手に恋する頭のおかしい娘とか思われたく無かったので、先日会った殿下がウィリアム様だったと話したけれど、これはこれで初めて見るはずの殿下とウィリアム様の区別がついてる謎が残るので、どちらにしろ頭の心配をされてしまうのではと気付いて焦った。
「殿下のフリをねぇ、まぁあのバーナード様の御子息なら出来るかもしれないわね」
「信じてくれるのですか?」
「もちろん信じるわ、それに私もマリーのお父様を一目見た瞬間運命だと思ってその場で告白したもの、直感は大切よ」
お母様が強い…。
お母様が頼し過ぎて、ついウィリアム様に婚約を申し込む件について相談してしまい、気付けば次のお茶会はお母様が同席すると言い出した。
「え、それは大丈夫なのですか?」
「問題無いわよ、少し確認したい事もあるし丁度良いわ」
「なら、お母様よろしくお願いします」
「任せて」
それから数日後、お母様がどんな手を使ったのか知らないが、お城ではなく我が家の庭園でお茶会のやり直しが決まった。