38話 作為の跡1
ヴィンス先生によってサイモン様が大人しくなったので、ウィルは拘束を解くと、先生に「彼に何をしたんですか?」と尋ねていた。
「少し寝てもらっただけです、暫く起きないと思うので医務室に運びましょうか」
「そうですか…それなら私が運びますよ」
「いえ、それは私がしますから、君は彼女達をお願いします」
ヴィンス先生はウィルにそう言うと、転移魔法でサイモン様と共に消えてしまった。
ウィルは私達の方を向くと「2人共大丈夫?」と声をかけてきたので私は「えぇ、大丈夫です」と答えた。
「マリーちゃんごめんなさい」
「クリス?どうしたの?」
「サイモン、入学する前はあんなのじゃなかったの、優しくて、あんなひどい事言ったり怒鳴り散らすような人じゃなかったのに…」
「クリス…」
あの何が何でも私を悪役にしたいサイモン様の感じは確かに異常だと思う、私が悪役令嬢なのにクリスと仲良くなったから、シナリオの強制力的なものでも働いているのだろうか、でもだからといって攻略対象を暴走させちゃあシナリオも何も無いわよね。
考えても分からない事は放置して、落ち込んでいるクリスをどうしようかと思っていると「君達そこで何してるの?」とカイン様に声をかけられた。
「玄関ホールで女子生徒に絡んで騒いでる奴がいるって聞いたから来たんだけど、何か知ってる?」
「あ~…カイン様、俺達関係者なんで、場所移していいですか?」
「じゃあ3人共、生徒会室に来てくれるかな」
こうして場所を生徒会室に移した私達は、これまでの経緯を説明した。
話を聞き終えたカイン様は「なるほどね」と言って考え込んだ後「ちょっと調べたい事が出来たから、君達は戻っていいよ、あ、ウィルは残ってね」と言われた。
その後私とクリスは午前の授業に途中参加したのだが、休憩時間にリリに物凄く心配された。
「2人共無事で本当に良かったわ」
「リリ、心配かけてごめんなさいね」
「私はいいのよ、クリスも大丈夫?」
「うん、ショックだったけど、大丈夫だよ」
まだ少し落ち込んでいるものの、クリスは持ち直したようだったので安心した。
その日の昼休みに、カイン様から今日の放課後は生徒会室に来るよう言われたので了承し、ついでにディーンの件でリリが話をしたい事を伝えると、来週の放課後に時間をもらえる事になった。
私の午後の授業は歴史学と精霊学だが、パトリック様もリリも別の選択科目の授業を受ける為、今日は私1人だ。
授業開始のベルが鳴り、教室に入ってきたヴィンス先生が「今日はマリアンヌさん1人ですか、でしたら内容を変更して神話の話をしましょうか」と言った後、私の隣の席に座った。
私は朝の事も気になったので「先生すみません、サイモン様ってあの後どうなったんですか?」と聞いてみた。
「サイモン君ならまだ寝てると思いますよ、アルヴィンにも確認してもらいましたが、彼どうやら思考誘導を受けてたようなので」
「思考誘導?」
「そうです、相手の持つ思いを強くして、こちらの望む行動をとらせる精霊魔法ですね」
「精霊魔法なんですか!?」
「本来は、森に入ってきた人間の恐怖心を煽り、帰らせる為のものなんですけどね、今回はサイモン君のクリスティーナさんへの想いと、マリアンヌさん、何故か貴女への敵対心が強くなっていたそうです」
「そう、ですか…あ、でもそれってサイモン様大丈夫なんですか?」
「思考誘導自体はアルヴィンが解除したので大丈夫ですが、問題は目を覚ました後ですかね」
「どういう事ですか?」
「思考誘導を解除してもその間の自分の行動や言動は覚えているんですよ、今回みたいな場合、元の性格にもよりますが大体の人が酷く後悔します」
「そんな…誰がサイモン様にそんな事をしたのか分かっているのですか?」
「それについては精霊学の時で構いませんか?アルヴィンからも話があるので」
「分かりました」
ヴィンス先生の話は衝撃的で続きはとても気になるが、詳しくはアルヴィン様が説明してくれるそうなので、私は大人しく授業を受ける事にした。
「それでは授業を始めます、マリアンヌさんはこちらの大陸のほとんどの国がサンラミスとアルティナの夫婦神を信仰しているのは知っていますか」
「はい、各国にある教会は全てティルステア聖国が母体となっているので、他国でも信仰に差はほとんどないと本で読んだ事があります」
「そうですね、魔王が居た頃は連合国として国境など無かったので、その時広まったものが今も残っているんですよ」
「新興宗教などはないのですね」
「この大陸で精霊魔法以上の奇跡が起こせるのなら、あったかもしれませんね」
「あぁ、新興宗教が無い事に納得出来ました」
「それは良かった、ではマリアンヌさん、海の向こうの大陸では何が信仰されているでしょう」
ヴィンス先生からの問いに、私は答えられなかった。
海の向こうの大陸は800年程前にあった魔王との戦争時に、魔王側に就いた人々の住む大陸だ。
一応黄昏のメモリア4章にそっちの大陸出身の攻略対象とか出たけど、信仰は流石に知らないので、先生に「分かりません」と言うと「サンラミスとアルティナの子供のエレボスを信仰してるんですよ」と初めて聞く内容を話し出した。
「あまり知られてはいないのですが、神話ではあの夫婦神に1人子供がいるんです、その名前がエレボス、ただこのエレボスは力や混沌、怨嗟等を司る破壊神に育ってしまいまして、これに嘆いたサンラミスは1度殺して転生させようとするのですが、アルティナは我が子を殺す事に反対をします」
「過激ですね、そんな話初めて聞きました」
「第2図書館にこの内容の本があるので興味があるなら今度教えますよ」
「是非お願いします」
「分かりました、では続きです、アルティナも殺す事には反対したものの、このままだとエレボスが世界を破壊してしまうので、世界に手出し出来ないよう別次元へ閉じ込めてしまいます、そして夫婦神も調整役に世界を任せ、別次元から見守る事にした、とりあえずこんな感じの話です」
「そのエレボスは信仰すると何かあるのですか?」
「エレボスは破壊神ですからね、色々細かい理由があるのですが簡単に言うと力が上がります、こちらと違って戦いの絶えない向こうの国では力こそ正義なのですよ」
「ちなみに魔王とエレボスは何か関係があったりするのですか?」
「良い質問ですね、そもそも魔王とは…」
先生がそこまで言ったところで終了のベルが鳴ってしまった。
「時間になってしまいましたね、では続きは次に」
「せ、先生!気になるんで魔王とはのところだけ教えて下さい」
「本当にマリアンヌさんは熱心ですね、いいですよ、魔王とは自分の意思と関係なく、エレボスとこの世界を繋げてしまう可哀想な人の事なんです」
「…え?」
先生が言った事が事実なら、魔王の立場がゲームとかなり違う事になるのだが、先生に「ではアルヴィンが待っていると思うのでそろそろ行きますか?」と話しかけられた為、私は考えるのをやめ、先生と精霊の泉へ移動した。




