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35話 私の婚約者


ウィルと一緒に人気の少ない席に移動すると、ウィルは隣り合っていた席を対面に向け、片方に座るよう促してきたので、私は席に座った。

ウィルも私と向かい合う席に座ったのだが、その後私の膝がウィルの膝の間に入る距離まで椅子を寄せてきた、いつもの事だが距離が近い。

婚約者になる事早数年、いい加減私もウィルに慣れたいんだけど、当たり前の事だが、ここ最近のウィルは私が前世で好きだった頃のウィルにどんどん近付いていってるので、慣れるどころか悪化している気さえする、だって仕方ないじゃない、どうしようもなく好きなんだもの。


ウィルは私の両手を取ると、両手共ウィルの指を私の指間に絡めて、所謂恋人繋ぎ状態にした後、私の膝の上に手を置き「マリーとこうやって2人っきりでゆっくり話すのは久しぶりな気がするね」と笑いかけてきた。

私は赤面している自覚をしながらも、何とか「そうですね」と答えることは出来たが、近すぎてウィルを直視出来なかった。


「ねぇマリー、顔真っ赤だよ」

「ウィルとの距離が近いからです」

「え~、俺これでも譲歩したんだよ、本当はいつもみたいにマリーを膝の上に乗せたかったし、それともそっちの方が良かった?」

「こ、これでいいです、大丈夫です」

「そっか、残念」


ウィル、顔が全然残念そうじゃないですよ、誰も見ていないとはいえ、こんな人目のある所でウィルの膝の上に座らされるとかどんな羞恥プレイだ、ウィルは良くても私は耐えられそうにない。

そんな事を考えているとウィルが「そういえばクリスティーナ嬢とリリアン嬢とは随分仲良くなったんだね」と話しかけられた。


「あ、はい、そうですね、仲良くしてますよ」

「特に問題なさそう?」

「えぇ、クリスの方は最初少し不安でしたけれど、教えれば分かる娘でしたわ」

「そう、なら良かったよ、サイモンの方はどうだった?」

「それが、今日は登校してないんです、おかげでクリスとゆっくり話せたので良かったんですけど」

「えっ、そうか、来てないのか」

「どうかしましたか?」

「うん、今日生徒会にバージルも来てたから、サイモンに何て説得したのか聞いたんだけど、その反応がちょっと微妙でね」

「もしかして、僕が居ないとクリスが虐められてしまうとか仰ったりしてました?」

「よく分かったねその通りだよ、反省してるか微妙だから、明日はサイモンの反応を見るまでマリーと一緒に居るけど良いかな?」

「私はウィルと居られるなら嬉しいので構いませんが、ウィルは大丈夫なのですか?」

「大丈夫だよ、俺の居ない所でマリーに何かある方が問題だから、ちなみにサイモンが反省してない様ならちょっと躾が必要になるんだけど、クリスティーナ嬢はサイモンの事どう思ってるか知ってる?」


私は躾の内容が気になったが、聞いちゃいけない気がしたので聞くのは止め、今日クリスから聞いた話をしたら、ウィルは笑顔で「じゃあ遠慮はいらないね」と言っていた。

話も一区切りついたので、私はウィルに料理セミナーでの話をする事にした。


「あの、ウィル、私今日リリとクリスと料理セミナーに行きまして」

「そうらしいね、セスに聞いたよ、ファビオさんには驚いたでしょ」

「えぇ少し、ウィルの叔父様だというのにも驚きました」

「そういえば言ってなかったね、うちの父さん婿養子で実家はコーディル子爵家なんだ、父さんが長男でファビオさんが三男、子爵家は次男の叔父さんが継いでるよ」

「そうだったんですね、後ファビオ先生に、ウィルの婚約者だから和食を知ってても当然だと思われたんですが、何でですか?」

「あぁ、それはうちの父さんが和食文化のある島国に知り合いが居て、色々送ってもらえるんだよ、ただあの島基本どことも交流しないから、クレメント辺境伯領の辺境騎士団にでも所属してないと知らない事なんだけど、よく知ってたね」


私は、和食への近道が超身近にあった事実にショックを受け項垂れてしまった。


「え、何、マリーどうしたの?」

「ねぇウィル、私が転生者だって知ってますよね」

「うん、勿論」

「前世の主食が和食だったんです、だからずっと食べたかったのに…」

「そうだったの!?えっ、ごめん、もっと早く教えてあげればよかったね」

「大丈夫です、次から作らせてもらえるので」


私が「私こそ、ウィルは悪くないのに責めるような言い方をしてごめんなさい」と言うと、ウィルは暫く考えた後、私に顔を近付けて「じゃあ、今年の夏休み俺と辺境伯領行ってみる?」と聞いてきた。


「え?」

「好きなんでしょ和食、辺境伯領に行けば朝昼晩全部でも可能だよ」

「行きます!」


和食の誘惑に私が即答すると、ウィルにキスされ「じゃあ決まりだね」と微笑まれてしまった。

完全に油断していた私はこれ以上ないくらい顔が熱いのだが、ウィルにがっちり手を繋がれている為隠す事も出来ず、穴があったら入りたいくらいだった。


「何だか私、毎回ウィルの手のひらの上でコロコロ転がされてる気分だわ」

「そうかなぁ?」

「そうですよ、だってウィルはいつも平気そうですもの」

「それはマリーが俺に全然慣れないせいじゃない?」

「だって…」

「ん?」

「だってウィルが好きすぎて自分でもどうしようもないんですから、仕方ないじゃないですか」


私がやや不貞腐れ気味にそう言うと、ウィルは黙って私の肩に頭を乗せてきた為、顔は見えないが耳は少し赤い気がした。


「マリーは俺をどうしたいの」

「どうと言われましても」

「俺に何かお願いする事もほとんど無いし」

「お願いする前にウィルがして下さいますから」

「俺はマリーのお願いだったら何だってしてあげるのに」

「では、手を離して下さいますか?」


するとウィルは私の肩に乗せていた頭を上げると、嫌そうな顔をして「何で」と聞いてきた。

私が「今日作ったカップケーキを渡したいのですが」と言うと「そういう事なら仕方ないね」と渋々手を離してくれた。

私が収納魔法からカップケーキを取り出すと、それを見たウィルが「それならすぐ食べられそうだから、食べさせて欲しいな」と首を傾げて要求してきた。


「そういう所ですよ、そうやって私を手玉に取って面白がるんですから」


私がそう言ってウィルの口元にカップケーキを差し出すと、ウィルは「別に面白がってるつもりは無いんだけどな」と言いながら食べ始めた。


「ではどういうつもりなんですか?」

「マリーの反応が可愛くてつい」

「やっぱり面白がってるじゃないですか」


そんな事を言っていたらあっという間に最後のひと口で、それは私の指ごとウィルの口に入れられてしまったので、驚いた私はすぐ抜こうとしたが、ウィルに手を捕まれそれも叶わず、ご丁寧に自分の指先が舐められる所を見る羽目になった。

え、何コレ、どうしてこうなった、ちょっとこれは扇情的過ぎじゃないですかね、ウィルどういうつもりですかあああぁぁ!

パニック寸前の私を余所に、ウィルは何でもないと言わんばかりに「美味しかったよ、ご馳走様」と言ってきた。


「ちょ、いま⋯いえ、美味しかったなら、良かった、です」

「ねぇマリー、俺さっきマリーのお願いなら何でもしてあげるって言ったけど、どうしても出来ないお願いがあるんだよね」

「何ですか?」

「マリーを手放すとかそういうお願いはマリーが嫌がっても無理かなぁ、ごめんね」

「…もしかしてさっきの、私が手を離して欲しいなんて言ったからわざとやりました?」


私の問いに、ウィルは「それもあるかな」と言って笑うだけだった。

もう、ウィルが何考えてるか全然わからない。


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