プロローグ
夢を見ていた。
夢の中の私は一人暮らしの成人女性で、職場と自宅を往復するだけの毎日を過ごしていた。
そんな私に彼氏がいるはずもなく、唯一の楽しみが所謂乙女ゲーム、その名も『黄昏のメモリア〜私と秘密の王子様〜』である。
このゲーム割と人気が出た為、2章の学園編でハッピーエンドのはずが3章聖女と後継編、4章魔王降臨編と追加配信した上、攻略キャラも初期の4人から2章で更に4人、3章で2人とシークレットが2人、4章では5人と最早乙女ゲームとして成り立つのか怪しいキャラ数だけど、そこは新ヒロインと神絵師スチルとご都合主義で夢がいっぱいお花畑状態だった。
そんなゲームで私の推しは攻略対象…ではなく、初期キャラ4人の中で第2王子のアルベール様を選ぶと出てくる側近のモブ…そう、モブなのだ。
だけど言い訳させて欲しい、王子は公式メインヒーローだし側近は4人居て、その内2人は初期キャラで、私の推しと残りの1人はキャラデザと名前があるから、追加配信の可能性をかなり期待していた。
もちろん他にも名前のあるモブは多数居た為、お布施という名の課金もしたし、アンケートの追加希望キャラには推しの名前を記入して送信したりもした。
しかし結果は推しじゃない方の側近が追加配信され、私の推しは側近唯一のモブという不名誉を被る事になってしまった。
それでも推しへの愛故に諦めきれず次こそはとゲームを続け、もしかしたら王子以外のキャラで出番があるのではと全キャラ制覇し、実はシークレットで居るのではとストーリーを周回し、それでもやっぱり居なかった。
もう諦めるべきかと思っていたら、新章大型アップデート予告のお知らせがあり、新章と新キャラ、そして新システムとして悪役令嬢マリアンヌを操作する、黄昏の裏側編が追加されると書いてあった。
断罪追放され、場合によっては処刑されるキャラの操作とか難易度鬼な上誰得だよ、と思いながらお知らせを読んでいた私は驚愕した、なんと私の推しが悪役令嬢の運命共同体として共に行動する攻略キャラとして紹介されていた。
「は?…えっ!?マリアンヌと運命共同体ってどういう事!?まさかマリアンヌの攻略キャラだったから今までモブだっ…」
そこで私の記憶は終っている。
もう一度冷静に思い出してみる。
確かあの日私は、いつもの様にゲームを起動させながら職場から帰宅していて、信号で立ち止まったからお知らせを読んでいた。
でも推しが攻略キャラという情報にテンションが上がり過ぎて周りが見えていなかった。
最後の瞬間目の端に映った強い光と強い衝撃、それと凄いエンジン音、ノンブレーキのトラックでも突っ込んで来ていたのだろう。
夢だけれど夢じゃない、前世の記憶。
今の私が話せばそれこそ夢の様な話、でも今思い出せて良かったと思う。
何故なら今の私の名はマリアンヌ・ガルディアス公爵令嬢、黄昏のメモリアの悪役令嬢であるからだ。