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処刑

 施設に着いて、写真を撮られ身長や体重などを測り、様々な検査をされ最後に注射を打たれたあと牢屋に放り込まれた。

 両横と後ろは厚いコンクリートブロックで覆われていて、誰がどう間違っても此処はホテルではなく牢屋に間違いない。

 しかもその狭い牢屋の中に居るのは、俺だけだ。

 まあ今どき大部屋の牢屋なんて流行らない。

 仲間にもいろんな奴がいるから、うるさい奴や凶暴な奴と相部屋になることのない独房のほうが気楽でいい。

 ただひとつ困ったことは、これじゃあユキがどこに居るのか、姿が見えないことだ。


 独房では隣の奴の顔も見えない。

 まあ姿は見えなくても、声なら分かるだろう。

 そう思い、大声でユキの名前を叫んでみた。

 すると、俺の叫び声を打ち消すように、沢山並んだ独房の奴らが一斉に好き勝手に叫び声を上げやがる。

 沢山の声の中に、ユキの声を確認することはできたが、うるさすぎてユキが何を言っているのか分からない。


「黙れ!」


 俺が怒鳴ると、仲間の叫び声はさらに大きくなる。

 あまりの騒音に頭痛がしてきた。

 体もまだ、だるい。

 とりあえず、騒ぎが収まるまで寝ることにした。


 しばらく寝ていると、辺りが静かになっていた。

 左隣の奴にユキのことを聞くと「惚れてんのか」と見当違いな答えだけ帰ってきた。

 右隣の奴にも同じことを聞いてみたが言葉が通じないのか、既に死んでいるのか答えは返ってこなかった。

 翌日は監視人付きで、外での運動を牢屋の並び順に行った。

 運動と言っても、散歩程度。

 その交代の時に、昨日返事をしなくて死んだのかと思っていた右隣の牢屋の奴にユキがもうここにいないことを知らされた。

 しかし俺は昨日雑踏の中でハッキリとユキの声を聞いた。


 ”処刑”


 思わず、その言葉が頭を過る。


「ユキは死んだのか?」


「わからない。でも昨日、お前が寝ている間にユキは連れていかれた」


「どこへ?」


「わからない」


 せっかく、ここまで来たというのに。

 俺は泣いた。一日中。

 それからは生きる気力もなく、死刑執行を待つだけの生活を送っていた。

 右隣の奴は年老いていた。

 そしていつの間にかいなくなった。

 それを左隣の奴が処刑されたのだと教えてくれた。


“次は俺の番だ……”


“俺は、いったい何をするためにここへ来たのだろう……”


 後悔だけが、残る。

 生きることを諦め、ユキとの思い出に浸る。

 一緒に公園をデートしたこと。

 喧嘩した時のこと。

 はじめて出会った時のこと。

 なかでも喧嘩した時のことが特に懐かしく思った。

 ユキはいつも良く澄んだ高い声で俺に嚙ついてくる。

 俺はいつもそれを面倒くさそうに聞いていて、たまに我慢できなくて怒るとユキは決まってバツが悪そうに俺に甘えてきた。

 思い出に浸って、にやけていたら急に牢屋の扉が開けられ外に出るように言われた。


 殺されると分かっていても、もう逆らう気力も出てこない。

 いよいよこの命ともおさらば、か……。

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