沈黙の七日間
木々が生い茂った森の中は逃げるのに好都合で、負け犬に成り下がった俺は、難なく逃げることが出来た。 いや、逃げる事しか出来なかった。
暗い森の中で、疲れた体を休めるため横になったとき、ようやく自分の犯した罪を嘆いた。
“俺は恋人を置き去りにして、独りで逃げたのだ!”
戦って、戦って、戦い抜いて、俺が捕まる隙にユキを逃がすことが出来たのではないだろうか……。
いくら悔やんでも、時間は元に戻せない。
次に俺は何をするべきだろう?
新しい彼女を見つける?
それは下種野郎に成り下がる事。
そこまでは成りたくはない。
俺に出来ること、それはユキを助けること。
“でも、どうやって?”
奴らに捕まったら体のいたる所を検査され、注射や手術をされた挙句、概ね一か月ほどで殺されると仲間から聞いたことがある。
つまり本気でユキを助ける気があるのなら、余り時間がないということだ。
あれから俺は奴らから隠れるように、七日間森の中に身を潜めている。
もちろん隠れているのは、それだけではない。
あの警棒で、ぶん殴られた脇腹が痛くて動けなかった。
一日目は、ずっとどうやったらユキを助け出せるのか考えていた。決定的な救出作戦などいくら足搔いても思い浮かばない。
二日目も三日目も、そして四日目も考えて考え抜いたつもりだったが、何も名案は浮かばない。
そして五日目になるとユキとの楽しかった日々を思い出していた。色白でクリッとした大きい瞳が可愛いとか。
スッと鼻筋が通っているのが少し生意気に見えるとか。
口角の上がった口がそれを相殺して、これがまた可愛いとか。華奢な体つきと柔軟な身のこなしは誰から見ても美人に見えるとか……。
実際に彼女は男女の性別など関係ないほどモテた。
だから俺はユキが他の男に誘惑されないように、いつも傍にいた。
自分から逃げていると知りながらも、ユキとの思い出ばかりを追っていて、ユキが捕らえられた場面だけは思い出さないでいた。
六日目はただ腹が減ったことばかり考えていた。
空腹に襲われて、ひとつだけ思うことがある。それは、命を捨てても君を救うなんて言葉は嘘だと。
そして七日目になると、なにも考えられなくなった。