軍服の男たち
「ふん。馬鹿な奴等め」
軍服の男は、俺たちの目の前を、気が付きもせずに通り過ぎて行った。
「危なかったね。それにしてもアキラはいつでも用心深いから助かるわ」
「なあに、俺さまは人一倍鼻が利くからな」
折角の散歩が台無しだと思っていたところに、ユキが褒めてくれて、俺は機嫌を取り戻した。
今思えば、気を緩めるのが早かった。
急に煙たい嫌な臭いがキンモクセイの香りを消した。
野焼きだ。
この季節は、農家の人達があちらこちらで枯草を焼く。
こうなると敵の気配も、その煙の中に隠れてしまう。
なのに、ユキに褒められて上機嫌になった俺は、迂闊にも雑木林から道に戻ってしまった。
「いたぞぉ!」
道に出た途端、軍服の男と出くわした。
初歩的な事を忘れていた。軍人は一人では行動しないこと。
いつの間にか武器を持った3人の軍人に囲まれていた。
逃げ場はない。
逃げるためには、突破口を見い出さなければ……。
俺は敵の動きに注意しながら、ユキを守るように前に立ち奴らを威嚇して時間を稼ぐ。
そして見つけた。
いちばん動きの鈍い奴を。
「ユキ、俺が走ったら付いて来れるか?」
「うん。やってみる」
「じゃあ“いち、にの、さん”で、走るぞ!」
「はい」
「いち」
「に」
「さん!」
俺は勢いよく走り、まんまと動きの鈍い奴をすり抜けることに成功した。
“ユキは!?”
振り返ろうとした矢先、ユキの悲鳴が届く。
「キャー!!」
振り向いた眼に見えたものは、敵の網にかかり取り押さえられているユキの姿。
慌てて助けようとした俺に、敵の“警棒”が襲い掛かる。
「アキラ!逃げて!!」
逃げられるものか!
警棒を避けて、敵に襲い掛かろうとした俺の体に、もう一人の敵が振りかざした警棒が俺を襲う。
「私に構わず逃げて!」
迂闊にもユキに目を奪われた瞬間、警棒が俺の脇腹を襲い、俺は怯んでしまった。