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奴隷市での、ユキ

 結局、所長の判断でユキと俺は何の咎めもなし。という言うことになった。

 所長の恩情で、何一つ変わらない元の暮らしに戻った俺たち。

 ユキは以前の明るさのまま、奴らの指示にも従順に従っている。


 ただし、これには条件がひとつ付け加えられた。

 それは、俺のいるときだけ。

 惚れた女に、そこまでされちゃあ男冥利に尽きるものだが、逆に俺の居ない所では不機嫌な態度になる。


 嬉しい事は確かだが、しかし何故だか分からないが、そのことが俺は不安でたまらない。


 あれから三回の奴隷市が開かれた。

 過去三回、ユキはいつもの明るさを消すように用心深く振る舞っていた。

 その姿は奴隷市に来る奴らにとって神経質で扱い難く映り、敬遠され、いまだに引き取り手が決まらない。


 牢に叩き込まれている以上、俺たちはタダメシ喰いだ。

 何度も買い手から見放さる行動をとっているユキが心配になる。

 せっかくここまで来たのに、いつまでも決まらなければ、不適格の烙印を押されて処分棟に戻されることもあるかも知れない。


 しかし四回目のこの日のユキは違った。

 このユキにとっての4回目の奴隷市は、訓練を終了した俺が出る初めての奴隷市でもある。

 どうしたら良いのか分からずに戸惑っている俺の傍にユキは寄り添ってくれ、相手に良い所を見せるための奴隷市なのに、俺にベッタリ。


「おい。人前でイチャイチャする奴があるか」


 俺がいくら注意しても「だって、もう死ぬかも知れないんだから好いじゃない」


 なんて甘く色っぽく囁いてきて、俺の理性も飛びそうになる。

 周りから見れば俺たちはバカップルそのものだ。

 案の定、その日もユキの買い手はいなかった。


 奴隷市には決まりがある。

 それは一人一回だけ。

 つまり、強制労働や、転売目的の業者を締め出すことだとユキから教えてもらっていた。


 ユキにとって五回目の、そして俺にとって二回目の奴隷市の日がやって来た。

 その日は、いつにも増して沢山の奴らが集まっていた。

 そして、ユキの態度もいつもとは違った。

 どうやらお目当ての人間を見つけたらしい。


 ユキのお目当ては、若いカップル。

 女のほうは前に来たので見覚えがあった。

 しかし、男の方は知らない。

 ユキは俺をそのカップルの前に連れて行き、しきりにこの二人の前でバカップル振りをアピールする。

 若い男女は、俺たちを見て笑っていた。

 特に女のほうは、何が気に入ったのか俺を指さして大笑いをしていた。


「笑いもんじゃねーぞ!」


 俺は時折ガンを飛ばすが、それが女にとっては面白いらしく、笑いのボリュームを上げるだけになってしまう。


「いい加減にしやがれ」


 俺が諦めて、ふて寝を決め込むと、女は優しく俺の頭を摩ってくれて、これが妙に落ち着くというか、気持ち好い。

 撫でられるままおとなしくしていると、ユキが割って入る。

 女の前で、ユキはいちゃ付いて来る。


「よせよ、人の見ている前で」


「嫌よ」


「なんで?」


「だってアキラのこと好きなんだもの。このままだと、この女にアキラのこと取られちゃうじゃない」


 女にここまで言わせるなんて、俺は何て罪作りな男なんだろう。

 ひとり自惚れながらユキを抱いていた。

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