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捕縛

「俺と一緒に生きてくれ」


「アキラ……あなた、おじけづいたの?」


 俺の言い分は、ユキの言う通り、おじけづいたとしか受け取れないだろう。

 だが俺は、おじけづいてなんかいない。

 どんなに虐待されようとも、自由に生きて行く望みを捨てたわけじゃない。

 もしも俺一人が掴まっていたなら、さっきの柵なんか飛び越えて、のうのうと逃げ遂せただろうし、そもそも奴らに捕まるようなへまはしない。


「言っておくけど、一度奴隷として売られたら最後、もう一緒には生きられないのよ」


 俺が黙っている間に、ユキはユキなりに妥協点を探してくれていた。


「一緒には生きられなくても、それでも俺は……俺はユキに生きていて欲しい。ユキが生きているから、俺の……俺の、この世界はあるんだ! だからこれから先、何があってもユキはおとなしくしていてくれ」


 俺の必死の説得にユキは納得してくれて、俺たちは建物の影から出て、キチンと座って奴らを待った。


「ちくしょう。手こずらせやがって!」


 軍服の男が俺に向かって、棒を振り上げた。


 どんなに痛くても我慢をする。たとえ死んだとしても。

 俺が抵抗すると、ユキも叩かれる。

 あくまでも、俺は主犯として全ての罰を受け入れる。


「まあ待ちなさい」


「所長!」


 振り上げた棒を止めた人物は、この施設の所長。


「でも。こいつ、このメスを捕まえたときに、暴れて取り逃がした奴です。実に凶暴な奴です!」


「……そうか、じゃあ君はこの子を取り戻すためにワザと捕らえられて、ここに来たと言う事になるのかな?」


 所長が、俺の顔を覗き込んでニヤッと笑う。


 俺は何も答えない。

 答えたことが、俺たちにとって不利になる場合も有るから。

 俺がいま演じなくてはいけない役柄は、こいつらに脱走が俺の単独行動道であり、ユキはあくまでもその道連れにされたことにしなければならない。


 ガチャッ。


 俺たちは別々に、鎖に繋がれた。

 俺は逃げようとして暴れた。


「この野郎! まだ逃げるつもりか!」


 軍服の男が、こん棒を振り上げる。


「待ちなさい」


 落ち着いたまま、所長が再びその行動を制して、俺の顎を掴んで言った。


「演技は、やめなさい。 本当に逃げる気なら、鎖に繋がれる前に逃げようとするモノだろう」


「……」


 完全に読まれている。

 確かに本気で逃げる事を考えていれば、鎖に繋がれる前にもうひと暴れしてみせれば、俺かユキのどちらかに逃げるチャンスが訪れたかも知れない。

 そうしなかったのは、俺一人で逃げのびることを放棄していた事だけではなく、もしもユキがここで軍服の男たちの隙間から逃げることに成功したとしても単独では柵を越えることはできないと分かっていたから。


 つまり、ユキが動いた場合、完全に俺の単独犯という構想は崩れ去るのだ。

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