脱走の罰は、”死”
ユキの目の前で華麗にジャンプを決めた。
そして、その向こうには最後の柵。
「一気に行くぞ!」
「ハイ!」
自由は直ぐそこに在る!
と、俺たちは思っていた。
しかし、現実は、そう簡単にはいかなかった。
最後の柵の向こう側に現れたもの、それが俺たちを絶望させた。
俺たちが走って逃げるのを捕獲車両が先回りして来て、そこから数人の軍服の男たちが武器を持って飛び降り、俺たち目掛けて走って来る。
俺だけなら、なんとかなるかも知れない。
全力で走って、思いっきりジャンプすれば、そこは自由。
しかし、足の遅いユキは逃げられないだろう。
“脱走は死!”
ユキに聞いた言葉を思い出す。
俺だけ逃げ遂せたとしても、もうリベンジはない。
「ユキ!こっちだ!」
広場の向こうに小さな小屋が2棟並んでいる。
ユキと俺は柵を諦めて小さな小屋の隙間に潜り込む。
「アキラ、逃げて。あのくらいの柵なら越えられるでしょ」
「俺は、もう逃げない。それよりもユキに大事な話がある」
ユキは首をかしげて素直に「なに?」と返事をした。
このユキの仕草が可愛くて思わず抱きしめたくなるが、今はいちゃ付いている場合じゃない。
時間がないので、直ぐに本題を言った。
「ユキ、どんな仕打ちを受けたとしても、我慢して生きてくれ」と。
ユキは俺の言葉に、丸くて大きい目を驚いたように見開いて言った。
「嫌よ。もう偽りの生活はしたくない」
ユキの気持ちも分かるが、それでも俺は言わなければならない。
“生きてくれと”
脱走は死。
もしも、それが事実だとしても、ほんの少しでもチャンスが貰えるとしたら、それに掛けるしかない。
それは、奴らの全てを素直に受け入れ、従順な僕になる事。
「もう、裏切られるのは嫌」
「ここから逃げ出すのは不可能だ。もう一度ここで優等生になれば生きられるかもしれないし、裏切らない主に出会えるかも知れない」
「アキラ。私に前の生活に戻れと言うの?」
「それしか生きる道はない」
残酷だけど、本当にそれしかない。
ユキは少し黙ったあと、もう一度言った。
「嫌よ」と。




